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唐川 1

「ep.2 奥井」「ep.3 越後」「ep.4 宮本」ここらへんと繋がっているはなしになります。

 曽我が炊飯器の中の炊きたてのご飯を見せてきた。 

 相変わらず曽我も変なことをするなぁと思いつつ、聞きたいこともあったので曽我と一緒にベランダで食べることにした。


 椅子と弁当を持ち、教室からベランダへ移動して椅子を外の方へ向けて置いた。

 椅子に座り膝の上で弁当を広げればなんとか食べられそうだ。

 曽我は僕の右側に椅子を置き、持っていたカバンをその間に置いた。

 気になっていたので食べ始める前に1つ目の質問をしてみる。


「どうして学校で炊きたてのご飯が食べたかったの?   

 家でも食べられるよね?」

「うん、もちろん家でも食べてるんだけどね。でも学校のお昼ご飯では1回も食べたことがなかったから、どうしても食べてみたくてさぁ。なんていうか普段食べない時間帯に食べてみたくなるんだよね」

「どういうこと?」

「えーと、例えば朝にカップラーメンだったり蕎麦だったり、夜にサンドイッチだったり」

「ああ、そういうことか。意味はわかったけど僕は別にそういうことはしたくはならないかな」

「そうかぁ」


 話しながら曽我の様子を見ていると、カバンには炊飯器が入っているところとは別の収納場所があり、箸やしゃもじや茶碗などもそこに入れて持ってきていた。

 卵と納豆も保冷剤と一緒に持ってきており、名前はわからないがプチプチした緩衝材に1つ1つ卵が包んである。

 水も空のペットボトルが見えたので家から持ってきたのを使ったようだ。最悪足りなくても学校でも水は手に入る。

 曽我はしゃがみ込んだまま炊飯器のご飯をしゃもじで茶碗によそい、それを椅子の上に置き今度はパックの納豆をかき混ぜ始めた。混ぜ終わると納豆をご飯の上に乗せ、納豆のパックを持ってきたビニール袋に捨てた。

 椅子に座ってようやく食べ始めたので僕も食べることにする。


「ん〜、やっぱり炊きたてのご飯と納豆の組み合わせはいいなぁ」

「ふふふ、そんなの学校で食べてるの曽我だけだよ」


 ピンポンパンポーン

「教頭先生、教頭先生、至急職員室まで来てください」

 ピンポンパンポーン


 2回目だ。

 教頭先生は何処にいるのだろうか?


 曽我はあっという間に1杯目を食べ終わると、また炊飯器の前にしゃがみ込み2杯目のご飯をよそい始めた。

 もう一つ聞きたいことがあったので聞いてみる。


「それ、どこで炊いたの?」

「ああ、これは校長室で炊いたんだよ」


 校長室!!

 全然予想していない場所だった……。


「最初は教室のコンセント使っていいかフーセンに聞いたんだけどさ、駄目って言われたんだよね」

「まぁ、そうだろうね」


 教室のコンセントを生徒は使ってはいけない決まりになっているからだ。

 曽我は話しながら卵を緩衝材から外し、茶碗によそわれたご飯の真ん中に卵を片手で割り黄身を落とした。

 卵の殻もビニール袋に捨て再び座り直した。

 僕は片手で卵を割ることなんてできないので少し感心しつつ、おかずとご飯を口に含んだ。


「だから料理部の顧問の先生に家庭科室にある炊飯器で炊かせてもらおうって思って頼んだんだけど、それも断られちゃって。1回許可すると他の生徒も真似するかもしれないからって言われてさ。だからいっそのこと校長先生ならどうかと思ってお願いしにいったんだよね」


 曽我が本命の卵かけご飯を食べ始めた。

 口にかき込んでいるせいで喋れないが、どうしても続きが気になる。


「……ん〜、やっぱり卵かけご飯最高だ〜。醤油忘れてなければもっと良かったんだけどなぁ」


 そういえばさっきもそんなことを言っていた。自分の弁当の中に魚形の醤油入れがあったのでそれをあげることにした。


「曽我、これ使っていいよ」

「え、それ醤油?」

「うん」

「ありがとう。唐川がいてくれて良かったよ〜」

「いえいえ。それよりも校長先生に相談しにいってどうなったの?」

「………ん〜、どうしても炊きたてのご飯が食べたいって言ったら1回だけならいいって言われてさ」

「へえぇ」

「でも条件を出されたんだよね」


 まさか校長先生から許可が下りるなんて……。

 曽我は2杯目を食べ終わり3杯目をよそい始めた。 

 2杯目と同じように卵を片手で割り今度は醤油を垂らした。確かに美味しそうではある。


「条件って?」

「ごめん、これ先に食べていいかい?」

「うん、ごめんごめん、先に食べ終わってからでいいよ」


 話の続きが聞きたいけれど、ご飯が冷めてしまっては申し訳無いので食べ終わってから話すことにする。

 当然自分も食べ進める。

 曽我は3杯目も食べ終わり続きを話し始めた。


「早く登校して校長室にこれを持っていって校長室を掃除するのと、他の生徒にバレないように校長室で食べるのが条件って言われたんだ」


 僕はまだ咀嚼していたが、曽我はそのまま話し続けた。


「だからいつもより早く登校して校長室を掃除したんだ。でも昼休みに校長室に行ったら『急な来客があって校長室を使うから自分の教室で食べなさい』って言われたんだよね」


 ピンポンパンポーン

「教頭先生、教頭先生、至急職員室まで来てください」

 ピンポンパンポーン


 3回目だ。

 ただの勘だけれど、もしかして今曽我が言っていた急な来客が理由で教頭先生が呼び出されているのかもしれない。

 校内放送が終わると曽我はそのまま話し続けた。


「だから教室で食べることにしたんだ。本当は校長室で食べるのもいいかもって思ってたんだけどね。まぁ、越後に言われたから結局ベランダで食べることになったけど。でももし他の先生に注意されても、許可をもらってることも言っていいって校長先生に言われたから怒られる心配もないし、炊きたてのご飯を食べられたから十分満足なんだけどね」

「へぇ~、そうだったんだ」


 校長先生もけっこう変わった先生なのかもしれない。

 炊飯器を見るとタイマー機能があり、多分それを利用したのではないかと思う。まさか校長先生に炊飯ボタンを押すことまで頼んだということはないだろう……。

 曽我は残っていたご飯を全て茶碗によそい、4杯目も卵かけご飯にして食べ始めた。

 とりあえず炊飯器について聞きたいことは聞けたので食べることを優先することにした。

 食べ続けていると、今度は先に食べ終わった曽我から質問が飛んできた。


「唐川はそんなに少ない量でお昼ご飯足りるの?」


 僕の弁当は他の男子の弁当と比べると小さい。

 僕は身長が低く少食なのでそれでも足りるのだが、高身長で体も大きい曽我からすればそう思うのだろう。


「うん、僕はこれで十分なんだよね。曽我は身長体重どれくらい?」

「身長は185くらいだったかな? 体重は80くらいだったような……唐川は?」

「僕は155ちょっとで体重は45前後かな」

「そんなに軽いのかぁ。もっと食べないと」

「うーん……あんまり食べられないんだよね。曽我は身長が高いから羨ましいよ」

「大きいだけだよ。運動も苦手だし」

「僕も運動は苦手だよ。佐々木が運動神経抜群だから羨ましいな」

「そうだね。佐々木の運動能力の高さは凄いよ」

「体育でバスケやったときドリブルもシュートも上手かったよね」

「あれは驚いたなぁ」


 残っていた弁当のご飯を完食し、もう一つ気になっていたことを聞いてみた。


「曽我はいつもどこでお昼ご飯食べてるの?」

「大体は2組で高橋と食べてるよ。たまに演劇部の先輩達と食べることもあるかな。ただ今日は校長先生に自分の教室で食べなさいって言われたからね。だから今日は高橋はたぶん先輩達と食べてるよ」

「そうだったんだね。いつも3組にいないから疑問だったんだ」

「真島と宮本もいつも2組にいないけどね」

「確かにそうだね」


 その後、曽我が所属する演劇部について聞いていると救急車の音が近づいてきた。

 誰か生徒でも倒れたのだろうか?

 ベランダは意外と居心地が良く、曽我とは結局そのまま昼休みが終わるまで会話をした。

 またベランダでお昼ご飯を食べたり雑談するのもいいかもしれない。



 5時間目の授業に入ると、もう一度救急車の音が鳴り遠ざかっていった。

 そのとき教室がざわついたが、隣の2組から風間先生の大声が聞こえると3組の生徒まで静かになった。

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