沼下 2
最後の連続セリフは雰囲気でお読みください。
ツボ振り役でサイコロを振る動作は練習のときから毎回やっていて、サイコロも毎回入れている。
しかしただ振っていてもつまらないので、自分で振ったサイコロの出目が丁か半かを予想しながらやることにした。
だが、通し稽古中に台詞を間違えてしまった。頭の中で予想したものと台詞がごっちゃになったせいだ。
なので出目を予想するのではなく、出目の丁半が台詞と同じなら勝ち、違ければ負け、というルールに変えた。これなら頭の中で丁か半かを予想しないので、ごっちゃになることはない。
ちなみに練習中の勝率はどっこいどっこいだ。そんなものだろう。
「ニロク(2·6)の丁!」
本番が始まり最初の出目は6·6で丁。
これで本番は幸先良く1勝0敗スタート。次はどうだ?
「グイチ(1·5)の丁!」
6·6で丁なのでまた勝ち。
これで2勝0敗、本番は勝ち越せるか?
「……イチニ(1·2)の半!」
6·6なので負けだ。
これで2勝1敗。
しかしまた6·6か、珍しいな。
「……グニ(2·5)の半!」
これで2勝2敗になっちまったがまた6·6か……。
実際の賭場ならイカサマが疑われるレベルだな。
「シニ(2·4)の丁!」
3勝2敗になったが5回連続で6·6。
……これはおかしい。
たまたまのレベルではないように思う。
もしかすると6が出やすいサイコロなのか?
それとも絶対に6しか出ないサイコロか? どんな仕組みだそれは。
どちらにしろ何故そんな物が生徒会室にあったんだ?
このサイコロが普通のサイコロではないことを菊池は知っていたのか? ……いや、それは今はいいか。
「……グシ(4·5)の半!」
また6·6で3勝3敗。
やはり6しか出ないのか?
「……ピンゾロ(1·1)の丁!!」
最後も6·6。結果は4勝3敗で勝ち越しだが、そんなことはどうでも良くなってきた。
それよりもサイコロの仕組みが気になるが、まだ午前の部の最中なので時間があるときに調べてみることにする。
2本目が終わり3本目の準備時間に入ると伊深が話しかけてきた。
「おい沼下、お前わざと全部の出目6·6にしただろ」
ん?
……そうか!
お前らから見ればそういう風に見えていたのか!
当然これを利用しない手はないな。
「そうだ。このあとやるマジックショーの準備運動みたいなもんだな」
実際は誰がやっても6·6が出たかもしれないが、手品の腕を勝手に評価してくれるのであればありがたい。
「わざわざ本番中にやるなよ……」
「沼下先輩、やっぱりあれマジックだったんすね! 凄かったっす!」
その反応は嬉しいが、あれはマジックではない。
「花田ー、違う、あれはただの手品だ」
「いや、だから、手品とマジックの違いがわからないっす……」
「はぁ、花田ー、お前もか。手塚も曽我もわかってないんだよなぁ。高橋や諏訪はわかったってのに。伊深ー、お前は手品とマジックの違いわかるよな?」
「知らねぇよ」
ったく、こいつもか。
「なんだよ、伊深ー、お前もかよ」
「それより沼下先輩、午後の部のときもさっきみたいに手品やるんですか?」
「さぁ、どうだろうな。丁半同様笊を開けてのお楽しみだ」
ま、全部6·6かもしれないがな。
3本目の準備をしていると元木が駆けつけ「悪い、少し遅れてしまった」と俺たちに謝ったが、こちらも少々遅れていたのでタイミング的には丁度良かった。
それを見ていた観客から「あれ? なんで元木がいるんだ?」「あれ生徒会長じゃね?」などの反応があった。どうやら元木が出るという情報は漏れていないようだ。
急いで元木を仕込み袴に着替えさせ、台詞の確認などをさせつつ3本目のコントに備える。
メイン役を元木がやることになったので当初の高橋の脚本より台詞量は増えているが、元木だから心配はいらないだろう。
3本目のコントは武道場をそのまま舞台として使うため、トイレの背景の用意と後方の中華料理屋のセットを前方の畳の上に捌けるだけでいい。そしてこれらはこの後俺たちの弾除けになる。
ちなみに3本目には俺の出番はないので基本見ているだけなのだが、かなり下品な内容なので観客の反応が気にはなる。一応注意喚起はしたし、男子しかいないので大丈夫か?
そして事前の作戦どおり、桂木と榊が3年生への追い出し演劇の相談をするため堀先を武道場から連れ出した。
追い出し演劇は3年の女子の先輩がいた一昨年はやったが、男子しかいなくなった去年はやらなかった。1つ上の先輩たちが「面倒ならやらなくていい」と2年の俺たちに言っていたからだ。
勿論今年も後輩連中はやらないつもりだっただろう。去年やっていないのだからそんなことがあったことすら知らなかったはずだ。
だが嘘の相談よりガチの相談の方が堀先を連れ出しやすいということで今年は行われることになった。追い出し演劇の相談をするために追い出し演劇をやることになるとは何とも演劇らしい。なので3年は追い出し演劇が行われること自体は知っているが、当然内容は知らされていないので今頃ガチの相談中のはずだ。
そして武道場に入ってきそうな教師も近くの体育館でやっているクイズ大会係が捕まえるよう、事前に元木を通して文化祭実行委員連中に頼んでおいたので抜かりはない。
勿論これは神崎には内緒の裏ミッションだ。
さてと、準備が整ったようだ。そろそろ始まるか。
「ふんっ! ふんっ!」
武道場で袴姿の剣道部員が1人で素振りをしている。
「ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ!」
そして後輩がその光景を入口からそっと見守る。
「ああ、先輩……。昨日の試合で負けたのが悔しくて、試合翌日の早朝からあんなに練習してる……」
「ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ!」
「昨日の試合凄く惜しかったもんなぁ……」
「くそっ! くそっ! くそっ! くそっ!」
「やっぱり昨日の試合で負けたのが相当悔しくかったんだ……」
「くそっ! くそっ! くそっ! くそっ!」
「あんなに必死に……」
「うんこっ! うんこっ!」
「え!?」
「うんこっ! うんこっ!」
「な、なんで急にうんこ……」
素振りをしていた剣道部員が後輩の存在に気付き話しかける。
「なんだ、来てたのか」
「ちょっと先輩! なんで素振りの掛け声がうんこなんですか!?」
「それは俺が昨日の試合でうんこを我慢しながら戦っていたせいで負けたからだ」
「ええ……あの試合、うんこ我慢しながらだったんですか……」
「そうだ、だから負けたんだ! 便意さえなければ絶対に俺の勝ちだった! だから憎きうんこに勝つために掛け声をうんこにしてたんだ!」
「で、でも最初は『ふんっ!』で、その次は『くそっ!』だったじゃないですか」
「何言ってるんだ! 『ふん』も『くそ』もうんこだろうが!」
「ああ! 確かに! そういう意味の『ふん』と『くそ』だったんですか!?」
「当然だ、普段は全然違う掛け声だろうが。ちなみに今もうんこを我慢しながら素振りをしていた」
「え!? もしかして次の試合もうんこ我慢しながらやるつもりなんですか!?」
「そんなわけないだろ。何馬鹿なこと言ってるんだ」
「だったらそんな練習やる意味ないでしょう! 馬鹿なことやってるの先輩じゃないですか! さっさとトイレに行ってくださいよ!」
「大丈夫だ、敗れはしたが昨日の試合中もずっと我慢していたんだからな」
「そういう問題じゃないですよ!」
「わかった、わかった、行けばいいんだろう、行けば」
2人が後方にある背景のトイレ前に移動する。
流石に武道場内にある本物のトイレを使うわけにはいかないのでトイレは背景を使うことにした。
ちなみに武道場は古いためトイレは個室1つしかない。これは設定ではなく実際そうなのだ。
「なんだ、お前もか?」
「僕は小ですよ。あと普段から練習前には必ず来るようにしているだけです」
「……鍵がかかっている。誰か入っているな。……しかし一体誰が入っているんだ? 俺が最初に武道場に来てからお前以外は誰も来ていなかったはずなのに……」
「ちょっと! 怖いこと言わないでくださいよ! ……違うトイレに行きますか?」
「……」
「……先輩、どうしました?」
「……漏れそうだ」
「ちょ! 我慢してくださいよ!」
「くそっ! 昨日のやつより強敵のようだ……」
「昨日のやつって、先輩が負けたあの選手よりもってことですか? うんこと比べないでくださいよ」
「そっちじゃない! 昨日我慢していたうんこよりもってことだ!
「ええ……そっちですか……」
「それに昨日俺が敗れたあの選手はそこまで大した選手ではない!」
「でも先輩負けたじゃないですか」
「相手が格下でもうんこ我慢しながらだったら負けてもおかしくないだろ! ま、まずい……大声出してたら……」
「え! もしかして漏らしたんですか!?」
「…………」
「え……本当に……!?」
袴の下からアレがポロポロと零れ落ちる。
「……大丈夫だ、小は漏らしてない」
「いやそれ完全にアウト」
「あっはっはっは!」
「アハハハハ!」
無事に観客から笑いが起き、これで3本目は終了だ。
そしてここからは堀先を含め教師連中には内緒にしていた馬鹿騒ぎが始まる。
「誰だ今笑った奴はーーー!!!」
元木が大声で怒鳴りながら、仕込み袴の下からサランラップで包まれた大量のかりん糖を観客にぶん投げ始めた。
そして俺たちも観客の後ろの中華料理屋のセットの裏からかりん糖を投げる準備を始める。
「これでも喰らえーー!!」
「うわ! 元木がうんこ投げてきたぞ!」
「汚ぇ! 投げ返せー!」
「いやこれ、かりん糖じゃん」
「痛っ! なんだ?」
「気を付けろー! 後ろからも投げてきてるぞー!」
「喰らえー!」
「おらー!」
「なんでお前らも投げてくんだよ!」
「観客共ー! お前らは畳の上に入ってくるのは禁止だからなー! ルールは守れよー!」
「なんだとー!」
「演劇部ズルいぞー! セット裏に隠れんなー!」
「元木を見習えー!」
「うるせー! ゴリラと文化部を一緒にするなー!」
『えー、只今生徒会長と演劇部が』
「曽我何処投げてんだ!」
「生徒会長がこんなことしていいと思ってるのかー!」
「ハハハハハ! これも生徒会長の仕事だー!」
『観客に投げているうんこ、もといかりん糖は』
「先輩方お邪魔しまーす」
「花田ー、お前何こっちに逃げて来てんだ。元木と一緒にあっちで戦えよ」
「いやいや、弾持ってないんで無理っすよ。俺はうんこ漏らしてないんで」
「いいからさっさと投げろって!」
『演劇部部員が昨日購入し』
「誰だ今俺の頭にぶつけた奴!」
「やめろ! 伊深こっち投げんな!」
「汚ぇ!」
「別に汚くはないだろ」
「ギャハハハ!」
『綺麗にラップに包んだものなので、痛っ……ちょっと! 自分アナウンス中なんですから狙わないでくださいよ!』
「山吹ー! 松葉ー! 喰らえーー!!」
「いてぇ! おい沼下、強く投げ過ぎだろ! それにお前さっきの新聞紙も俺か松葉狙っただろこの野郎!」
「喰らえ沼下ーー!!」
『食べたい人はどうぞご自由に拾って』
「桂木いなくね?」
「榊もいないよな? セット裏に隠れてんのか?」
「喰らえ元木ー!」
「ハハハハハ!」
『武道場の外で食べてください』
「これ食えんの?」
「お前、これ食うのかよ!? 会長のうんこだぞ!」
「拾えー!」
「これ午後の部でもやんのかな?」
『以上を持ちまして』
「逃げろ逃げろ!」
「あの人誰?」
「生徒会長でしょ。さっき誰か言ってたじゃん」
「俺いらね」
「ならくれ」
『午前の部の演劇部のコントを終了致します』
「あ、けっこう美味いな」
「おいそこー! 武道場の外で食べろー!」
「お前らだってさっき炒飯食ってただろー!」
「諏訪何処だー!?」
『ありがとうございました』
「だから痛いっての! 強く投げんなよ沼下!」
「誰だよこんなこと考えた馬鹿は……」
「やべ、踏んじまった」
『それでは武道場より退出お願いします。いたぁっ!』
「こいつも演劇部だぞー! 狙えー!」
「喰らえーー!!」
『誰か助けてーー!!』
「喰らえ和沢ー!」
「玉虫なんでこっち投げんだよ!」
「だって桂木も榊もなんでかいねぇし、他に演劇部に知ってる奴いねぇもん」
「狙うなら俺じゃなくて橘狙えよ!」
「なんで俺なんだよ! 演劇部か生徒会長狙えよ! それより鰕西何処行った?」
「アハハハハ!」
「これ大丈夫なん?」
「なんでか先生誰もいないし別にいいんじゃね? 女子もいなかったし」
「元木ー! こっちにもくれー!」
「喰らえ演劇部ーー!! お返しだーー!!」
「おらーー!! 反撃だーー!!」
「喰らえ手塚ー!」
「馬鹿め背中がガラ空きだー! ハハハハハ!」
「元木この野郎ー!」
「あれ? そういや高橋は?」
「アナウンス終わった直後からあそこで集中砲火喰らって丸くなってるぞ」
「手塚部長、残弾少ないです」
「午後の分も使うか?」
「花田ー、お前弾拾ってこい」
「えぇ……狙われるからイヤっすよ……」
「お邪魔しまーす、会長いますかー? そろそろ交代時間っすよー。……何やってんだこれ?」
「やべぇ!! 女子が来たぞーー!! 終わりだ終わりーー!! 撤収ーーー!!! 終了ーーー!!!」
堀江先生は演劇部の顧問なので1本目と2本目のコントは武道場内で観ていました。




