沼下 3
手塚(部長)·沼下·伊深·諏訪が3年、
高橋·曽我·桂木·榊が2年、
花田が1年です。
演劇部の午前の部が終了し床に散らばったかりん糖を皆で回収した後、いつの間にかいなくなった諏訪を除いた面子と一緒に武道場で昼飯を食べることになった。
普段学校では同じクラスの山吹·松葉と一緒に昼飯を食べることが多いが、演劇部の手塚·伊深·高橋·曽我·桂木·榊、このあたりの何人かと食べることも少なくない。
山吹·松葉·桂木·榊、この4人は購買やコンビニで買ったものを食べることが多く、他は大体弁当だ。
そして曽我は毎回変な自作弁当を持ってくる。
炒飯+オムライス、焼きそば+焼きうどん、おかずが肉だけ弁当、飯無し果物だけ弁当、飯無し野菜だけ弁当なんて日もあった。
ある日曽我が生卵·茹で玉子·玉子焼き·目玉焼きのたまごだらけ弁当を持ってきたときに「自分卵かけご飯には醤油、茹で玉子には塩、玉子焼きにはケチャップ、目玉焼きにはめんつゆをかけて食べるんですよ。同じたまごなのに調理の仕方でかける物が違ってくるなんて面白いですよね」なんてことを言い始めた。
確かに俺も卵かけご飯には出汁醤油、茹で玉子にはマヨネーズ、玉子焼きにはオーロラソース、目玉焼きには醤油をかけて食べているので、確かに面白いなと思った矢先、高橋が「曽我氏、目玉焼きはソース一択ですよ!」と言い放った。すると伊深が「は? 目玉焼きはケチャップだろ」手塚は「いや、目玉焼きはどう考えても醤油」桂木も「塩こしょう以外あり得ない」そして最後に榊が「目玉焼きは別に何もかけなくないですか?」などと違う方向へ話が向かってしまった。
おまけに次の日、曽我は大量の目玉焼きと各調味料を持参し「これで最強を決めましょう!」と目玉焼きの食べ比べが始まった。しかし常温なので安全を考慮し黄身が硬かったせいで、半熟派の高橋と伊深と榊が「公平じゃない」と反論し、結局結論は出なかった。
そして弁当だけではない。
夏休みにファミレスに行ったときにはお子様ランチを注文しやがった。そのときオーダーを聴いていたヤンキーのような女性店員が、変な奴を見るような目で曽我を見ていた。こいつのせいで一緒にいた俺まで変な奴だと思われたかもしれない。
とまぁ曽我の食べ物エピソードは尽きないため、今日の弁当の中身も当然気になる。
「曽我ー、お前の今日の弁当はなんだ?」
「今日はこれです!」
曽我が開けた弁当の中を見ると、伊達巻·黒豆·栗きんとん·煮物などが入っていた。どうやら今日はおせち弁当のようだ。流石に餅はないようだが。
「なんでおせちなんだよ!」「まだ早えーよ!」桂木と榊がツッコみ「美味そっすね」「甘いものばっかだな」「また手の込んだものを……」花田、伊深、手塚がそれぞれリアクションした。
「曽我ー、お前これ今朝作ったのか?」
「いえいえ、昨日から作っておいたんですよ」
「曽我氏、自分伊達巻を頂きたいです!」
「高橋氏、何かと交換なら許しましょう」
ワイワイしながらそれぞれの弁当やおにぎりやパンを食べ終わると、先程回収したかりん糖も皆で食べ始めた。
午後の部用のかりん糖も既に用意されているので食べても支障はない。開催できるかは別問題だが。
高橋と曽我はバクバク食べている。この2人はもともと食べる量が多いので持参した弁当だけでは物足りないのだろう。
しかし伊深は食べようとしないので手塚が様子を尋ねる。
「どうした伊深、食べないのか?」
「……」
「なんでだ? 甘くて美味しいぞ」手塚がかりん糖を食べながら伊深に勧めるが「いや、だってなんか……」と言葉を濁す。
「ラップに包んでセロハンテープで留めてあるんだから汚くないですよ。それに俺たちきちんと手洗って念のためにビニール手袋まで使って包みましたし」榊が説明するが「榊、そういうことじゃねぇ……」伊深は食べようとしない。
伊深がかりん糖を食べない理由を察した俺が「伊深ー、別に食いたくないなら食わなくていいぞ。いらないなら高橋と曽我にくれてやれ」と助け舟を出すが、花田が見当違いのことを言い出す。「もしかして伊深先輩甘いの苦手なんすか?」
わざとか? お前らわざとやってんのか?
だとしたら逆に俺が空気読めてない奴みたいだろうが。
結局後輩5人が殆ど食べてしまった。桂木と榊は3本目のコント中いなかったため食べるのに一切躊躇がなかった。花田は馬鹿だからそんな細かいことまで気にするわけがない。
かりん糖を食べ終えると、文化祭実行委員の仕事があるため高橋は校舎の方へ向かい、曽我も一緒に付いて行った。
「燕治、俺らはどうする?」
「……なんか橘たちが屋上でチョコバナナ食ってるってよ。和沢がバナナ持ってきたみたいで、余ってるから食いたいなら来いってさ」
桂木がスマホを見ながら榊に伝えた。
「おー、行く行く」
「なんか諏訪先輩も食ってるって」
「え? 橘と諏訪先輩知り合いなん?」
「知らね。行って聞いてみるか」
「諏訪も食ってんのかよ。俺も甘い物食いてぇな。諏訪もいるなら俺も行っていいか?」
「別に大丈夫だと思いますけど、一応確認してみます」
「あれ? 伊深先輩甘いもの苦手なんじゃないんすか?」
「は? 花田お前いい加減にしろよ」
「…………バナナ大量にあるんで大丈夫みたいです。てことで部長、屋上行ってきまーす」
「おーう、行ってこーい」
「あ! 桂木先輩、俺も行っていいですかー!?」
何故か諏訪が屋上で桂木の友人と一緒にチョコバナナを食べているらしく、それに釣られた伊深と花田も桂木と榊に付いて行った。
俺と手塚はこのあと武道場でマジックショーがあるのでそんなことをしている暇はない。
準備を始めようかと思ったが手塚がトイレに入り丁度良く1人になったので、先程のコントで使ったサイコロ2個を少し調べることにした。
片方を手に取り調べるものの普通のサイコロに見える。触った感じや重さにも違和感はない。
試しに中華料理屋セットの机の上でサイコロを転がすと何故か1が出た。絶対に6が出るサイコロではなく6が出やすいサイコロなのかと思い、再び転がすとまた1が出た。さらにもう一度転がすとまたまた1が出た。
……おかしい。
もし仮に6が出やすいよう重心を偏らせて作られているなら、逆に1は出難いような気がする。
もう一度手に取り調べるが、やはり重心の偏りはないように感じる。小さいサイコロなので気付かないだけか?
「そういえばお前さっきのサイコロの出目なんだよ。全部6って、絶対何かやってただろ」
手塚がトイレから戻ってくるなり聞いてきた。
サイコロを弄くっているようにでも見えたか?
「手塚ー、あれはな、マジックショー前の準備運動みたいなもんだ」
「わざわざ本番中にやるなよ……」
「それ伊深と全く同じツッコミだぞ」
「てことは伊深も聞いたってことか」
「花田もだな」
「まったく、俺らにマジック見せてどうすんだよ……」
「手塚ー、あれはマジックじゃなくてただの手品だ。そしてこの件も花田とやったっての。同じことを俺に2回も言わせるな」
「そんなの知るかよ。……もしかしてそれ6しか出ないんじゃないか? 手品なんてそんなもんだよな」
手塚が机の上の2つのサイコロを手に取り畳の上に落とす。すると2と4が出た。
「あれ? ……お前どうやって6出してんだ?」
「手塚ー、手品のタネを自分から教えるわけないだろ」
ま、俺も知らんがな。
「……だよな。そんなこと後にしてさっさと準備始めるぞ」
といってもマジックショーの準備は道具の確認と観客用の椅子の配置、コント道具を後方に移動させるだけなので大したことはない、と思ったが意外と移動が面倒だった。こんなことならあいつらにも手伝わせれば良かった。
そして最後に手塚と軽く打ち合わせを済ませ準備完了だ。
その後は武道場に来た観客を手塚に任せ、見つからないよう待機する。
20分程待つと開始時刻の午後1時になったので、後ろから「はい! マジックショー始めまーす!」と登場すると観客の中に神崎を発見した。山吹と松葉もいる。
これでメインターゲットは神崎に決定だ。
下準備をした甲斐があった。
そして山吹と松葉はプランBだ。
しかしミスをしては水の泡なので頭の中で確認する必要がある。
神崎はキーザン、カーリブッキ、ゴー。
山吹がキーブマ、ヤーリブッキ、ゴー。
松葉がバーツ、マーリブッキ、ゴー。
……いや、ごっちゃになるから今は忘れた方がいい。
キーザン、カーリブッキ、ゴー。
キーザン、カーリブッキ、ゴー。
キーザン、カーリブッキ、ゴー。
頭の中で何度も繰り返し、後半パートに備えながら前方の畳の上に移動する。そして手塚に小声で山吹と松葉をプランBにすることを伝えた。




