沼下 4
マジックショーは上々の出来だった。観客のウケも良く、これといったミスもなかった。
しかし神崎と山吹と松葉に対してはまだ終わっていない。神崎にはプランA、山吹と松葉にはプランBが残っている。
まずプランBの2人だが、途中で武道場から退場した手塚が山吹と松葉のそれぞれの下駄箱と机の中にゴキブリのおもちゃを仕込んだはずなので、この2人への仕掛けは既に完了している。増殖していることもコインの手品で披露済みなのでおかしくはない。
そしてプランAの神崎だが、こちらはスマホ1つで事足りる。
紗羅に『こちらの計画は成功。本日作戦実行よろしく。』とメッセージを送るだけだ。
神崎は知らないだろうが、実はあいつの妹は俺の妹と仲が良く、おまけに俺とも知り合いだ。
俺の妹の澄佳と神崎の妹は中学3年間が同じクラスでどちらもバレー部に所属していたため、自然と仲良くなり友人になったようだ
しかし澄佳はいつもその友人のことを「紗羅」と呼んでいたので、その子が神崎の妹だと俺は知らなかった。
うちは昔から兄妹間の仲が良いので、澄佳とも日常会話や雑談をすることが多い。そして今年の夏休みの前頃に澄佳と雑談をしているとき、たまたまその子の苗字が『神崎』だということを聞いた。
なので「もしかして兄貴がいて下の名前は樹じゃないか?」と澄佳伝手でその子に聞いてみてほしいと頼んだ。
すると次の日澄佳から「隼兄の言うとおりお兄さんがいて、下の名前は樹だってさ。隼兄と同じ邦南高校に通ってて今高3だって。クラスまでは知らないって言ってたけど、もしかして知り合い?」と返ってきた。
そして夏休みに入ったある日、神崎の妹がうちに来たことがあった。一緒に夏休みの宿題をするらしく、澄佳が自分の部屋にその子を案内した。
俺が自室でくつろいでいると、隣の澄佳の部屋から「キャーーー!!!」ともの凄い悲鳴が聞こえた。
一応ノックをしてから澄佳の部屋に入り事情を聴くと、澄佳が兄貴の改造ゴキブリを使って神崎の妹にイタズラをしたせいだとわかった。
友人の兄とはいえ男子高校生が怖かったのか「うるさくしてごめんなさい……」頭を下げながらおそるおそる神崎の妹が謝ってきた。そんなことで初対面の中学生を責めるわけにはいかないので「別に昼間だし大丈夫だろ、今俺しかいないしな。澄佳ー、イタズラしたお前が悪い」と庇い「いや〜、紗羅がこんなに驚くとは思わなかったよ。ごめんごめん」澄佳が軽く謝ると「そうだよ! 澄佳がこんなキモいの仕掛けるからでしょ! 澄佳のせいだからね! だから私全然悪くないですから!」こちらが優しく接した瞬間態度を一変させた。けっこう図々しいようだ。
「これかなりキモいって!」
「兄貴が改造したやつだからな。俺の分と澄佳の分で計2匹いる」
「へぇ、紗羅お兄ちゃん2人いるんだ?」
「そうだよ〜、うち3人兄妹なんだ。上の空兄は年も離れてて1人暮らししてるけど、家近いからちょくちょく帰ってきてるし今でも仲いいよ」
「澄佳はお兄ちゃんと仲良いんだ、良いな〜。うちのお兄最近ウザいからなー。……澄佳、私のお兄って虫大っ嫌いでさ、それでお兄の部屋にこれ仕掛けてイタズラしたいから借りてもいい?」
「別にいいよ〜」
「いや、ただ仕掛けるだけじゃ面白くないだろ。前にこれじゃない普通のやつで1回驚いてたからな」
「そんなことあったんですか?」
授業中にゴキブリのおもちゃで菊池が悲鳴を上げ、神崎が椅子から跳び上がったエピソードを2人に話した。
「隼兄人のこと言える立場じゃないじゃん!」
「アハハハハ、お兄ダサ過ぎ!」
「だから普通に仕掛けてもな。……兄貴に俺のこと言ったか?」
「え? 何も言ってませんけど……。お兄に学校のことなんて話さないから澄佳のことも知らないだろうし」
「ならこんなのはどうだ?」
「何ですか?」
自分が手品とマジックが得意なことを神崎の妹に説明し、神崎の目の前で消したゴキブリを神崎の部屋に仕掛けるのはどうか? と提案した。
「じゃあ紗羅のお兄さんが手品で消して、その後これを私がお兄の部屋に仕掛ければいいんですね?」
「そっちの方が面白いだろ」
「えー! なんか2人だけでズルいよ! 私も混ぜてよー!」
「ならお前の部屋にも仕掛けてやるよ」
「そっちじゃないー!」
「アハハハハ」
そして次の日の朝、隣の部屋から「わーーー!!!」と悲鳴が上がった。
枕元に仕掛けた兄貴の最新作である改造ムカデは威力絶大のようだ。
とまぁ今年の夏休み中にこんなことがあった。
そのあと手塚と堀先と文化祭実行委員からマジックショーの許可を取り、演劇部の午前と午後のコントの合間に武道場でマジックショーをやることが決まった。
さらに元木に根回ししてもらい、マジックショーの時間を神崎の自由時間と被らせたというわけだ。
既に改造ゴキブリの一匹は沙羅に渡してある。
あとは沙羅の演技力次第になるが、果たしてどうなるか。
沙羅に『神崎は文化祭実行委員長だから多分帰るのはいつもより遅くなるはず。』と追加のメッセージを送っていると手塚が武道場に戻ってきた。
「お前さっきのあれなんだよ。もっと他の言い方あっただろ」
どうやら「あ、それと手塚君、君はもう用済みなので好きなとこ周ってきなさい」この言い方が気に食わなかったようだ。
今朝菊池に言い放った「お前はもう用済みだ」これが頭に残っていたので咄嗟に出てしまったが、そちらも対応が怪しかっただろう。
「手塚ー、お前こそ無言で立ち去るのはどうなんだ? 演劇部なんだから少しは演技しろよ」
「変な演技して怪しまれるのを避けたんだっての」
「入れてきたか?」
「ああ」
手塚はクラスが違うので、山吹と松葉のそれぞれの机と下駄箱の場所を書いたメモを事前に渡しておいた。
俺たちのクラスは机などの移動はなかったので、誰かが勝手に机の場所を変えていなければ大丈夫だ。
「誰かに見られたか?」
「いや、多分大丈夫だと思う。……机と下駄箱に入れてきたけど、この場所で良かったんだよな?」
事前に渡したメモをポケットから取り出し返してきた。
一応メモを再確認すると、山吹の机の場所が廊下側の前から4番目ではなく3番目の場所になっていた。
……間違った位置に印を付けたようだ。
山吹の前の席は……菊池だ。
菊池であれば100%これっぽっちも一切全く問題ない。
「ああ、オッケーだ」




