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伊深

演劇部員は9人います。全員男子です。

手塚(部長)·沼下·伊深·諏訪が3年、

高橋·曽我·桂木·榊が2年、

花田が1年です。

 1本目のコントが無事終わった。

 次は2本目の丁半コントだ。2本目のコントは前方の畳スペースを使い、賭場が舞台となる。

 俺は普段は演出や小道具制作などの裏方なのだが、2本目のコントには出ることになってしまった。理由は登場人物が多いからだ。2本目は賭場を仕切る親分とその手下にツボ振り、更に博打をしている客4人、そしてあとから登場する侍の客、つまり全部で8人もいる。

 正直やるのは嫌だったので、2年で同じ裏方の高橋に押し付けようとするも「自分は文化祭実行委員なので無理です」と断られた。あいつは脚本を書き終えてからは文化祭実行委員の仕事を優先しやがった。こっちは男子だけであっちには女子がいるからだ。あの変態め。


 さて、準備が終わったのでそろそろか。

 それぞれの配置はこんなかんじだ。

 


     親分       客A

        手下    客B

      ツボ振り※   客C

          ★   客D

※(出目)

★(テラ銭入れのハコ)


       観客観客観客観客観客

     観客観客観客観客観客観客観客



 体育館のステージと違い高さはないが奥行きを使える。

 手下だけが立っていて他は座っている状態だ。

 ちなみに俺の役は客Dで、客A·Bと比べると台詞量は少なめになっていてそこまで目立たない。客Dが手前配置なのは全員が出目の方を向いているため、観客からは顔が見えにくいからだ。


 客が丁半賭博をしているところからコントは始まる。


「はい、ツボをかぶります!」


 ツボ振り役の沼下が(ザル)の中にサイコロを入れる。


 実際のツボ振りは動きが地味だ。だがこの丁半コントは登場人物の動きがあまりないので、ツボ振りはわざと腕を振り回し派手にやるようにした。素人がやったらミスりそうなものだが、マジックが得意で器用な沼下だからこそできる演出だ。


「さぁ、張った張った! 丁か半か! 丁か半か!」


 中盆(賭けの進行役)である手下役の花田が大声で客に賭けるよう促す。


「俺は丁だ!」

「半だ!」

「儂は半じゃ!」

「丁!」


 客A·B·Dはチンピラだ。しかし同じような客ばかりではつまらないので1人ジジイを入れた。ジジイの客C役は部長の手塚だ。3年の皆で押し付けた。


「コマが揃いました! 勝負!」

「ニロク(2·6)の丁!」


 手下の掛け声の後、ツボ振りが笊を開ける。実際の出目は6·6だった。それでも当然決めているセリフどおりにコントを進める。

 演者である俺たちからは出目を確認できるが、コントの観客からは手前にテラ銭入れのハコを置き見えないようにしているので問題はない。

 テラ銭というのは分かりやすく言うと手数料だ。胴元側が儲けるために一勝負事に当たった客から徴収する。面倒なので観客にそこら辺の説明はわざわざしないが、出目を隠すために今回のコントでは置くことにした。


「ははは!」

「ちっ!」

「うーむ……」

「よーし、当たりだ!」


 手下が当たった客A·Dにコマ札を渡し、外れた客B·Cからコマ札を回収する。

 コマ札というのは賭ける前に(かね)と交換したものだ。


 ガラガラ


 観客の右側にある武道場の入口から侍役の曽我が入ってきた。顔には斜めの刀傷を入れ目立つようにしてあり、当然侍なので帯刀している。

 曽我を侍役にしたのは消去法だ。はっきり言って曽我には親分役も手下役もチンピラ役も似合わない。ツボ振り役は沼下なので残った侍役を曽我がやることになった。運動音痴だが図体はデカいため見た目だけは一丁前だ。


「失礼、拙者もよろしいか?」

「親分、あの顔もしかして噂の侍じゃ……」


 手下が親分役の諏訪に駆け寄り耳打ちする。

 もちろんコントなので観客には聞こえる声量だ。


「……奴がそうだとしても奴の噂自体は本当か分からねぇ。それに来た客を追い返しちゃあ俺たちがビビりで小心者だって噂が広まっちまうだろうが。構わねえ、賭けさせろ」

「へい。……お侍さん、金はどんくらい?」

「これだけ頼む」

「へい、少々お待ちを……」


 手下が侍から金を受け取り、代わりにコマ札を渡す。


「お侍さん、真ん中座んな」

「失礼」


 客B役の榊が促し侍を真ん中に座らせた。

 そして賭けが再開する。


「はい、ツボをかぶります!」


 ツボ振りがサイコロを笊の中に入れる。


「さぁ、張った張った! 丁か半か! 丁か半か!」

「……半!!」


 侍が半に賭ける。直後


「丁!」

「丁だ!」

「丁!」

「儂も丁じゃ!」

「おいオメェら、なんだその賭け方は! 今明らかにこの侍が半に賭けたから丁に賭けやがっただろ!」


 手下が客にいちゃもんをつけるが親分は動じない。


「おい! まだ1回目だ。そのまま続けろ」

「へい! ……コマが揃いました! 勝負!」

「グイチ(1·5)の丁!」


 実際の出目は6·6だった。またか。


「かかか、当たりでぃ!」

「ははは、また当たったぜ!」

「儂も当たりじゃ!」

「よーし!」

「くそ」


 手下が当たった客4人にコマ札を渡し侍からコマ札を回収する。


「はい、ツボをかぶります!」

「さぁ、張った張った! 丁か半か! 丁か半か!」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「はい、どっちもどっちも!」


 誰も賭けないので手下が賭けるよう促す。

 どちらでもいいから賭けてくれ、という意味らしい。


「……丁!!」


 侍が丁に賭ける。直後


「半!」

「半じゃ!」

「俺も半だ!」

「俺も半!」

「またかテメェら! ふざけんな!」


 子分が叫ぶと客A役の桂木が理由を説明し始める。


「だってよぉ、このお侍さんが噂のとおりなら絶対半が出るはずだろ? 誰も丁になんか賭けねぇっての」

「そうそう、半しか出ねぇよ」

「絶対半だろ」

「そうじゃそうじゃ」

「ちっ……親分、どうしやすか?」

「……構わねえ、続けろ」

「へい! おい、開けろ」

「……イチニ(1·2)の半!」


 実際の出目は6·6。またかよ。

 …………いや、ツボ振り役は沼下だ。こいつわざと6·6にしてるのかもしれない。それにもし本当に好きな目を出せるなら台本どおりの目を出せっての。それならわざわざ出目を隠さなくて済んだってのに、なんで事前に言わなかったんだこいつは……。


「かっかっか! また当たりでぃ!」

「ははは、やっぱりな!」

「ひっひっひ、儲け儲け!」

「よしよし!」

「くそ!」

「はい、ツボをかぶります!」

「さぁ、張った張った! 丁か半か! 丁か半か!」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」


 誰も賭けない。


「はい、どっちもどっちも!」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」


 しかし誰も賭けない。


「はい、どっちもどっちも! どっちもどっちも!」

「…………丁だ!!」


 痺れを切らし侍が丁に賭ける。直後


「半だ!」

「当然半!」

「勿論儂も半じゃ!」

「俺も半だ!」

「おい!! オメェらいい加減にしろ!!」

「なんだいなんだい、別にイカサマしてるわけでもなし!」

「こいつの言うとおりだ! ずるしてるわけじゃねぇだろ!」

「そうだそうだ!」

「そうじゃそうじゃ!」


 手下の大声に臆せず客A·Bが反論し、その2人の態度を見て客C·Dも強気に出る。


「……親分、どうしやすか?」

「……開けろ」

「……グニ(2·5)の半!」


 実際の出目は6·6。これで4連続だ。

 ……こいつ絶対やってるな。


「ははははは、4連勝だ!!」

「かっかっか、やっぱり半だったな!!」

「ひっひっひ!!」

「はっはっは!!」

「くそ!!」

「一旦止めろ!!」


 親分が座ったまま大声を出し賭けを中断させる。


「このままじゃ商売上がったりだ!! だがテメェらがイカサマしてねぇ客な以上追い出すわけにもいかねぇ。そこで今から賭ける順番をここに来た奴からってことにする!!」

「なんだそりゃ、ふざけんな!!」

「そんなんおかしいだろ!!」


 客A·Bが反論するが、当然このまま親分が黙っているわけがない。親分が立ち上がり声を荒げる。


「なんだと!! 来た奴から順番に賭ける、それのどこがおかしいってんだ!! ここは俺の賭博だ!! 今から従ってもらう、嫌なら出て行け!!」


 諏訪は迫力があるからこういう役がすこぶる似合う。1本目のオヤジ役も諏訪に任せるか考えたが、怒鳴る役を同じ人物がやってもつまらないのでやめた。しかしこちらを諏訪にやらせたのは正解だろう。


「ちっ! わかったよ」

「わかったわかった、順番に賭けりゃいいんだろ」


 客A·Bが渋々了承すると客C·Dも親分にビビり決まりに従う。


「ふぅ、しょうがないの。儂は3番目じゃな」

「なら俺は4番目か」

「拙者が最後だな」

「はい、ツボをかぶります!」

「さぁ、張った張った! 丁か半か! 丁か半か!」

「半だ!」

「なら俺は丁だ!」

「儂は丁じゃ!」

「半!」


 客A·B·C·Dが順番に賭け、侍がどちらに賭けるかじっと見ている。


「はい、どっちもどっちも! どっちもどっちも!」


 侍が長考し、ゆっくりと賭ける。


「…………半だ!」

「ふざけんな! 丁にしろ!」

「そうだそうだ! 丁にしろ!」

「いやいや、もう半に賭けたんだから今更変えるのはなしだろ! なぁ親分さん?」

「こやつの言うとおりじゃ! 変えるのはなしじゃろ!」


 客A·Dが丁に変えろとせがみ、客B·Cは変えるのはなしだと親分を説得する。


 侍を除いた客が4人必要なのはこれが理由だ。同数で言い争い、侍が賭けた方が過半数になる。2人では少ない為どうしても4人必要だった。


 そして侍はどっしり構えたまま丁に変えない。


「いや半だ! 次こそ当たる!!」

「かっかっか!」

「ちっ、絶対負けじゃねぇか!」

「丁にしてくれぇ!」

「ひっひっひ! また当たるのぉ!」

「オメェら、まだ出目確認してねぇんだぞ、まったく……。コマが揃いました! 勝負!」

「シニ(2·4)の丁!」


 実際の出目は6·6。……だろうな。これで確定だ。流石に10回全部6は出ないだろ。もしかしたら次あたり意表を突いて1·1にしてくるかもしれない。


「かっかっか! またまた当たりでぃ!」

「ひっひっひ!」

「くそっ!!」

「やっぱり丁じゃねぇか! あんたが半に賭けたからだぞ!」

「そうだそうだ!」

「うるせぇぞオメェら! たまたまかもしれねぇだろうが! 次振ってくれ!」

「はい、ツボをかぶります!」

「さぁ、張った張った! 丁か半か! 丁か半か!」

「丁だ!」

「俺も丁だ!」

「なら儂は半じゃ!」

「半!」

「…………」

「はい、どっちもどっちも! どっちもどっちも!」


 また侍が長考しゆっくりと賭ける。


「…………半!」

「ははははは! 丁確定だな!」

「かっかっか、また当たるぜぃ!」

「なんで半なんじゃー!」

「だからまだ出目確認してねぇだろうが……」

「お侍さん、悪いことは言わねぇ、丁に変えてくれ!」


 客Dが侍に土下座をして頼み込む。


 ……だからこの役やるの嫌だったんだ。コントとはいえ曽我に土下座なんかしたくねぇってのに……。


「……わかった、丁に変える」

「はぁ、ふざけんな! さっきは変えなかったくせになんで今度は変えんだよ!」

「おい! 1回半に賭けたんだからなしだろ!」

「……どうしやすか親分?」

「そのまま続けろ」

「なんだそりゃ!」

「ぶさけんな! 最初に賭けた半に戻せ! ほら、戻せ!」


 客A·Bが騒ぎ立てると再び親分が立ち上がり声を荒げる。


「なんだと!! こいつが半に賭けたら出目は丁に変わり、丁に賭けたら半に変わるとでも言いてぇのか!? そんなわけねぇだろ!! それともこっちがイカサマしてるってか!!」

「い、いや、そうは言ってねぇよ……」

「そ、そうそう、イカサマしてるとは言ってねぇだろ……」

「だったら変えても問題ねぇだろうが! 開けろ!」

「……グシ(4·5)の半!」


 実際の出目は6·6。また6·6だったか。予想が外れたな。最後も6·6か? ……いや、ずっと6·6と見せかけて最後は台本どおりの1·1だろ。


「やっぱり半かよ!」

「くそっ!! また外れたか!!」

「あんたのせいで負けちまったじゃねえか!」

「ひっひっひ、お侍さんありがとうよ」

「助かったぜ!」

「はい、ツボをかぶります!」

「さぁ、張った張った! 丁か半か! 丁か半か!」

「半!」

「俺も半だ!」

「儂も半じゃ!」

「半!」

「オメェら全員半かよ!!」

「あんた、わかってるよな? 俺たち全員半なんだからな!」


 客Bが侍に空気を読めと言わんばかりに顔を近づけ睨みつける。


「……半!」

「ふざけんなぁ!! これじゃ全員負けるだろうが!!」

「丁にしとくれぇ!」

「そうだそうだ! 丁にしてくれ!」

「なら俺は丁に変更だ!!」


 客Aが丁に変えようとするも親分はそれを許さない。


「駄目だ! テメェらが変えるのは禁止だ!」

「なにー!? さっき侍が変えたのはありだったじゃねぇか!」

「変えていいのは最後に賭ける奴だけだ!! じゃねぇと順番に賭けてる意味がねぇだろうが!!」

「ちっくしょー!!」

「……すまぬが拙者は丁に変える」

「はぁ!?」

「拙者は変えてもいいのだろう?」

「ちっ!!」


 侍が丁に変えるが、親分は自分が先程言ったことの手前飲み込むしかない。


「ははははは! こいつが変えるのはありなんだもんなぁ!」

「かっかっか! また当たりだな!」

「ひっひっひ!」

「はっはっは!」

「こんのクソ共が!! ちっ!! 進めろ!!」

「へ、へい! コマが揃いました! 勝負!」

「……ピンゾロ(1·1)の丁!!」

「「「「「あれーーーーーー!?」」」」」

「よっしゃー!」

「おい、当ててんじゃねえか!!」


 最後は親分と客A·B·C·Dがおどけて侍が喜び手下が突っ込んで終了だ。


 そして実際の出目は6·6だった。結局全部6か。

 最後こそ1·1かと思ったんだが……。


 とりあえず2本目が終了した。

 小休憩の間に皆で3本目の準備をしていると沼下が近くにいたので、一応出目について聞いてみる。


「おい沼下、お前わざと全部の出目6·6にしただろ」

「そうだ。このあとやるマジックショーの準備運動みたいなもんだな」

「わざわざ本番中にやるなよ……」

「沼下先輩、やっぱりあれマジックだったんすね! 凄かったっす!」


 花田が興奮しながら会話に加わってきた。

 やはり気になっていたようだ。


「花田ー、違う、あれはただの手品だ」

「いや、だから、手品とマジックの違いがわからないっす……」

「はぁ、花田ー、お前もか。手塚も曽我もわかってないんだよなぁ。高橋や諏訪はわかったってのに。伊深ー、お前は手品とマジックの違いわかるよな?」

「知らねぇよ」


 知らねぇしどうでもいいっての……。


「なんだよ、伊深ー、お前もかよ」

「それより沼下先輩、午後の部のときもさっきみたいに手品やるんですか?」

「さぁ、どうだろうな。丁半同様笊を開けてのお楽しみだ」

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