元木 1 入学
高校入学初日、登校した生徒に向けて校門前で挨拶運動をしている生徒の中の1人に目を奪われてしまった。
今まで好きだの恋だのといったものに関して自分は無関係だったのだが、自分の中に芽生えたこの感情がそういった類のものなのだと一瞬でわかってしまう程の衝撃だった。
挨拶をしていた生徒たちは生徒会に所属をしている生徒らしく、それを知った瞬間自分も生徒会に入ることを即決した。
生徒会に入ることを茜に伝えると「ならアタシも入ろっかな〜。生徒会って頭いいイメージあるよね〜。そういう人たちと一緒にいればもしかしたらアタシも頭よくなるかも〜」実に茜らしい返事が返ってきた。
翌週、担任の林先生に「元木、お前生徒会入るんだよな? だったら今日の放課後生徒会室に行くように。お前と同じ中学で1組の菊池も入るみたいだからよろしくな」そう伝えられた。
放課後になり茜と一緒に生徒会室へ向かう。その途中で茜が「キッキーとミカリンも生徒会入るかな?」と言い出した。
……誰だ?
茜のあだ名が誰のことを指しているのかわからないことがたまにある。今言ったミカリンもそうだ。
「神崎と誰だって?」
「ミカリンは吉野さんだよ」
「ああ、吉野か」
中学では神崎が生徒会長、吉野が副会長を務めていた。だから茜は高校でもその2人が生徒会に入ると思ったのだろう。
「どうだろうな。すぐに入らなくてもあとから入るかもしれないぞ」
「そうだね。……あー、ちょっと緊張するなぁ〜」
自分も少し緊張している。生徒会室に行けばあの先輩に会えるという期待がそうさせているのだろう。
こんな感情を抱えていることを茜やあの先輩や他の生徒会の人たちに知られるわけにはいかないが、おそらくそこは大丈夫だろう。
というのも自分は昔からふざけたり馬鹿なことをするのが好きなのだが、そうではないとき、つまりただ普通にしているようなときでも何故か真面目な態度をとっていると思われる節がある。自分的には真面目にしているつもりはなくとも、どうやら周りから見ればそういう風に見えているらしい。
なので表情や態度に気を配る必要はあまりない。浮つかず普段どおりにしていればバレないはずだ。
生徒会室に着いたのでノックをし「失礼します!」と一言かけてから中へ入ると、上級生らしき生徒が4人いた。男子2人に女子2人。しかしあの先輩の姿がない。まだ来ていないだけだろうか?
チラッと1人ずつ見ていくと、明らかに目立つ生徒が1人。足を組み、左前方隅の椅子にドッシリと座っている。座ったままでもわかるほど身長が大きく、何故かこちらを睨みつけてきている。
知らない間になにか失礼をしてしまったのかと考えていると、正面に座っている生徒会長の古賀先輩がこちらの様子を窺いつつ名前の確認をしてきた。
「えーと……生徒会に入る1年生でいいんだよね? 男子の方が元木光一で女子の方が菊池茜でOK?」
今日自分たちがここに来ることを事前に聞いていたのだろう。
「そうです」と一言返すだけでは味気ないので、そのまま自己紹介をすることにした。
「はい! 1年2組元木光一です! 中学時代は剣道部に所属していました! 体力には自信があります! よろしくお願いします!」
「アタシは1年1組の菊池茜です。下の名前で呼ばれる方が好きなので茜って呼んでください。中学はバレー部でした。よろしくお願いしま〜す」
「俺は3年2組で生徒会長の古賀雪成。体は大きくはないけれど、中学時代はサッカーをやっていたから俺も体力には少し自信があるんだ。これからよろしくね2人とも」
古賀先輩は部活動紹介時に生徒会長として挨拶をしていたので、先に顔と名前を知っていた。
挨拶運動のとき一人一人に対してとても丁寧に挨拶していたことも覚えている。
とても気さくな感じがする生徒会長で、他の生徒にも慕われていそうだ。
「私は副会長の越後京華。よろしく」
副会長はとてもシンプルに自己紹介を済ませた。
眼鏡をかけていて目つきが鋭い。声のトーンも低く、とても真面目そうな雰囲気を漂わせている。少し取っ付き難そうだと印象を持つ人もいるかもしれない。
「私は2年生の菱川秋陽菜です。よろしくね」
こちらの先輩も簡単な自己紹介だったが、副会長とは逆にニッコリと明るい表情をしていた。
髪をポニーテールに纏め、温和な雰囲気を醸し出している。
古賀先輩と同様とても親しみやすそうな先輩だ。
6人中5人が自己紹介を済ませたので、てっきり残りの1人の先輩も続けてするのかと思いきや、何故かなにも喋らない。
「……但馬も自己紹介しなよ」
「ちっ!」
少し間があったあと古賀先輩が催促すると、その先輩は椅子から立ち上がり自分の目の前へ移動し仁王立ちした。
自分の身長は180cmあり同級生と比べれば大きい方だが、この先輩は2m近くあり、おまけに強面なのでかなりの迫力がある。
隣にいる茜が怖がっていないか少し心配になるほどだ。
しかしこんな目立つ生徒は挨拶運動のときにはいなかったはず……。
「俺は3年の但馬長次郎だ!! 言っておくが俺は生徒会には入ってねぇ!! 以上!!」
威嚇するような大声での自己紹介が終わると、元の場所へ戻り再び椅子に座った。
「おいおい但馬またかよ。いきなり下級生をビビらせるなって。……ごめんね2人とも」
「いえ、自分は大丈夫です」
剣道の試合では大声での打ち合いや威嚇のような気勢はよくあることで、自分よりも大きい相手と戦うことも当然ある。なので自分はこの程度で怯むことはない。
「前にもやったから知ってるだろ! これが俺流の自己紹介だ! 相手に舐められないようにするためのな!」
だから生徒会室に入った直後からこちらを睨みつけていたのだろう。
「大丈夫だからね菊池さん。但馬先輩は女子には怖いことしない先輩だから」
「あ、は、はい! アタシも大丈夫です! ちょっと驚いちゃっただけなんで……」
菱川先輩に優しく声をかけられたが、やはり茜は少し動揺していたようだ。それに気付いた越後先輩が「アンタのせいで後輩が萎縮しちゃってるじゃない!」と但馬先輩に対し食ってかかると「……さっきのは元木に対してやっただけだ。悪かった」但馬先輩が声量を落とし茜の方を向いて軽く謝った。
しかし生徒会のメンバーではないのに何故ここにいるのだろうか? それを聞いていいものか少し迷っていると、先に古賀先輩が説明を始めた。
「一応補足しておくと、但馬には罰として生徒会の雑用を手伝ってもらっているんだ。生徒会が現体制になってからは5人しかいなかったから人手不足でね」
「おい、こいつら増えたんだから俺いらねぇだろ? もう来なくていいよな?」
「それは駄目だよ。但馬は俺たち3年が引退するまで生徒会を手伝うって決まったからね」
「はぁ!? ふざけんな、聞いてねぇぞ!!!」
但馬先輩の怒鳴り声が響き渡る。
明らかに生徒会室から聞こえていい声量ではない。
「林先生に言われたんだよ、あと半年追加って。今日はそれを伝えるために但馬にはここに来てもらったんだ」
「ってことは丸々1年じゃねえか!! くそっ!!」
「古賀先輩、先程罰と言っていましたが、但馬先輩はなにをしたんですか?」
直接但馬先輩には聞かずに話がスムーズに進みそうな古賀先輩に聞くことにした。
「去年の秋に学校で麻雀をしていたんだよ」
「麻雀ですか……」
「コーイチ、まーじゃんってなんだっけ?」茜が小声で聞いてきたが、今は悠長に教えている状況ではないので「あとで教える」小声でそう返した。
「それが先生に見つかって生徒会を手伝うことになったんだ。但馬とその友人たち3人はそれ以前からいろいろ問題行動を起こしてしていたから、それらの積み重ねも含めてってことだね」
「それよりなんでここに来てんの俺だけなんだ? 岩山と宇津木と若林はどうした? あいつらも半年追加なんだよな?」
「いや、あの3人の手伝いはもう終わりだよ。1年生が入ってくるまでって約束だったからね」
「はぁ!? じゃあなんで俺だけ半年追加なんだよ!?」
「はぁ……それはアンタが上級生2人と喧嘩したからでしょ……」
越後先輩が呆れながら但馬先輩の方を見て言い放った。
「あれはなかったことになったんじゃなかったのかよ!? それにぶん殴ったのは卒業式終わったあとだからもう上級生じゃなかったっての!」
「上級生を殴ったんですか? よく停学などになりませんでしたね」
普通そんなことをすればただでは済まないはずだが……。
「だから上級生じゃねぇっての!」
「その先輩たちは但馬と犬猿の仲でね。但馬がこんなだから上級生からすれば気に食わなくて、日頃から但馬と言い争ったりしていたんだ。そして卒業式のあとに但馬が殴って喧嘩になった。それを俺と越後と林先生という教師の1人が目撃してしまってね。でも向こうも県外の大学入学が決まっていたし、目撃者も俺たちだけだったからお互い公にはしないことにしたんだ。だから他の先生方もこのことは知らない。でもお咎めなしってわけにはいかないから、但馬には軽い罰ってことで生徒会の雑用が半年追加になったんだ」
「軽くねぇだろ! 半年はなげえっての!」
「アンタもそのまま学校からいなくなればよかったのに」
「おい! それは俺が邪魔だってか!?」
「あら、自覚なかったの?」
先程から越後先輩は但馬先輩に臆さず物を言っている。
どうやら但馬先輩のことを全く怖く思っていないようだ。
「生徒でこの話を知っているのは、生徒会メンバーと但馬と但馬の友人3人だけだから、オフレコってことでよろしくね2人とも」
「了解です」
「わかりました〜」
「それはそうと、但馬先輩は喧嘩などふっかけずにその先輩方が卒業して学校からいなくなるのを大人しく待てばよかったのでは? 何故わざわざ卒業式のあとに殴ったんですか?」
「ちげぇよ! 元々卒業式のあとにブン殴る予定で、こっちはずっと我慢してたんだっての! あいつらにはずっと腹が立ってたんだ! 俺が麻雀していたとき折角国士テンパってたのに、他の3人に『こいつ白待ちの国士テンパイ』ってチクりやがったんだぞ! 役満は肉まん30個だったってのに!!」
「その場では殴らなかったんですか?」
「そこで殴ったら本当のこと言ってるってバレるだろうが! だからそんときは我慢したんだよ! だが結局アガれなかった上に跳満に振り込んでジュース6本奢る羽目になったから、ずっと我慢して卒業式のあとにブン殴ることにしたんだ! そのタイミングならあいつらもうここの学生じゃねぇし、おまけに大学は県外だからすぐに仕返しにも来れねぇって思ってな!」
「普通半年も経てば怒りも収まるでしょう。ま、アンタには無理だったみたいだけど」
「うるせぇ!」
コンコン
ドアがノックされ2人の生徒が慌ただしく生徒会室に入ってきた。
「すみません、遅れました!」
「あ、俺たちが最後でしたか……」




