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沼下 5

 演劇部午後の部が始まった。


 1本目のコントは野球のラジオ中継部分が午前の部とは違う。

 午前の部では実況を桂木、解説を曽我が担当したものだったが、午後の部では実況を榊、解説が花田になっている。

 そして午前の部と同様9回表同点の場面から始まり、9回表は2者連続ヒットで無死一·二塁のチャンスからトリプルプレーでチャンスを潰し、9回裏は相手バッターの内野ゴロがトリプルエラーでバッターランナーが生還しサヨナラ負けする展開だ。

 なので店長役の俺と店員役の手塚の台詞は少し違うのだが、大差はないので支障はない。

 午前の部では最前列に山吹と松葉がいたのでその2人を狙い新聞紙をぶん投げたが、午後の部では知っている奴が前の方にいなかったので適当に真ん中あたりにぶん投げた。

 その後諏訪が炒飯を食べるシーンで咽せたため観客から少し笑いが起きたが、それ以外は特に問題なく1本目のコントは終わった。


 そして2本目。

 出目は果たして……。

 

「ニロク(2·6)の丁!」


 6·6だ。

 ではさっき1が3連続で出たのと手塚のときに2と4が出たのはなんだったのか?


「グイチ(1·5)の丁!」


 また6·6。


「……イチニ(1·2)の半!」


 6·6。

 おそらく手塚や伊深あたりは『こいつまたかよ。芸がないな』などと思っていることだろう。


「……グニ(2·5)の半!」


 6·6

 こうなってくるとこの後他の連中に何か言われたときの言い分を考える必要がある。

 

「シニ(2·4)の丁!」


 6·6

 6しか出ない。


「……グシ(4·5)の半!」


 6·6

 さてと、どうするか……。

 言い分なんぞ思い付かん……。


「……ピンゾロ(1·1)の丁!!」


 笊を開けるとやはり最後も6が出ていた。

 しかし何故かサイコロが1個しかない。


「「「「「あれーーーーーー!?」」」」」


「あれーーーーーー!?」はこっちの台詞だ。

 一体何処にいったんだ???

 サイコロを入れ損ねたか、それとも腕を振り回したときに飛んでいっのかはわからないが、どちらにしろサイコロが1個消えてしまった……。おそらくそこら辺に落ちているだろうが……。

 しかし2個とも確実に笊の中に入れた感触があったので腑に落ちない。


「よっしゃー!」

「おい、当ててんじゃねえか!!」


 2本目が終わり3本目の準備時間に入ると、先程と同様伊深が話しかけてきた。


「おい沼下、お前なんで最後サイコロ1個なんだよ」

「6しか出さなかったからどうせ俺のことを芸のない奴だと思ってただろ。だから最後に1個消したんだ」

「ならどっちも消せよ」

「伊深ー、それじゃ出目が丁か半かわからないだろ」


 咄嗟に出た言い分にしては我ながら上出来ではないだろうか。


「沼下先輩、最後驚きましたよ! 俺最後台詞言い忘れちゃうとこでした!」


 花田も先程と同様会話に加わってきた。


「何言ってんだ花田、馬鹿か。あんなのただサイコロを入れなかっただけなんだから、手品でもマジックでもなんでもないだろ。俺でもできるっての」

「いやでも驚きはしたでしょう」

「コント中に遊び過ぎだろ。ミスしたらどうすんだ」

「伊深ー、コントなんだから遊んでなんぼだろ」

「役者のお前がそれ言うのかよ」

「お前ら、喋ってないでさっさと準備しろよ」

「すみません部長! ほら沼下先輩も伊深先輩も準備急ぎましょう!」


 手塚に注意されたので準備に集中する振りをしつつそこら辺を探してみるがサイコロは見つからない。

 他の連中も見付けていないようだ。

 本当に一体何処に消えたのか???


 そして3本目の馬鹿騒ぎは午後の部も決行した。

 他の教師連中が武道場に来なかったからだ。

 クイズ大会が体育館から校庭に場所を移していたはずだが、裏ミッションが継続できていたのだろう。

 高橋と曽我が堀先を連れ出し、司会進行役を高橋から桂木に変更して行った。

 午後の部が終了すると演劇部員で武道場の片付けなどをしたのだが、結局消えたサイコロは最後まで見つからなかった。


 こうして俺の高校最後の文化祭が終わった。

 借りたサイコロは生徒会室に戻さなければいけないのだが手元には1個しかない。おまけに朝以降菊池に会わなかった。

 なので後日私物のサイコロを渡すことにした。1個ではなく2個ともだ。

 あれだけ6が出続けたサイコロなので絶対に普通のサイコロではない。なので私物のサイコロと入れ替え、俺がこのサイコロを頂くことにする。しかし片方が無くなってしまったのが残念でならない。


 登校中の二の舞にならないよう残った1個のサイコロをしっかりカバンの中に入れて下校した。

 家に着き自室に入ると、ベッドの上にサイコロが5個転がっていた。

 ……どうやら登校中に落としたサイコロが瞬間移動してベッドの上に戻ってきたようだ。

 勿論そんなわけはない。

 ……ということは笊の中で消えたサイコロがベッドの上に瞬間移動しておまけに増殖したということか。

 当然そんなわけもない。

 ……つまり登校中に落としたのではなくベッドの上に落としていったということか。

 ……いや、よくよく思い出したら最初からポケットの中に入れ忘れただけだったかもしれない……。

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