元木 2 あだ名
「筑紫、隈坂、その2人は新しく生徒会に入る1年生なんだ。俺たちの自己紹介は終わったから2人も自己紹介をしてくれないか」
「はい、わかりました! 私は2年3組の筑紫美冬だ、よろしくな!」
あの先輩だ。
とても背は小さいのにハキハキとした感じがとても可愛らしい。
あのときも他の生徒より人一倍大きな声を出して挨拶をしていた。自分はあの姿を見てこの小さな先輩を愛おしいと思ったのだ。
「俺は2年の隈坂……。よろしく」
もう1人の男子の先輩がだるそうに自己紹介したが、自分はずっと筑紫先輩のことしか見ていなかった。
「アタシは1年2組の菊池茜です。茜って呼んでください。よろしくお願いします」
すっかり自分の自己紹介を忘れてしまっていた。
慌てて自分も自己紹介をする。
「元木光一です! よろしくお願いします!」
「……お前さっきからずっと私のこと見てるけど、なにか言いたいことでもあるのか?」
マズい……。
まじまじと見ていたのがバレてしまった……。
誤魔化すしかない……。
「……身長はおいくつなのかなと思いまして」
「おい! 女子に身長を聞くのは失礼だろうが!」
怒られてしまったが、怒っているところも一生懸命に見えてとても可愛らしく思えてしまう。
「すみません、それは初耳です。失礼しました」
「ハハハ、そいつの身長は俺の半分だ!」
「但馬先輩! だからそんなわけないって何回も言ってるでしょうが!」
「では3分の2くらいですか?」
「もっとあるっての! お前初対面の先輩相手によくそんなこと言えるな!?」
「すみません、悪乗りしてしまいました」
つい但馬先輩に続けて口から出てしまった。
男子小学生が好きな女子に対して意地悪をするという気持ちがなんとなくわかった気がする。
「おい古賀、全員揃ったが今日はなにをすんだ?」
「今日はただの顔合わせだけだから特に仕事はないよ」
「なら俺帰っていいか?」
「駄目だよ。これから半年間一緒にやっていくんだから、親交を深めるためにみんなでなにかやろう」
「ちっ……」
「なにがいいかな〜」
古賀先輩がウキウキしながら隣の部屋に入り、抱えて持ってきたダンボールを机の上に置いた。
中を見てみると将棋やオセロといったボードゲームやトランプにけん玉にルービックキューブなども入っている。
「なんで将棋はセーフで麻雀はダメなんだよ」
「んー……イメージじゃない? 麻雀は大人が賭けでやってるイメージがあるから?」
「金は賭けてなかったっての」
「それに将棋は将棋部があるからかもね。但馬も麻雀部でも作ってみたらどうだい? それなら麻雀もセーフになるかもよ」
「そんなん作るかっての」
「全員で8人か……どうしよっか」
「これは?」
越後先輩がダンボールの中から畳んである紙を2枚取り出した。
「それはもう少しお互いのことを知ってからにしようか」
「なんだそりゃ?」
「生徒会の先輩が作ったスゴロクだよ。そっか、但馬はやってないんだよな」
「スゴロクだぁ?」
「面白いから今度但馬も一緒にやろう」
「そんなんやらねぇよ」
「そんなこと言わずにさぁ。ならジェンガはどう?」
「ジェンガなんか手がデカい俺が不利に決まってるだろうが! やらん!」
「えぇ……そんな理由で断る人初めてだよ」
「元木、お前バックギャモン知ってるか?」
「はい、知ってます」
父方の祖父母の家にはいろいろなボードゲームがあり、自分と弘和と晴久は祖父に将棋や囲碁などのルールを教えてもらった。そして麻雀もバックギャモンもやったことがある。
「よし! ならバックギャモンで勝負だ!」
「わかりました」
「バックギャモンだって西洋双六なんだからスゴロクじゃない」
「うるせぇ。スゴロクをやらねぇとは言ってねぇだろ」
「じゃあ俺たちはジェンガをやろうか。これならルールも簡単だし、全員参加できるしね。机移動させよっか」
自分と但馬先輩はバックギャモン、他の6人はジェンガをやることになり、但馬先輩以外の皆で机を移動させる。
「菊池さん、真ん中どうぞ」
「は、はい、失礼します」
菱川先輩に促され、茜は真ん中に座った。
但 菱菊筑
つくえつくえつくえ
元 越古隈
「俺が先攻な」
「負けた人は罰ゲームね。なにがいいかな〜?」
但馬先輩が勝手に先攻でゲームを始め、古賀先輩がウキウキしながらジェンガを立てた。
「ちっ、1と3かよ!」
「菊池はなにがいいと思う?」
古賀先輩が茜に話を振った。
そういえば茜が随分とおとなしい。初対面の先輩たちに囲まれて緊張しているのだろうか? 慣れてくればもっと素を出せるようになるだろうから心配はしていないが。
「デコピンとかどうですか?」
「デコピンか、いいね。ならそれで決定ってことで」
「えー! 男子のデコピンは痛いからイヤですよ!」
筑紫先輩がデコピンを嫌がったが、デコピンをくらって痛がる先輩も見てみたい気もする。
「なら女子が倒したら俺と隈坂は左手の小指でやろう。それでいいよね?」
「……はい、それなら」
「じゃ、始めよっか。俺から時計回りね」
古賀先輩からジェンガがスタートした。
但馬先輩とバックギャモンをやりつつ、隣も気になるのでチラチラと横目で様子を窺う。
最初の方は簡単なのでスイスイと進む。
バックギャモンも面白いが、正直なところ自分もあちらに参加したかった。バックギャモンなんて知りませんと嘘を吐けば良かっただろうか。
「元木お前、さっきよく俺にビビらなかったな」
「まだまだ簡単だな。次隈坂だぞ!」
「剣道で相手にビビっていたら全く試合になりませんから」
「……これで1周っすね。古賀先輩どうぞー」
「ほう、成程な、度胸はあるようだ。あっちのやつらとは大違いだな。隈坂なんぞは腰を抜かしていたからな」
「ちょっと但馬先輩! それ後輩の前で言わないでくださいよ!」
「ははははは! 危な!」
隈坂先輩が勢いよく立ち上がり大声で返した。
先程のだるそうな感じはどこへいったのか?
そして古賀先輩は笑い出し、危うくジェンガを崩すところだった。
「古賀、笑ってるがお前だって俺と初対面のとき口あんぐりさせて10秒近く硬直してただろ」
「ちょ! 俺もう生徒会長なんだからそんなダサいエピソード話すなよ!」
「フフッ!」
「アハハハハ!」
「あはははは! 古賀先輩も隈坂と同じレベルじゃないですか!」
越後先輩が口を抑えて笑いを堪え、茜と筑紫先輩は大声で笑い出した。
筑紫先輩が無邪気に笑っている姿を見ることができただけでも生徒会に入った甲斐があるというものだ。
「ほら、越後の番だぞ! 笑ってないでさっさと進めて!」
「フフッ……あなたも但馬にビビってたなんてね」
「くそ、後輩にも笑われちゃったよ……。但馬のせいで俺の生徒会長としての威厳なくなっちゃったじゃん!」
「んなもん最初からねぇだろうが」
越後先輩が手を少し震わせながら自分の番を終わらせる。
次の菱川先輩はスムーズにジェンガを引き抜き上に置いた。
次は茜の番だ。
「はい、次菊池さんね」
「あの……アタシのこと茜って呼んでくれませんか? アタシ下の名前で呼ばれる方が好きなんです」
「自己紹介のときもそう言ってたね。なら次からそう呼ばせてもらっていいかな?」
「はい、アタシそっちの方が嬉しいです。それでアタシ人のことあだ名で呼ぶの好きなんですけど、先輩たちのこともあだ名で呼んでいいですか?」
いつもの茜らしくなってきた。
どうやら笑ったことでリラックスできたようだ。
「んー、いいんじゃないかな? 例えば?」
「古賀先輩はえーと……雪成なんでユッキー先輩とかどうですか?」
「ユッキー先輩か、別にいいよ」
「茜ちゃん、私は?」
「菱川先輩は……ヒナヒナ先輩で!」
「ふふっ、いいわよ」
茜は人の名前を覚えるのが得意なので、おそらく1回で全員のフルネームを覚えたのだろう。
「私は?」
「筑紫先輩はミフユン先輩!」
「うん、別にそれでいいぞ」
「俺はそのままで……」
「なに言ってるんだ隈坂。全員あだ名を付けてもらおうよ」
「えぇー……」
「そういえば隈坂先輩の下の名前はなんですか? さっき自己紹介のとき言ってませんでしたよね? アタシ下の名前も知りたいんですけど」
「……」
隈坂先輩が黙っていると古賀先輩が答えた。
「薫だよ」
「ちょっと! 勝手に言わないでくださいよ!」
「ならカオルン先輩で!」
「ほらー! だから嫌だったんだよ!」
どうやら隈坂先輩は下の名前が好きではないようだ。
苗字が嫌いな茜とは逆ということになる。
「それで但馬先輩は……えーと……」
茜が迷っていると越後先輩がテキトーにあだ名を付け始めた。
「アンタはタジタジでいいじゃない」
「ふざけんな! なんで俺がタジタジなんだ! ビビってるみたいじゃねえか! タジタジだったのは古賀だろうが!」
「それもういいからー!」
「フフッ……ならウジウジでいいじゃない」
「だからそれは俺じゃなくて隈坂だろうが!」
「別に俺ウジウジしてませんって!」
「なら但馬長次郎だから……マッチョ先輩で!」
「マッチョ先輩だぁー!?」
「但馬はマッチョっていうよりデカいってイメージだけどね」
「……ま、俺のフルネームに小さい『つ』を入れるのはまだマシだよな。なんせ越後のフルネームに小さい『つ』を入れちまったら『エッチ後強化』『エッチ5教科』になっちまうからな! ハハハハハ!」
「……殺す」
但馬先輩が笑っていると、隣から小さな声でとても物騒なワードが聞こえた。
そして越後先輩が座っていた椅子を頭の上に持ち上げ、但馬先輩に近付いていく。
「お、おいおい、冗談だ、冗談だっての! 流石の俺でも椅子で人をブン殴ったことはねぇぞ! 悪かったっての!」
「……そうね」
椅子を下ろし但馬先輩が一安心した瞬間、越後先輩が思いっ切りビンタをくらわせた。
パシンッ!!
「ぶっ!!」
但馬先輩はぶたれた左頬を手で押さえ顔を下に向けた。
そして怯んでいる但馬先輩の右足を椅子の足で思いっ切り踏みつける。
「いでーーー!!!」
いくら上靴の上からでもあれはかなり痛いだろう……。
「……さ、続きやりましょう」越後先輩が静かに椅子を置き皆の方を向くが、ジェンガが倒れてしまっている。おそらく越後先輩が但馬先輩へ近づいたとき足が机に当たってしまい倒れたのだろう。
「……最初からでいいわよね?」
「……うん、そうだね……」
越後先輩のせいで倒れたなどと誰も指摘できるはずもなく、ジェンガは最初からやり直すことになった。
「……但馬先輩の番ですよ」
「ちょっとタンマ…………」
「……そうだ、元木のあだ名も決めないとね」
「コーイチはコーイチです」
「コーイチ? 下の名前そのまんまだね。なんであだ名じゃないの?」
「アタシとコーイチは従兄妹同士で子供の頃からの付き合いなんです。昔っからコーイチって呼んでたんでそのままコーイチになりました」
「へぇ、元木と茜従兄妹なんだね」
「でもコーイチってあだ名面白くないですか? 小学生のときは小1なのにコーイチ、小6なのにコーイチ。中学に上がっても中1なのにコーイチ。そして今は高1でコーイチ」
「ははは、成程ね」
「それと苗字が元木だからコーイチもどきって呼んだり」
「茜はそのイジり何回もしてくるんですよ。でも今は本当に高1なんで今年はされないで済みますけどね」
「2年になったらまたしてあげる〜」
「するな」
その後リスタートしたジェンガは茜が倒してしまい、結局自分でデコピンをくらう羽目になっていた。
そしてバックギャモンはこちらの快勝に終わった。




