秋陽菜 佐々木について
6月のある日、生徒会室に1人の生徒がやってきた。
その子は入学してからクラスに馴染めていなかったので、それを見かねた風間先生が生徒会に入らないかと提案したらしい。
コンコン
「……失礼します」
「いらっしゃい。あなたが佐々木君……でいいんだよね?」
「……はい」
「風間先生から少し話は聞いているわ。私も1年生のとき担任が風間先生だったの」
確かにこの子はクラスで馴染むのは簡単ではないかもしれない……。
だから風間先生は他の部活動ではなく生徒会を提案したんでしょうね……。
「よろしくな佐々木。俺は2年の元木という者だ。こちらは3年の秋陽菜先輩で副会長だ。それであちらにいる小さいお方が同じく3年の美冬先輩で生徒会長だ」
「おい! なんで私らの紹介をお前が勝手にするんだ光一! おまけにわざわざ小さいとか言うな!」
「すみません。小さくて可愛らしいと言うべきでしたね」
「おい!!」
「ごめんね来て早々騒がしくて。佐々木君は生徒会に入るということでいいんだよね?」
「……はい」
「ならまずはあのスゴロクをやりましょう。あれをやれば佐々木に俺たちのことを知ってもらえますし、俺たちも佐々木のことを知ることができます」
「ちょっと待って。佐々木君は私たちと今会ったばかりなのよ。いきなり遊ぶだなんて……」
「だからこそですよ。佐々木、俺たちとスゴロクをしないか? とても面白いスゴロクなんだ」
「……はい、僕もやってみたいです」
どうやら佐々木君はコミュニケーションを取るのが苦手というわけではないみたい。
「でも光一君、今4人しかいないわよ?」
「4人でもできるでしょう」
「光一の言うとおりだな。せっかく来たんだから一緒にあれをやって遊ぼうじゃないか。生徒会に入るのであれば、佐々木だけあれをやらないというのも仲間外れみたいだからな」
「……そうね。やりましょうか。佐々木君、椅子運ぶの手伝ってくれない?」
「はい」
机と椅子を移動させてスゴロクを始めようと思ったけれど、相変わらず駒は無い。
「美冬先輩、千葉や常盤とやったときも駒が無かったですよね? どうして駒を用意していなかったんですか?」
「あー、それは忘れてただけだ。基本年1でしかやらないからな。私らはもうやらないと思っていたし、次お前が会長になるならお前が駒を用意しろ」
「前の会長曰く、元々私たちの3学年上の先輩が作ったものらしくて、最初は駒の代わりにキャラクターの形をしたチョコを使ったと言っていたわ」
「で、終わったあとに食べちゃったから駒は元々最初から無いんだよ。ま、聞いた話だけどな。それで年1でしかやらないから、次の会長が駒を用意するのを忘れて卒業。その繰り返しだ」
「成程、なら今回も小銭で代用しましょう」
光一君が財布から小銭を取り出して、それぞれに振り分けた。
「……おい、なんで私が1円玉なんだ?」
「すみません、小さくて可愛らしい美冬先輩は同じく小さくて可愛らしい1円玉が似合っているかと」
「お前な……」
「冗談ですよ。なら生徒会長ですから500円玉ということで」
「そうだな。私は生徒会長だからな!」
「なら私が1円玉にするわ。可愛らしいんでしょう?」
「そうですね。秋陽菜先輩もとても可愛らしいですよ。なら佐々木は100円玉で俺は5円玉にします」
「あ……」
「どうかした佐々木君?」
「いえ……」
「では始めましょう」
「なんでお前が仕切るんだよ!」
何故佐々木君が少し戸惑ったのか、このときの私にはわからなかった。
あとから光一君にその理由を知らされたとき、やっぱりこういう子はそういう気持ちがあるんだな、と納得してしまった。
でもそれをわかった上でも光一君は「それでも佐々木にはそれを大切なものだと思っていてほしい」と力強く言っていた。
スゴロクで遊び終わると、私たちは佐々木君と少し打ち解けることができた。
「どうだった? 楽しかったかな佐々木君?」
「はい、楽しかったです」
「生徒会には他にも4人いるからな。俺と同じ2年の菊池なんかとはすぐに仲良くなれるはずだ」
「そうだな。3年にも隈坂という男子がいてな。そいつともたぶん仲良くなれるだろ」
「明日の放課後、また来てみてね。他の人たちも明日はいるだろうから」
「あの、生徒会の仕事とかは……」
「そんなものは慣れてからでいい。心配するな」
「はい……。それでは失礼します……」
バタン
佐々木君が生徒会から出ていくと、光一君が真面目な表情で話し始めた。
「……美冬先輩、秋陽菜先輩、俺たちは佐々木と仲良くなることはできますけど、佐々木に本当に必要なのは同学年で男子の友人だと思うんです。それにできれば佐々木と同じクラスがいい」
「……そうだろうな」
「そうだね。私たちじゃダメかもね……」
「佐々木と同学年の常盤も千葉も女子ですからね。なんとか俺が考えてみます」
「ああ、頼んだ。私たちよりも学年が近くて男子のお前の方がいいだろうな」
「はい……」
その後、佐々木君は夏休みに同じクラスの男子の友達ができたようで私たちは一安心した。
その子は真島君というらしい。問題児で1年生の中ではそれなりに有名な生徒だという。
それから半年後、私は卒業し3学年下の妹が私と同じ高校に通うことが決まった。
妹の小春に生徒会を勧めてみたところ、興味を持ったのか入ることに決めたらしい。
小春は佐々木君のような人に対する偏見は持っていないはずなので仲良くできると思う。
小春自身にも楽しい高校生活を送ってほしいけれど、光一君が生徒会長なのだからそこは心配いらないのかもしれない。




