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元木 3 お題スゴロクチーム戦開始前

 高校入学から1カ月が過ぎ、生徒会の仕事も先輩たちに教えられながら少しずつ慣れてきた。

 先輩たちがしっかりと仕事をこなしていく中、雑用要員と聞いていた但馬先輩は今のところ生徒会室の掃除くらいしかしていない。それどころかたまに生徒会室に来ては暇な誰かを誘いバックギャモンやトランプなどで遊んでいる。


 そんなある日、また皆でゲームをやることになった。

 この前言っていた生徒会の先輩が作ったスゴロクとやらをやるようだ。


「俺はやらねぇぞ」

「駄目だよ。但馬が参加しないのなら生徒会の手伝いをサボったって林先生に報告するからね」

「はぁ!? それはズルいだろうが!」

「だから但馬も参加すること。いいね?」

「ちっ……」

「8人は多いから2人1組のチーム戦でやろう。男子4人女子4人だから男女も学年も別々同士で組むからね」


 !!

 それなら美冬先輩と組めるチャンスだ!!


「くじ引き作るの面倒だし指名制でいっか。茜は誰と組みたい?」

「え、アタシですか?」

「うん、1年生優先かつレディファーストってことで。俺か但馬か隈坂の誰がいい?」

「えーと……ならカオルン先輩で!」

「えぇ、俺かよ……」

「仲良くしましょうよカオルン先輩!」

「その呼び方やめろ」

「カオルン先輩だってアタシのこと茜って呼んでくれないじゃないですかぁ〜」

「なら茜って呼ぶからその呼び方やめろ」

「いやですよぉ〜だ」

「この!」

「いやーー!」


 茜と隈坂先輩がじゃれ合い始めた。


 茜はものの数日で先輩たちと距離を縮め、あっという間に仲良くなってしまった。

 先輩たちは茜のことを名前で呼び、茜も先輩たちのことをあだ名で呼んでいる。

 そして自分と茜もお互い『茜』『コーイチ』呼びなので、茜に便乗し自分も筑紫先輩のことを『美冬先輩』と名前で呼ばせてもらえることに成功した。おまけに向こうからも『光一』呼びだ。一応カモフラージュで菱川先輩のことも『秋陽菜先輩』と名前呼びにしているため、周りから怪しまれることはないだろう。

 なので『美冬先輩』と呼べるのは茜様々といっても過言ではない。今度テスト前に泣きついてきたときは優しく勉強を教えてやることにしよう。

 他の先輩たちは苗字呼びの方がいいと言われたので、お互い苗字で呼び合うことになった。


 自分も早く美冬先輩ともっと親しくなりたいのだが、その為にはこのゲームで美冬先輩と同じチームになるのが手っ取り早いだろう。

 しかし周りから変な勘繰りをされないよう美冬先輩を指名する理由を急いで考えなければ……。


「フフッ、あなた生徒会長なのに但馬はまだしも隈坂にも負けてるわよ」


 越後先輩が古賀先輩をからかう。


「別に茜に指名されなかったからって隈坂に負けたわけじゃないでしょ!」

「おい! 俺はまだしもってどういう意味だ!」


 いや、但馬先輩もだったか。


「隈坂が茜とペアなら必然的に私のペアは元木で決まりね」


 ……あーーー!!!

 そうか!! そうなるのか!!

 茜、お前のせいだぞ!!

 何故隈坂先輩を選んだんだ!!

 くそ、勉強を優しく教えるのはやっぱりなしだ!!

 しかしこれはもう受け入れるしかあるまい……。


「……よろしくお願いします越後先輩」

「なんか元気ないけど私じゃ不満?」

「いえ、そういうわけでは……」


 態度に出てしまっていたか……。

 別に越後先輩が嫌というわけではないのだが……。


「ハハハ、お前は怖いから嫌だとさ」

「は? また喰らいたいの?」

「い、いや、冗談だ……」

「菱川と筑紫は俺と但馬どっちがいい?」

「私は古賀先輩の方がいいです。というより但馬先輩と組みたくないです」

「俺だってお前みたいなちんちくりん御免だっての」

「ほらー! そういうところですってば!」


 ちんちくりん可愛いですけどね。


「なら美冬と古賀先輩、私と但馬先輩でペアを組みましょう。よろしくお願いしますね但馬先輩」

「ああ、菱川ならまだマシだな」

「ちょっと、それ私たちはハズレってこと?」

「そうは言ってねぇだろ……。いちいち俺を睨むなっての……」

「じゃあ俺は筑紫とペアだね」

「はい! よろしくお願いします古賀先輩!」


 ということで流れで組む相手が決まってしまった。

 茜は後日数学地獄の刑に処す!!


「じゃあルールを説明するね。普通のスゴロクと同じようにサイコロを振って出た目の数だけ進めていくんだけど、マスにはそれぞれお題が書いてあってそれをこなして点数を増やしていくんだ。だからゴールした順番じゃなくて持ち点で順位を決める。どこかのチームがゴールしたら終わりだからその時点で点数が1位のチームが勝ち、最下位のチームが負け。ということで昨日考えたんだけど、1位の2人は夏の部活の見回りを文化部、最下位の2人は運動部ってことにしよう」

「えー!」

「げ! マジですか……」


 美冬先輩と隈坂先輩が声を出してリアクションした。

 どうやら美冬先輩は最下位になるのを避けたいらしい。


「ユッキー先輩、部活の見回りってなんですか?」

「それぞれの部活がきちんと活動しているかとかを見て回るんだ。それと各部室を見たりね。たまに抜き打ちでやってるから、そのときになったらいろいろ教えるよ」

「菊池! 夏の運動部の見回りは暑くて超だるいから、絶対最下位は避けるぞ!」

「アハハ、普段やる気ないカオルン先輩が必死になるってことは相当ってことですよね。一緒に頑張りましょ〜」

「だから男女も学年も別にしたのね。元木、1位目指すわよ」

「はい、わかりました」

「……菱川、あれ俺も前やったけどよ、夏はヤバいのか?」

「私去年の夏に運動部回りましたけど、あれは暑くて辛いんでもうイヤですね……」

「おい古賀」

「駄目だよ、但馬は雑用要員なんだから拒否権無し」

「ちっ……ま、勝ちゃいいか」


 暑い中の運動部の見回りを他の人たちは避けたいらしいが、その程度であれば自分は全然嫌ではない。

 むしろ美冬先輩と同じ担当になれるかの方が重要だ。


「さてと、チーム分けもルール説明も済んだしそろそろ始めよっか。駒は〜……そうだ無いんだった……」

「あなたが用意しなかったからでしょ」

「……将棋の駒でいい?」

「私将棋知らないんだけど」

「私も知りません」

「私も」

「アタシもで〜す」

「……小銭でいっか。ちょっと待ってて〜」


 古賀先輩が自身のバッグから小銭を取り出そうとしていると、越後先輩がこちらへ近付き周りに聞こえないよう小声で話し始めた。


「元木、私たちが1位になれなくても古賀と筑紫ペアを最下位にするわよ」

「……それは何故ですか?」


 自分も小声で返す。


「説明は省くけれど、部活の見回りは古賀が運動部担当になれば自動的に私は文化部担当になるの。逆も然り。だから私的にはこっちが最下位じゃなくてもあっちが1位なのはダメ。それと茜が最下位で運動部担当になってもあなたが自動的に文化部担当になるわけじゃないわ。だから1位を狙いつつ、私優先で古賀ペアの最下位も狙う。いいわね?」


 この前あんなシーンを目撃しておいてこの提案を断れるわけはない。だが断る必要もない、賛成だからだ。

 自分が運動部担当を避けたいと思っている点については誤っているが、わざわざ訂正せずとも良いだろう。


「わかりました」

「ならそういう方針でよろしく」


 自分本位で考えると、向こうが最下位で美冬先輩が運動部担当になるのであれば、仮にこちらが1位を取ったとしても自分から進んで運動部担当になればいいだけのはなしだ。皆やりたくないのであればその提案は通るだろう。理由はどうとでもなる。

 そして向こうが1位の場合は美冬先輩が文化部担当になるわけだが、こちらが4位以外でも自分が同じ文化部担当になるかはわからない。いや、自己紹介で体力には自信があると言った以上運動部担当になりそうな気がする。なので向こうが1位なのは駄目だ。

 つまり越後先輩とは思惑が一致している。

 スゴロクの内容がどんなものなのかまだわからないが、越後先輩の提案から察するに向こうの最下位を狙うことはある程度不可能ではないのだろう。

 

「俺たちは500円玉で〜、他のペアは何円玉にする?」

「わかりやすく順番どおりで安い順にしたら? 1年生優先ってことで茜·隈坂を1番目スタートにして1円玉、私と元木が2番目で5円玉、あなたたちは500円玉だから最後ね」


 越後先輩がさりげなく美冬先輩と古賀先輩のペアのスタート順を最後にしつつ、自分たちを2番目スタートにした。

 スゴロクと言っている以上、手番は先の方が有利なのかもしれない。


「……5円玉ないや」

「別に安い順ならなんでもいいわよ」

「じゃあ越後と元木は10円玉で、菱川と但馬が100円玉ね。越後、その中からサイコロ取って」

「はいはい」


 越後先輩がダンボールの中を漁るが、なかなかサイコロが見つからない。


「……ないわね。また消えたかしら……」


 消える?


「え、また!? あのサイコロ度々消えるよなぁ……」

「消えるとはどういうことですか?」

「えーと、この中にサイコロがあったはずなんだけど、それがたまに消えるんだよね。で、何日か経つとまたあるんだよ。そしてまたいつの間にか消えてる。それの繰り返し。誰かが勝手に持ち出してるのかな? 但馬……なわけないし、越後?」

「私じゃないわよ」

「誰だろうね?」

「……バックギャモンのサイコロ使いましょう」

「おい! それ俺のなんだから使ったら絶対元に戻せよ!」

「わかってるわよ」

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