佐々木 10
「あ、鍵開いてる。やっぱりそっちが早かったか〜。……あれ、コーイチは?」
「会長は演劇部に行きました。先に帰ってていいそうです」
「そっか〜。今頃稽古中かな〜?」
「お前何してんだ?」
常盤がこちらに近づき覗き込んできたが、そのまま書き続けながら答えた。
「昨日のゴミ拾いのことを生徒会日誌に書いてる」
「そっか、お前だけ別行動だったもんな。……次の見回りのときお前運動部回れよ、私は文化部回るからな」
「わかった。次はそうするよ」
「よし、任せたぞ。次回は多分夏で運動部は暑いは汗臭いわで地獄だからな」
う……そうだった……。
ということは、さっき「副会長いらない」と言っていたのはそういう意図か。
「えー! 私暑いの苦手なんで次は文化部がいいです!」
「駄目だ菱川、お前と藤澤は1年なんだから次回も運動部だ」
「ずるいですよ常盤先輩!」
「次回はコーイチが運動部回るだろうからアタシも自動的に文化部だ〜。助かった〜」
「じゃあ次回は私と副会長が文化部で他5人は運動部な」
「茜先輩と常盤先輩の2人だけだと不安過ぎるので駄目です!」
「え〜? コハルン信用してよ〜」
「詩音だけずるい。私も次は文化部」
あれ? 千葉さんがそんな我儘を言うのは珍しいような……。
「夏実先輩もですか!?」
「なら夏実もいるから不安要素はなくなったな。安心しろ菱川」
「今日は5人だったんですから次回も運動部は5人でやりましょうよ!」
菱川が道連れにしようと食い下がる。
「お前ら1年は今回で仕事覚えたんだから次回は4人で十分だろ」
「えーー……」
しかし常盤に口で勝つのは無理だろう。
「それより副会長、さっきのあれなんすか。馬鹿丸出しじゃないすか」
「だってアタシ野球のルール知らないもん」
「何かあったの?」
書くのを中断し常盤の方に顔を向け尋ねると、常盤は移動していつも会長が座っているお誕生日席に座った。
「お前野球のルール知ってるか?」
「知ってるけど」
「さっき野球部回ってたとき守備練習中だったんだよ。なのにこの副会長様は『ナイスバッティングー』て……一緒にいたこっちが恥ずかしいわ」
「でもいい音してたじゃん」
「ほら、このレベルだよ。酷すぎるだろ」
「逆になんでトッキーは野球のルール知ってるの?」
「地元に球団あるんだからプロ野球の試合くらい観るっての」
「いやいや、普通女子高生は野球なんて観ないから」
「お前はプロ野球観るか?」
「いや、観ないよ」
地元に球団があるのでテレビでよく放送しているのは知っているけれど、プロ野球の試合は観たことがない。スポーツ観戦はほとんどがサッカーだ。
「なんだ、佐々木も観ないのか。夏実と菱川は?」
千葉さんは首を横に振り、菱川も「観ないです」
と返した。副会長が言ったように普通の女子高生はプロ野球など観ないだろう。
「僕は観ますよ。今年調子いいですよね。近年Bクラス続いてるので最低でもAクラス入ってほしいです」
「だよなー。お前ホールドって知ってるか?」
「中継ぎ投手に記録されるやつてすよね」
「よし、なら藤澤に問題だ。自分のチームが1対0でリードして進んだ6回裏にある選手がリリーフでマウンドに上がりその回を0点に抑えた。7回裏にその選手は右翼手に移り違う投手が0点に抑えた。そして1対0のまま8回裏にその選手は右翼手から投手にポジションを移して再び投球するも1点を取られて追いつかれた。9回裏は再び右翼手に移り違う投手が0点に抑えて延長線に入った。そして10回裏1対1でまた右翼手から投手に移り0点に抑えた。11裏回に交代され12回裏にサヨナラ勝ちした。さて、このときその選手にはホールドが記録されるか?」
「なんですかその問題……。誰もそんな采配するわけないじゃないですか」
「しないだけであり得ないわけじゃないだろ。ゲームだったらこんな采配でも好き勝手にできるしな」
「……1回目の登板でホールド条件を満たして降板、2回目の登板は追いつかれたからホールド条件を満たせずに降板、3回目の登板で再びホールド条件を満たして降板、ってことですよね?」
「わかりやすく言うとそうだな」
「トッキーとリョーが何言ってるかちんぷんかんぷんなんですけど……。ホールドって何? ササッキーは意味わかる?」
「いえ、全然わからないです……」
最低限のルールしか知らないので自分も全然理解できなかった。
菱川は興味がないのだろう。椅子に座ってスマホを片手に「これカワイイですよね」と千葉さんに話しかけている。
「ホールドってそこまで詳しく知らないんですよね。……分からないです。答え教えてください」
「教えるわけないだろ。自分で調べろ」
「えぇー……」
「アハハ、トッキーイジワル〜。野球部にでも聞いてみたら〜?」
「いや、野球部でもたぶん分からないですよこんな問題。そもそも高校野球にホールドないですし。……もしかして常盤先輩自身も答え知らないんじゃないですか?」
確かに常盤なら自分が答えを知らない問題を出題してもおかしくはない。
「いや、私は答え知ってるよ。なんせこの問題はプロ野球で審判やってる私の親父から出された問題だからな」
「常盤先輩の父親、プロ野球の審判なんですか!?」
「そうだよ。その影響で兄貴は野球やってたし中学の弟2人はどっちも野球部だ」
「それってトッキーが野球観てるの家族の影響ってことじゃん。やっぱり普通は観ないって〜」
「でも副会長殿の頭がパーなのは家族の影響じゃないですよねぇ。従兄妹の会長が頭いいんだから」
「なんだとー! それ今全然関係ないだろー!」
「そういえばこの前親父が主審やってる試合がテレビでやってたから家族で観てたんだよ。そしたら打球がワンバウンドして親父の股間に当たってさぁ。メチャクチャ悶絶してたから家族皆で爆笑だったわ」
「それ笑う場面じゃないでしょう……」
「いやいや、自分の父親が仕事中に赤っ恥かいてそれをテレビ越しに見てたら絶対笑うっての。弟2人なんか腹抱えて笑ってたな。あれは最高だった。ってことで私は親父に聞いたから答え知ってるんだわ。頑張って自分で調べろよ」
「……わかりましたよ」
藤澤も椅子に座りスマホで何かをやり始めた。ネットでホールドとやらについて調べているのだろう。
誰もまだ帰らないようだ。
「そうだ、副会長にも面白いクイズ出しますよ」
「え、なになに〜?」
「今から準備するんでそれまでこっち見ないでください」
「じゃあアタシお花摘みに行ってきま〜す」
副会長が生徒会室から出ていくと、常盤がスクールバッグからノートを取り出し何かを書き始めた。
横目でチラッと見てみると
玉
と書き、次のページに
金玉
と書いていた。
しかし見ていたのが常盤にバレてしまった。
「おい、見るなよ!」
「多分それ知ってる」
「なんだつまらん」
小学5年生のときにクラスの男子がやっていた。とても巫山戯たクイズだ。
しかし女子が出すクイズではないだろう……と思ったが、常盤が副会長に出すクイズなのだから普通なわけはなかった。
おそらく先程の父親の話で常盤はこのクイズを思い出し副会長をおちょくろうと考えたのだろう。このクイズを知っているのも兄弟の影響だろうか?
少しすると副会長が戻ってきて常盤のクイズタイムが始まった。
「これなーんだ?」
常盤がノートを立ててページをめくった。
玉
「玉?」
副会長が首をかしげる。
少し間を置き常盤が次のページをめくった。
金玉
「え!?」
更に次のページをめくる。
金玉金
「えぇーー!?」
もう1ページめくる。しかし次のページは
銀金玉金銀
「ん?」
そして常盤は副会長に答えさせないようすぐさまページをめくった。
歩歩歩歩歩歩歩歩歩
角 飛
香桂銀金玉金銀桂香
「はい正解は将棋でしたー」
「ちょっと! 何このクイズ、酷くない!?」
「あれ〜? もしかして副会長殿は途中変なこと考えてましたか〜?」
「考えるに決まってるでしょうがー!」
「あっはっはっは」
「くそー、何か変だと思ったらー!」
生徒会室に隣接している物置部屋には何故か将棋やオセロやチェスが置いてある。
そしてたまに自分と会長が将棋を指しているので「そもそも将棋なんて知らない」とは言い訳できない。
「なら将棋で勝負だー!」
「副会長将棋できないでしょうが」
「ならオセロで勝負だー!」
「はいはい、わかりましたよ。持ってきます」
「アタシ先攻で白ねー」
副会長が自分の横に座ると、オセロを取ってきた常盤もその対面に座る。
そして副会長対常盤のオセロ勝負が始まった。




