佐々木 9
今日の軽音部は自分達が使う番だと宮本が言っていたのでおそらくあの3人がいるはずだ。真島はいるだろうか?
軽音部が使っている空き教室へ向かっていると演奏している音が聞こえてきた。
そこで気付いてしまった。音が聞こえるということは自分の歌声も他の人に聞かれていたのではないか……。
「軽音楽部、練習中すまないが邪魔するぞー」
「あ、生徒会長、こんちわー」
越後が最初に気付き演奏を中断して挨拶をした。宮本と奥井も演奏をやめ、もう1人いた1年の生徒と同時に軽く頭を下げる。当然自分のことも視界に入っていたはずだが、生徒会長がいるためそちらへの態度を優先したのだろう。
どうやら真島はいないようだ。もし真島がいれば生徒会長と一緒にいることなど関係なく自分にも声をかけてきそうだ。
「ああ、練習中悪いな。3年は……いないか」
「今日は俺達2年の番なんで3年生は来てないですね」
越後が会長に近づき話し始めた。越後はコミュ力が高いので相手が3年の先輩だろうが生徒会長だろうが物怖じしない。
「そうか」
「部活の見回りですよね? 一応俺が副部長なんで話聞きますよ」
今年の軽音部は学年ごとに活動することが多いため部長は3年が、副部長は2年の越後が務めている。
「ならまずは……」
「佐々木、こっち来い」
会長が越後から聞き取りを始めると、宮本が自分を呼び寄せたので3人の方へ向かう。
「……なんか生徒会長と一緒にいたから違和感あるな」
「だよね」
「いつもどおりでいいよ2人とも。真島は?」
「あいつは今日来てないな。唐川とどっか遊びにいったんじゃね?」
「そっか」
「あー、紹介するわ、こいつ鈴山。軽音部の1年」
「どうも佐々木先輩、鈴山渉です」
「よろしく鈴山、佐々木です」
「生徒会の人ですよね?」
「うん、そうだけど」
「……今日休み時間に会いましたよね?」
「え?」
全然覚えていない……。
「えーと、諒太、……体育館のとこで藤澤諒太と会ったとき一緒にいたのが俺です」
「…………あー、いたね。そっか、あのときの藤澤の友達か」
確かにあのとき藤澤と一緒にいたツンツン頭だ。
「そうっす。んでそのときもう1人いたのが会長の弟の弘和なんですけど知ってました?」
「へぇー、あれ会長の弟だったんだ。知らなかった」
でも会長に全然似ていなかったような。
「おいお前ら、なんでいきなり俺と奥井がついていけない話をするんだよ」
「そうだよ、藤澤とか弘和って誰?」
「えーっとですね……」
何故かほぼ初対面の自分と鈴山が宮本と奥井に対して藤澤と会長の弟について説明することになった。
普通は宮本と奥井が仲介して自分と鈴山のことを紹介する場面のはずだが妙な状況だ。
「じゃああそこにいる会長の弟と佐々木の生徒会の後輩がお前と同じクラスってことか?」
「そうです」
「俺ら関係ねぇじゃん」
「いや、聞いたのそっちじゃないですか。……ていうかこの際思い切って聞いちゃいますけど、もしかして先輩達が交渉中のボーカルって佐々木先輩ですか?」
!!
「は!? なんでお前知ってるんだよ!」
「えーっとですね……。先輩達が練習しているときに何故か歌声が聞こえて……。誰が歌ってるかは確認しなかったんですけどその声が佐々木先輩に似てるなーと……」
「お前来るなって言っただろ!」
「いや、なんか来るなって言われたのが怪しかったんでつい……」
「森原は聞いたのか?」
「いえ、俺だけです」
「誰にも言うなよ! 3年の先輩達にもな」
「別に言いませんよ。……あの、交渉中ってことはまだ決定ってことじゃないんですよね?」
「そ、そうだけど……」
というよりもやるつもりはない……。
「なら俺達の方に入ってくれませんか? 俺達も今ボーカル募集中なんですよ! 文化祭で歌いませんか?」
「え、えぇ……」
「おい、ふざけんなよ! 横取りすんな!」
「そうだよ。俺達が先だよ」
「いやいや、決めるのは佐々木先輩でしょ。ちなみに俺達1年生は2年生の先輩達より上手いですよ」
「お前らまだドラムいないんだから無理だろ!」
「無理ってことはないでしょう。ドラムいなくても工夫次第でなんとかなりますって。それにその内誰か入るかもしれないですよ。佐々木先輩メチャクチャ歌上手かったし声もかなり俺好みなんで、どうかご一考お願いします。あ、先輩達の方と兼任でもOKですよ」
「いや……」
「おい佐々木、もうそろそろいいか?」
どうやら会長と越後が先に話し終わっていたようだ。
少し居心地が悪くなっていたので助かった。
「は、はい、大丈夫です」
「佐々木先輩、是非考えておいてくださいね」
「こいつのは断っていいからな」
「そうだ佐々木ー、明日また新しい小説何冊か持ってきて」
「またな佐々木、生徒会の仕事頑張れよー」
最後に越後に声をかけられ軽音部をあとにした。
次の場所へ向かっていると、今度は会長の方から話しかけてきた。
「あいつら友人か?」
「あ、はい、そうです」
「良かったな、いいやつらじゃないか」
「でも今少し困ってて……」
「ボーカルに誘われている件か?」
「え!?」
「すまん、そっちの話が聞こえてな」
「そうですか……」
「引き受ければいいじゃないか」
「……人前で歌うのはちょっと」
会長が足を止めて真剣な表情でこちらを振り返った。
以前名前の話をしたときと同じような雰囲気だ。
「……できるだけ若い内にそういう経験をするべきだと思うがな。悪く聞こえたらすまんがお前のようなやつは特にそうじゃないか? 菊池や真島を見習え。回りの顔色を伺う必要はないし、少しでもやりたい気持ちがあるのならやるべきだ。彼らもその方が喜ぶだろうし生徒会の皆もお前の歌声を聴きたいだろう」
「でも文化祭中は生徒会としての仕事もあるので……」
「残念ながらそれは言い訳にならん。俺自身が演劇部の助っ人をするからな。お前が文化祭で歌うのであればその時間帯はお前をフリーにする。これは俺やお前だけではなく、他の生徒会メンバーや文化祭実行委員にもそれぞれフリーの時間を与える予定だから気にするな。それに一昨年の文化祭で隈坂先輩は歌っていたぞ」
「え?」
「文化祭当日に隈坂先輩の友人で軽音楽部のボーカルの人が風邪をこじらせたらしくてな。それで歌が上手い隈坂先輩が頼み込まれていた。最初は渋っていたが結局押し切られて歌ったんだ。だが終わった後隈坂先輩は頼んできた人達ととても楽しそうにしていた」
「……」
隈坂先輩は目立つのがあまり好きではない先輩で、美冬会長と秋陽菜副会長の影に隠れている印象があった。そんな隈坂先輩が……。
「お前はもっと自由に生きた方がいいだろう。お前が歌ったところで誰の迷惑にもならん」
「……少し考えてみます」
「最後の演劇部には俺1人で行くからお前は先に生徒会室に戻っていろ。それとお前だけ昨日のゴミ拾いは別行動だったから活動内容を生徒会日誌に少し付け足してくれ。俺が戻るのが遅いようだったら先に帰っていいからな。菊池達にもそう伝えてくれ」
会長から生徒会室の鍵を受け取り1人で生徒会室へ戻ることになった。
おそらく会長は演劇部と文化祭へ向けた打ち合わせなどもするのだろう。
それを見越して演劇部を最後にしたのだろうが、こうなってくると軽音部をその前にして自分を文化部に分けたのにも何か意図を感じてしまう。
生徒会室へ戻り生徒会日誌に昨日の活動内容を書き足していると副会長たちが戻ってきた。




