柑那 3 気になるあの人
写真展示を見終わったあとは再び校内をブラブラと回る。そのついでにもう一度調理実習室に行ってみた。
「ヤバ! これ焦げちゃってるよ!」
「このあとどうすればいいの?」
「ちょっと、まだ食べちゃダメだってば!」
「あー! 落ちちゃったよ!」
「ねぇ、果物なくなってきてるよ、どうする?」
「えぇー! もう!?」
「うちのクラスに沢山バナナ持ってきた人いるのでその人から貰ってきます!」
「なんでそいつバナナ持ってきてんの?」
「ウケる」
「バナナより苺がいいなー」
「苺なんて最初から無いっての」
「隙ありー!」
「ちょ! それあたしの!」
「私包丁使えないんだけど……」
「あはは、口にクリーム付いてるよ」
「え、どこ?」
「これ誰か洗ってー」
「それ食べないの?」
「彼氏用ですぅー!」
「彼氏いるアピールウザ!」
「形悪くなったけど美味しいね」
「誰か文化祭実行委員の人来てー!」
生徒の数がさっきより全然減っていない……。
「……やっぱり無理じゃないでしょうか杏子さん」
「……そうですね、諦めましょう柑那さん。……ならお昼ご飯食べよっか」
ということで中庭でお昼ご飯を済ませた。
諦めた料理部は来年にするとして、他はお互い特に興味を惹かれるものはなかったので、少し早いけれど先に体育館に行くことにした。
体育館に着くとそれなりの人数の生徒が集まっていた。
丁度これからなにかが始まるようだ。
『それでは次はダンス部によるダンスパフォーマンスでーす! ダンス部の皆さんよろしくお願いしまーす!』
普通に盛り上がった。
『次は吹奏楽部の演奏ですが、吹奏楽部が楽器を運び終えるまでは1年6組木戸雅輝君によるパントマイムをお楽しみくださーい!』
あんまり上手くなかった。
『それでは次は吹奏楽部による演奏でーす! 吹奏楽部の皆さんよろしくお願いしまーす!』
普通によかった。
『それでは次はダンス部と吹奏楽部の合同パフォーマンスでーす! ダンス部と吹奏楽部の皆さん再びよろしくお願いしまーす!』
普通に楽しめた。
『ダンス部と吹奏楽部の皆さん、ありがとうございましたー! 次は軽音楽部による演奏でーす! 準備が整うまでは再び木戸君によるパントマイムをお楽しみくださーい!』
お前もういいから。
「柑那、吹奏楽部終わったけどどうする?」
「んー、このまま体育館にいよっか」
「だね。……ねぇ、あの人さっきの写真の人じゃない?」
準備をしている軽音楽部の方を指差しながら杏子がそう言ったので、私もそっちに視線を向けた。するとさっき生徒会の集合写真に写っていたあの人が、楽器などの搬入を手伝っていた。
「うん、あの人だ」
「生徒会だから手伝ってるのかな?」
私もそう思ったけれど、準備を整え終えても何故かあの人はステージ上で軽音楽部らしき人たちと話し込んでいる。
『それでは次は軽音楽部による演奏でーす! まずは2年生4人バンドによる演奏でーす! よろしくお願いしまーす!』
「あ! 見て柑那! あの人が歌うっぽいよ!」
「え!?」
生徒会所属のはずなのに軽音楽部の演奏に参加し、おまけにボーカルを担当していることにも驚いたけれど、あの人が歌い始めるとそれはもうかなりの衝撃だった。
「……あの人……女子?」
杏子が聞いてきた。
「……わかんない」
ステージから目を離さずにそう返した。たぶん杏子も前を見ながら聞いてきたんじゃないだろうか。
見た目は男子なのに声は完全に女子だ。でもそれ以上に驚いたのはとても歌が上手かったからだ。
中学まで吹奏楽をやっていたこともあり、他の軽音部員が下手くそなのはすぐにわかった。でもそんなのがどうでもいいと思えるくらいあの人の声に惹き込まれてしまった。
歌い始めた瞬間は聴いていた生徒たちが少し騒ぎ出したけれど、私と同じように聴き惚れてしまったのか、周囲からの雑音は途中からは一切なくなっていた。
1曲目デャバロームの孤独の逆鱗が終わると、続けて2曲目が始まった。
「これなんの曲?」
「知らね」
「ワムリグシャの曲だろ。確かベースのKITOYAが趣味で作った曲だった気がする」
「ワムリグシャボーカルのFUSHIBEしか知らん」
「曲名なんだっけ?」
「あー、あの曲か」
「ワムリグシャなん?」
「私ワムリグシャ好きだけどこの曲知らなーい」
「俺歌詞の意味分かる〜」
「俺将棋しねぇからサッカー部分しかわかんね」
イントロ中に周りの生徒の声が聞こえた。
どうやらワムリグシャの曲らしい。
全然知らない曲だ。
イントロ部分が終わり歌い始めるも、確かに歌詞の意味が全然わからない。
「金銀4枚フォーバックー
アヒルで堅守カウンター
位を取ってハイプレスー
相横お互い攻め合いだー!」
でも歌声が綺麗なのでなんとも言えない。
何故こんな曲を選んだのだろう?
2曲目を歌い終わるとギターとベースとドラムの人も含め4人が観客にお辞儀をしてきた。バンド名やメンバー紹介などは一切なしで、どうやら2曲やっただけで終わりのようなので拍手を送った。でも何故か拍手は疎らで一切していない人たちもちらほらいた。確かに2曲目の選曲と楽器の下手さはどうかと思ったけれど、拍手を送らないのはいくらなんでも失礼ではないだろうか。
『はい、軽音楽部2年生によるバンド演奏でしたー! ありがとうございましたー! 続いて3年生4人組バンド【アホウナン】による演奏でーす! 準備が整うまで少々お待ちくださーい!』
……あの人の歌声を聴いてますますあの人のことが気になりだした。あの人はどんな人なのだろうか? わかっているのは生徒会に入っている2年生ということだけだ。それに生徒会には杏子と同じクラスのあの男子もいる。
「……私生徒会入ってみようかな」
「え、なんで急に?」
「なんかあの人のことが気になって……」
「あの人ってさっき歌ってた人?」
「そう」
「そんなに気になるの? 好みってわけじゃないんだよね?」
「うん、なんか上手く言えないけど、お近づきになっていろいろ聞いてみたいというか知りたいというか……」
「へぇー」
「私部活入ってないし他にやりたいことも特にないし。それにあの人2年生だから入るなら出来るだけ早い方がいいよね。今すぐ入っても一緒に過ごせるの1年間だけだもん。それに3年生引退するからタイミング的にも入りやすいかなーと」
「まぁ確かにそうだね」
「一緒に生徒会入りませんか杏子さん」
「いや、入んない入んない」
歌詞の一部はep.22佐々木1にもあります。
これで文化祭のはなしは終わりです。
そして次から始まる元木が最後になります。
最後までよろしくお願いします。




