佐々木 3
あれ以降も夏休み中、真島君·宮本君と遊ぶことが何回かあった。真島君が誘ってきてくれたからだ。
生徒会の活動で夏休み中に学校へ行ったとき、そのことを生徒会の先輩達に報告するととても喜んでくれた。
自分のことを心配してくれていたのはこちらも感じていたので、まるで親に見守られている子供のようで少し恥ずかしかった。
夏休みが開けた初日、以前とは異なった緊張感があった。
教室に入るといつものように誰からも話しかけられなかったが、自分の席に座り少し待っていると真島君が教室に入ってくるなり「佐々木おはよう〜」と挨拶をしてくれた。自分も「おはよう」と返すと、クラスメイトからは異様な光景に思えたのだろう、こちらを横目で見ながらひそひそと話し始めた。当然分かっていたことだ。
それでも真島君は気にする素振りなどすることなく、そのまま昨日見たテレビ番組の感想を話し続けた。
その後も休み時間の度にひそひそ話が繰り返されても、真島君は変わらず話しかけにきてくれた。
周りの人達は悪口や陰口を言うだけでそれ以上のことは何もしてこない。端から見れば問題児2人が会話しているだけなのだから。
この日は午前授業だけだったのだけれど、放課後真島君と宮本君に連れられ、ある空き教室に案内された。そこには2人の男子生徒がいた。
「よう、越後、奥井、こいつが佐々木。お前らに紹介するわ」
どうやらこの2人が宮本君と同じ軽音部の人達のようだ。
「知ってるよ。宮本お前、真島といい佐々木といい、1年の有名人ばっかり俺らに紹介するんだな」
やはり自分のことは他クラスにも知られているようだ。当然か……。
真島君のこともすでに知っているらしい。もしかして真島君とも仲が良いのだろうか?
「ていうか俺は別にいいけど、奥井は佐々木大丈夫なのか?」
「え、なんで?」
「だってお前女子駄目だろ」
自分は女子ではないけれど……。
「いや、前に廊下で見たことあるけど完全に男子じゃん」
「完全に男子ではないだろ」
確かにそうだ……。
『完全に男子』ではない……。
「いや、見た目がだよ。男子の格好だし顔も男子じゃん」
「奥井は顔と服装で男子か女子か判断してるんだな」
「え!? そうじゃないの!? 違うの!?」
ほとんどの人は違うと思う……。
「とりあえず奥井が大丈夫ならいいんじゃないか? 俺越後修介、クラスは違うけどよろしくな」
「……俺は奥井、よろしく」
「奥井の下の名前はえなとだ」
「なんでわざわざ言うんだよ越後!」
「ちなみに漢字はこうだ」
越後君がスマホで『栄成翔』と見せてきた。
「俺自分の名前好きじゃないんだからさ!」
自分も好きではない。……いや、嫌いだ。
「さ、佐々木です、よろしく……」
下の名前は言いたくない……。
多分知られてはいるだろうけれど……。
「ほら、声は女子だぞ奥井」
「声だけじゃん」
「お、なんか強気だな」
「越後が俺で遊ぶからだよ!」
「ハハハ、とりあえず皆でカラオケでも行くか?」
真島君とはあのとき以降も何回かカラオケに行った。
連絡先を交換したあのあと、勇気を出して真島君の前で歌ったけれど、歌うの上手いね〜、と褒めてくれただけで声自体には何も反応がなかったからだ。
今では真島君の前でなら躊躇うことなく歌うことができる。
でも他の人達の前では歌うことができるだろうか……。
「カラオケは今度にしてバッセン行きたいなぁ〜」
「真島がカラオケ拒否るの珍しいな。どうした?」
確かに越後君の言うとおり、真島君はてっきりカラオケなら行きたがると思っていた。
「俺最近佐々木と何回もカラオケ行ってたからさぁ〜。久しぶりにみんなでバッセン行きたいなぁ〜」
もしかしたら真島君が自分を気遣ってくれたんだろうか……。
「ハハハ、真島全然打てないのにな。じゃあバッセン行こうぜ。佐々木はそれでいいか?」
「……うん、いいよ」
越後君は良い意味でも悪い意味でもとても気さくな人に思えた。
奥井君はどうだろうか? 女子が苦手らしいけれど、自分と仲良くしてもらえるだろうか……。
そんなことを考えながら、5人で歩いてバッティングセンターに向かっている最中「佐々木は運動神経どうなんだ?」と、越後君が聞いてきた。
「……いい方だと思う」
そう答えたけれど、体育で男子と一緒にバスケをしていると「なんであんな男女と一緒にやらなきゃ駄目なんだよ」とか「なんかあいつに負けるの腹立つよな」などの悪口を言われてからは、手を抜くようになってしまった。
本当はスポーツは得意だから一生懸命やりたい気持ちはある。
こんな自分じゃなければ運動部に入りたかったくらいだ。
「佐々木はバッセン来たことあるの〜?」
「……いや、初めて。でも野球のルールは知ってるよ」
「じゃあ打ち方は夜長か越後に教えてもらいなよ。俺と奥井は下手だからさぁ」
「俺じゃなくて越後に教えてもらえ」
「俺? 別にいいけど」
多分越後君と早く親しくなれるようにということだろう。
バッティングセンターに着き打席に入り、打ち方を越後君に教えてもらい、試しにやってみることになった。
「80だから当たりはするかもな」
宮本君がそう言ったけれど、実際にやってみるとかなりいい当たりが多く、打っていて気持ちが良かった。
やっぱりスポーツは好きだ。
「……これもしかして俺や越後より上手いんじゃね?」
「うわー、すごいな佐々木〜」
「やっぱり普通の男子にしか見えないんだけど……」
「ハハハ、すごいな、初めてでこれかよ。次100でやってみようぜ」
100km/hの打席に移動して、その様子をまた4人が見ていた。
100km/hもさっきよりは当然速くは感じたけれど、何球もいい当たりを打ち返せた。
「……やっぱり佐々木の方が俺や越後より上手いな」
「ハハハ、佐々木運動神経良過ぎだろ。これならもっと速くても打てそうだな。奥井と真島は佐々木をお手本にしたらいいんじゃないか?」
「えぇ、確かに俺下手だけど、別に上手くなりたいってわけじゃないよ……」
その後、真島君が全然打てないのを4人で笑いながら見たり、一緒にアイスを食べながら雑談したりして越後君とはすぐに打ち解けることができた。
アイスを食べ終わり「腹減ったしそろそろ帰るか」と、宮本君が切り出したので帰ることになった。
奥井君だけが自転車通学のためここで別れることになる。そのときに「なんか俺だけ仲間外れみたいで嫌なんだけど……」と、渋々自転車に乗り駅とは反対方向へ走り去っていった。
結局奥井君とはあまり話せなかった。
そのことを駅に向かって歩いている最中越後君に相談すると「あいつは人見知りも多少あるからな」と、返された。どうやら真島君ともそこまで仲良くはないらしい。自分と真島君がいたことで奥井君の居心地が少し悪かったのかもしれない。「その内慣れてくるだろうから佐々木から話しかけてみろ」とアドバイスされた。
信号待ちの最中に宮本君に催促され、越後君と連絡先の交換をしてもらえた。
楽しく雑談したまま駅に着いたけれど、越後君も真島君達と同じ駅が自宅の最寄り駅のようで、自分だけ別れることになった。
皆とは反対方向の電車に乗り、揺られながら外の景色を見ていると、奥井君が言った仲間外れのような気持ちが少し分かったような気がした。あの3人はまだ一緒にいるのだから。
それでも今日は自分にとっては特別な1日だった。
また友達が増えた。




