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神崎 3

 その後も文化祭実行委員長としての役割を果たしつつ、なんとか無事に文化祭は終了した。

 片付けや後始末などがまだ残っていたが、夜遅くなる前に全生徒が帰宅するよう先生たちから促されたので、自分も帰ることにした。


 駅に向かって歩きながら、おそらく多くの3年生にとっては今日が高校生活で最後の楽しい思い出になるのだろうな、としみじみ考える。

 しかし文化祭は終了したが、文化祭実行委員長としての仕事は明日以降もまだ残っている。文化祭が終わったからといって文化祭実行委員長の肩の荷が下りるわけではないのだ。

 それは元木も同じことだろう。生徒会長としての大きな仕事は文化祭が最後だが、まだやることは残っている、生徒会選挙だ。生徒会長立候補者の人数次第で内容も違ってくる。

 去年の生徒会長立候補者は元木1人だったので信任投票をするのみだったが、今年はどうなるのだろうか? 現在生徒会に2年生は3人いるが、性格的に見ておそらく佐々木と千葉は立候補しないだろう。残るは常盤だがあいつは全然予想がつかない。もしかすると常盤も立候補せず、全然別の生徒が生徒会長になるかもしれないが、自分はもう3年生なのであまり関係ないことか。

 そういえば元木が高校の生徒会長になるとは以前の自分は全く想像もしていなかった。

 小学生時代にはクラスの男子や菊池と一緒に馬鹿なことばかりやっていたし、中学生時代には県の上位に入る程実力があった剣道を高校でも続けるものだと勝手に思っていたからだ。

 高校入学直後「アタシとコーイチ生徒会入るからよろしくね〜」と菊池から知らされた。こちらも入るものだと菊池は勝手に思っていたからだろう。

 菊池の推測どおり自分は中学同様生徒会に入ろうと思っていた。しかし仮に元木と生徒会長を争うことになった場合、絶対に勝ち目がないだろうと思い、入ることをやめた。

 去年元木が生徒会長に決まった直後、中学時代に生徒会副会長を務めてくれた吉野からは「そういえばなんで神崎は生徒会に入らなかったの? てっきり高校でも入ると思ってたし、もし生徒会長に立候補してたら中学のときみたいに私が推薦人になってもよかったのに」と言われた。元木に生徒会長選挙で負けるのが嫌だったなどと言えるわけもなく「もともと高校では勉強に力を入れようと思っていたんだ。お前こそ高校では生徒会に入らなかっだろ」そう返すと「ん〜、神崎が入らないなら私もいいかな〜って思って」と返ってきた。

 もしかしたら吉野は自分に対して好意があるのでは? そんなことも一考したが、違っていたら恥ずかしいだけなのでそれ以上は聞かなかった。

 そういえば吉野は自分と同様3年連続文化祭実行委員を務めていたはずだ。

 ……たまたまかもしれないので、深く考えるのはやめておくことにする。


 駅に着くとホームで電車を待っている人の数が明らかに少なかった。いつもより遅い時間だからだろう。

 立って電車を待っている人の中に邦南高校の制服姿の女子生徒を見つけた。後ろ姿に見覚えがある。おそらく生徒会2年の千葉だ。

 しかし千葉とは話をする程の仲ではないので、後ろの椅子に座り電車を待つことにした。

 すると背後から「あれ、千葉さん?」と知らない男子生徒が声を掛け千葉と話し始めた。


「今帰り? 生徒会の仕事?」

「うん」

「佐々木は?」

「まだ学校かも……」


 どうやら知り合いらしい。

 距離が近いため会話が聞こえる。

 そういえば昼間も似たようなことがあったのを思い出した。聞き耳を立てるのは今日は2回目になる。どうやら自分は盗み聞きをするのが好きなようだ。


「そっか。あ、そうだ、千葉さんで思い出した。えーと、なんだっけ……テリテリーヌーヌだっけ? テリテリーヌーヌ」


 知らない男子がわけのわからない言葉を言い出した。なんなんのだろうかその呪文は。テリテリーヌーヌ?


「フフフ……な、なんで越後君がそれ知ってるの?」

「いや、常盤から言えって言われた」


 『ときわ』という名前が出たが、千葉に対してなのだからおそらくあの常盤だろう。


「フフフフフ……」

「お、何故か効いてる。なんで?」

「う、うちで飼ってる猫の名前が、『ヌーヌ』なの。それで、フフ……テリテリーヌーヌって『テリテリ』の『ヌーヌ』みたいで……フフフ」

「テリテリって何?」

「な、なんだろうね? それがわからないから何か変な感じで面白くって……フフフ」

「そもそもテリテリーヌーヌって何?」


 どうやら常盤からテリテリーヌーヌ自体が何なのかは知らされていないようだ。


「フフフフフ……ご、ごめん、それは秘密なの。後輩に口止めされてて……」

「口止めか、ならしょうがないか。……テリテリーヌーヌ、テリテリーヌーヌ、テリテリーヌーヌ」

「や、やめて……フフフフフ。ほ、ほら、電車来たから……フフフ……」


 電車が来たようなので席を立つ。

 一瞬向こうのホームに視線を向けると、知らない女子生徒が柱の影から2人の方を鋭い眼光で睨みつけていることに気付いた。

 ……もしやこの男子生徒の彼女か何かだろうか?

 あまりにも恐ろしい表情をしているが2人は気付いていないようだ。

 電車がホームに入ってくると車両で向こうからの視線が遮られた。

 2人に続いて車両に乗り込むと2人は向こうの視線から背を向けるように座ったので、自分もそこから少し間を空けて同じ向きに座った。なんとなくあちら向きには座りたくない。

 電車が動きだすと車両内に人が少なかったせいか、男子生徒は千葉に対しずっと「テリテリーヌーヌ」を変なイントネーションを付けながら連呼し、千葉はずっと顔を下に伏せたまま笑い続けていた。

 千葉があそこまで笑っているのを見るのは初めてだ。物静かな生徒だと思っていたが、意外な一面が見れた気がする。

 しかし結局テリテリーヌーヌが何なのかは分からず仕舞いになってしまった。直接常盤に聞いたら答えてくれるだろうか? いや、そんなことを聞けば盗み聞きしていたのを説明する必要があるのか……。どうしたものか……。


 そういえば沼下も意味不明な呪文を唱えていた。

 何回も聞いたので覚えている。

 キーザン、カーリブッキ、GO、だったはずだ。

 キーザンカーリブッキGO。

 ……ん? キーザンカ?

 確か神崎を逆から読むと『きざんか』だったはずだ。

 小学生のときに自分のフルネームを逆から言うという、実に小学生らしい意味のない遊びが流行ったことがあり、自分の苗字を逆から言うと『きざんか』だと勝手に脳内に植え付けられた。

 しかしその遊びのせいで当時の自分のあだ名が『キツイ』になってしまった。あれは酷いあだ名だった。

 普段菊池から呼ばれている『キッキー』は猿っぽいイメージだが、こっちの方がまだマシなレベルだ。


 話が脱線してしまった。

 さて、キーザンカーが神崎だとすると……。

 キーザンカー、リブッキGO?

 もしかしてGOじゃなくゴーか?

 リブッキゴー?

 逆からだと……ゴキッブリ?

 !!

 ゴキブリカンザキじゃないか!!

 何がゴキブリ神崎だ!!

 あの野郎ふざけやがって!!


 もし自分が武道場に行かなかったらどうしていたんだ。……いや、そのときは山吹か松葉をターゲットにして、呪文もどちらかの苗字を逆から読んだものに変更したのだろう。おそらくそのどちらかでも構わなかったのだろうが、自分がいたので沼下は自分をターゲットにしたのだ。絶対にそうだ。素直に将棋部へ行くべきだった。

神崎は元木に対して対抗心のようなものがあります。

逆に元木はそんなこと一切考えていませんが……。

そして当時神崎は生徒会に入る以上は生徒会長になりたいと思っていました。しかし元木に勝って生徒会長になるのは無理だと判断し生徒会に入ることすらやめてしまった、そんな感じです。

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