第3話
「お姉ちゃん、大丈夫……もう、三日だよ?私の学校はもう冬休みに入っちゃったよ……?ねぇ、一緒にどこか遊びに行こうよ……」
扉の向こうから、自分を呼ぶ声が聞こえて来た。しかし、みどりはそのドアを開ける気力が一切出なかった。
彼女が見てるのは、スマホでのメール画面であり、そこには一通のメールが入っていて、それを何度も何度も見続ける。
「かなん……お姉ちゃん……」
みどりはそう呟いて、ぎゅっと緑の大きな帽子を抱きしめる。スンスンと、みどりはその帽子の匂いを嗅いでみると、どこかかなんのことを思い出すことができて、少し気持ちが落ち着いてくるような気がした。
かなん……アーチャーが、ブレイカーの攻撃からみどりを身を呈して守って、最初の脱落者となり、早3日。みどりはずっと彼女のことを忘れることができなかった。
かなんが残してくれたのは、この緑の大きな帽子と、彼女が最後に言った自分を曲げるなという言葉。それだけといえばそれだけだが、彼女にとってはそれだけで片付けれなかった。
彼女と話して、一緒にいたのは一日もなかったが、緑の脳裏には一日以上、張り付いていて何処かからかなんが自分に向かって笑いかけてくるような気がした。
「…………?なに、か、聞こえたような……」
そんな時ふと、何か音が聞こえたような気がして、みどりはゆっくりとその音が聞こえる方を見る。そこには何かが落ちていた。それが気になってみどりはそれを拾い上げ、それを見てみると、それは一昔前のケータイであった。もちろん、みどりのではない。
みどりはそのケータイを持ち上げてパカリと開ける。それは普通のケータイで、待ち受けには笑顔でベッドの上に寝ている女性とその隣には同じように笑っている、今一番会いたい女性が写っていた。
「……か、なん……お姉ちゃん……?」
そこにはかなんとおそらく彼女の母親であろう女性とのツーショットが、待ち受けとなっていた。しばらくその待ち受けを見ていたが、ふと、そのケータイにメールが届いてるのに気付き、メールを開いた。
「差出人……も、受取人も……倉橋、かなん……?」
みどりはどきりとしながらそのメールを開いた。メールの本文には、最初にみどりちゃんへと書かれていて、さらにみどりはどきりと胸を跳ねさせながら、その本文を読み始める。
「……みどりちゃん。多分この文章を読んでるなら、私は多分死んでる……よね。私の願いは……この戦いを終わらせてほしい……お姉ちゃんとしての、先輩としての、そしてお友達からの最後の願い……聞いてくれてくれる……かな?それじゃ、じゃあね」
みどりは最後まで読んで、また最後まで読んで、もう一度最後まで読んで、何度も何度も読み、その度にみどりはかなんとの思い出を思い出していく。
「あ、あれ……?」
ポトリと、みどりは目から何かが落ちていくのに気づいた。それはケータイの画面を跳ねて、画面を滴りながら、みどりの指についた。それを涙だと悟るのには時間はいらなかった。
みどりは震える手で戻るボタンを押してもう一度かなんの写真を見る。笑顔のかなんの顔がみどりの涙で濡れていく。それがなぜか申し訳なくて、みどりはケータイをパタンと閉じる。
「かなん……さん……自分勝手すぎ……るよぉ……」
みどりは泣いてるとも、笑ってるとも取れるような顔になってボスンとかなんの帽子に顔を押し付ける。そして、大きな声で泣き叫び始めた。
何分か、何時間か。みどりはそれすらわからないほど泣き続けて、そのまま眠ってしまった。そして、彼女の顔は先ほどまでと違い、どこか吹っ切れたようになっていて、規則正しい寝息を立てていた。
◇◇◇◇◇
「フ、フヒ……フヒヒヒヒ……」
気持ち悪い笑顔を浮かべながら、緑の大きな帽子をかぶったみどりが、道を歩いていた。
彼女はかなんの願いのためにと自分に言い聞かせながら、家の外に出た。叔父さんもきなこもいない時間を狙ったため、おそらく家の者は誰も気づいてない。
久しぶりの本物の外。道行く人がみどりに冷たい視線を送って、そして嘲笑ってるような気がして、みどりは笑いながらも目に涙を浮かべる。
それから逃げるように彼女は帽子を深く被りながらオドオドと歩く。そんな彼女には今、ある目的があった。
それは、同盟相手を探すこと。どう考えても生き残るにはそれが一番最善の行動であり、勝利に繋がると考えていた。
しかし、もう彼女が参加してから5日ほどたっており、もう同盟相手はいないのかもしれないとも思っていた。
ドンッ
「つっ……」
「いつ……っ!?ご、ごめんなさいごめんなさい!!」
前を見てなかったからか、みどりは女性にぶつかり思い切り背中を地面にぶつける。そして、ぶつかった女性がとてもガラが悪そうで、みどりは流れるように土下座をした。
が、相手の女性はジッとみどりを見下ろして、睨んできた。みどりは子鹿のようにガタガタと震えていたが、その時何かを差し出されたような気がした。
「大丈夫……?たてるか?」
「フヒ……あり、ありがとう……ございますぅ……」
差し出されたのは相手の手で、みどりはそれを握って立ち上がる。そして、もう一度頭を下げて謝った。
改めて見たら、ライダースーツを着込んでいて、紫のポニーテール。そして、どこかキリッとした顔は見覚えがあるような気がした。
そんなことを知ってか知らずかライダースーツの女性はバツが悪そうな顔をして、今度はハンカチを渡してきた。みどりはしばらく迷うが、ライダースーツの女性が押し付けてきたため、とりあえず受け取る。
「それ、やる。もし血が出てたらそれで拭いてくれ」
「フヒ!?……え、えっと、せめて、おな、おなま……」
「……氷室。氷室彩香。もし返しに来るなら、この先の喫茶店に来てくれ。よくいるからな。いなくてもマスターに渡せば私が後でもらう……じゃあな」
そう言って彩香はそそくさと立ち去っていく。みどりは暫くボーッとした後ハッとして彩香とは逆方向に歩く。
途中。少し痛みが走り、痛みが出た場所を見てみると、血が出ていたが、なんとなくそのハンカチで血を拭く気にはなれなかった。
暫く道沿いに歩く。が、あたりの騒がしい音が耳の中に容赦なく入って来て、みどりは少しフラフラとする。今日はここまでにして帰ろうかとも考えた。
「……んっ?」
そんな騒がしい音の中に一つ、綺麗な音が混ざっていた。みどりはそれに誘われるようにその音を頼りに歩き出す。
入り組んだ道の先には小さな教会が建っていた。みどりは暫くその教会を眺めていたが、今度はさらに先ほどの音が聞こえて来たため、その聞こえる方向に向かった。
「……あ、あれ、か……」
そこには一人の少女がマイクを持って歌っており、それを修道女が座って聞いていた。少女はまるでアイドルのようにダンスをして、そして聞くものを落ち着かせるような、そんな歌声を披露していた。
「〜♪〜〜〜♪」
「すごい……とても、綺麗な歌声……」
ポツリと感想を漏らしたみどり。しかし、思ったより声が大きかったらしく、少女と修道女に見つかってしまった。
「あら、可愛いお客さんね!私の素晴らしい歌声に誘われたのかしら?」
「えっ、あの……その……」
「あー!ちょっと逃げないで!えーこほん。私の名前は小波来夏って言うの。というわけでそこのお客さん!私の歌を聴きに来たのね?」
来夏という少女にそう言われて、みどりはオドオドとしながら頷く。それを見た来夏は満足そうに頷いて、マイクを構える。
「さぁ!私の歌を聴かせてあげるわ!」
そう言って来夏はまた歌い出す。修道女に誘われるまま、みどりはストンと座り込んでその曲を聴いていた。当初の目的を忘れるほど、その歌声に聞き惚れていた。
だが、この時実は観客が二人ではなく三人であることは、その三人目にしかわからないことであった。
◇◇◇◇◇
小さな教会での、小さなライブが終わったあとみどりは耳の中に残ってる来夏の声を聞き続けていた。心地よい音色にずっとボケーっとしていて、近づいてくる足音にも気づかなかった。
ピトリと冷たい物が首にあたりひゃっとみどりは思わず声をあげる。そして少し涙目になった顔で後ろにいた少女、来夏をみる。
「お疲れちゃん。ほら、ありがとうの印のおジュース様よ〜」
「フ、フヒ、あり、ありがとうござます……」
「いいってことよ。というか、あんた。改めて聞くと可愛い声してるわね……アニメ声っていうの?」
「……そ、そうですか……フ、フヒヒ……」
その時みどりの顔が少し暗くなったのが見えて、来夏はあははと笑ってごまかした。
そして、みどりの横にストンと座り込んだ。来夏はゴクリとジュースを飲むのを見て、みどりもつられて一口飲んでみる。乾いた喉に、スルリと流れ込む液体がとても美味しくて、みどりは無我夢中でそれを飲んだ。
全部飲むと、来夏がお腹を抱えて笑っていたため、みどりは思わず顔を赤らめる。
「いやぁいい飲みっぷりねあんた!」
「フヒ……」
「そうだ!また明日ここに来てよ。私ここの場所をシスターさんに借りて、毎日歌ってるからさ!えっと……あなたは……」
「フヒ……園崎みどり……です」
「OK、みどりね!そんじゃ、次世代のスーパースター来夏ちゃんをよろしくぅ!」
そう言って来夏は手を差し出す。みどりは握るかどうか迷ったが、おずおずと来夏の手を握った。かなん以来の人の手の温もりに、みどりは思わずしばらく握り続けていた。
「あはは!くすぐったいわよみどり!」
「フヒ!?ご、ごめんなさい小波さん」
「ダメダメダメ……私のことは来夏と呼びなさい。あと、敬語もダメよ?」
「フヒ……えっと、そのあの……ら、らい……」
みどりが彼女の名前を呼ぼうとした時だった。突然大きな音でみどりのスマホが鳴り響き、みどりはそれを慌てて見てみる。
「そ、そんな……」
そこには怪物が現れたことを告げる文章が短く書かれていた。それを見たみどりはゆっくりと立ち上がり、そのメールが示す場所に行こうとする。それもきっと、かなんが望んでると思ったからだ。
「……ちょいと待ちなさいみどり」
「フヒ……な、に……?」
突然来夏に呼び止められて、みどりは振り向く。すると彼女はみどりにスマホの画面を見せて来た。それを見たみどりは思わず絶句する。そこには一通のメールが届いていて、内容はなんと『みどりに届いたのといっしょだった』
「も、もしかし……て……!」
「話は後々……まずは現場に向かうわよ!」
そういう来夏のスマホには、ちらりとだが、あのアプリが入っていた。それを見たみどりが驚いた顔を来夏に見せると、来夏はごほんと軽く咳払いをしてスマホをさらに見せる。
「さぁ、話はアンダーワールドでするから、今は早く行きましょ!大丈夫。私、他の子と戦えないから!」
来夏はそう言ってアンダーワールドに入って行く。みどりはあっけに取られたあと、慌てて追いかけようとする。
その時ふと、彼女が最後に言っていた、他のこと戦えないと言う言葉の意味を考えるが、深く考えずにアンダーワールドに落ちて行った。
◇◇◇◇◇
「ーーー魔法少女システム『セイバー』起動しますーーー」
「ーーー魔法少女システム『シンガー』起動しますーーー」
「よっと、さて。ここに来るのも久しぶりなのよね〜」
そう言いながら、来夏であろう少女が大きく伸びをして辺りを見渡していた。その、あまりにもリラックスしてる様子にセイバーはしばらく言葉を失っていた。
が、しばらく経ってハッと我に帰り、来夏におずおずと声をかけようとするが、緊張でか上手く声が出なくてモゴモゴと口ごもる。それを見た来夏がこほんと大きく咳払いしてピシッと決めポーズのようなものをとった。
「私はシンガー!歌うことに特化したまさに私のためにできた魔法少女よ!!」
「シ、シンガー……?」
「そう。歌で味方を鼓舞したり敵にダメージ与えたり……まぁ、基本攻撃は雀の涙より少ないぐらいしか与えられないのだけどね」
そこまでぼーっと聞いていたセイバーだが、ふと、あることを思い出した。そう、シンガーという魔法少女は……
「どど、どどどどど!!!」
「ぬにゃ!?な、なになにどうしたの!?私のサインが欲しくなったの?」
突然セイバーが手を握ってきたため、シンガーはドギマギしながらセイバーの方を見た。そして、セイバーはセイバーで、突然握ってしまったため、慌てて手を離して飛び退く。
「えっと……お、落ち着いてから……ね?」
「……はい……えっとその……わ、私とい、一緒になってくれませんか!!」
そうセイバーに言われてシンガーはしばらく固まった後、顔を真っ赤にしながら、慌て始める。
「ちょ、ちょっ!突然そんなこと言われても私も心の準備というかなんというか……!!」
「で、でも!来夏さんしかいないんです!!」
「ふ、ふぇ!?でもほらぁ……私たち女の子同士よ?そんなのおかしいと思うのよ」
「女の子同士はおかしくないです!むしろそれが正しい!!」
「何言ってんのこの子!?」
「ググ……」
「あ、貴方もそう思うわよ……ね?」
突如シンガーは声が聞こえた方をちらりと見る。そこにいたのはこちらを狙っているような視線で見てくる、黒い影であった。
「か、かいぶーーー!?」
シンガーが怪物に驚くよりも早く、怪物がシンガーに襲いかかる。が、それよりも早くセイバーが怪物に斬りかかった。
「ていゃぁぁぁぁ!!」
大きな斬撃音の後、怪物は真っ二つに割れて空に消えていく。セイバーは肩で息をしながら、ふぅと一息をついた。
「こ、小波さん……大丈夫……ですか……?」
「あ、貴方こそ……いや、その話もあとかしら?……いっぱいきたわ」
シンガーがそういうといつのまにか何十体もの怪物がここに集まってきていて、その一つ一つがセイバー達を殺さんと見つめてくる。
セイバーは思わずへなへなとした感じで地面に座り込んでしまう。一方シンガーはゴクリと生唾を飲み、一歩前に足を進める。
「ちょ、こな、小波さん!?何して……」
「ねぇ、みどり。いいこと教えてあげるわ……私の歌はね、神様だって悪魔だって魅了しちゃうのよ……さ、そういうわけで貴方達!私の歌を聴かせてあげるから感謝しなさい!!」
シンガーがそういって大きく息を吸い口を開ける。それと同時に何処かからバックミュージックが聞こえてきて、セイバーは辺りを見渡す。そして、シンガーは口を動かし、歌い出した。
「〜〜♪〜〜〜〜♪」
「この歌……」
シンガーが歌い出した歌は、先ほど彼女が教会で歌っていたのと同じであった。が、同じであるはずなのに、なぜか先程より体に訴えてくるものがあった。その歌はセイバーの身体中を駆け巡り、だんだんと力が湧いてくる。
「これが……シンガーの力……」
セイバーがそう呟くとシンガーはチラリとこっちを見て小さく笑った。それを見たセイバーは更に力が湧いてくるような。そんな気がしてきた。
ギュッと剣を握り、立ち上がる。その時、ふと、目の前にシンガー以外の影が見えたような気がした。それは、セイバーが一番会いたい人。
(……かなん、お姉ちゃん……いや、かなんさん)
セイバーは走り出す。そのセイバーをかなんのような影はどこか嬉しそうな顔で見ていてくれていた。そして、自分の背中をトンッと押してくれるような気がした。
だからセイバーは走り出す。かなんの願いを叶えるために、そして、彼女という『敵』を越えるために。
「ていやぁぁぁあぁぁぁあっ!!!」
セイバーは地面に向かって剣を差し込む。ギュンと音を鳴らしながら彼女を中心として、十字の光りが地面に走る。
「ホーリークロス!!!」
そうセイバーが叫ぶと十字に走っていた光りが大きく輝きだし、光りの柱が立ち始める。それぞれが大きく輝きだし、あたりを光りで包み込む。
パァと輝くそれがだんだんと広がって辺りにいた怪物を包み込む。そしてそれらは砂のようになって消えていった。
光りが消えた後、剣を支えにしていたセイバーがどさりと倒れこむ。そんな彼女を心配して、シンガーが走り寄って抱き上げて顔を覗き込む。
セイバーは少し疲れてるようだが、どうやらまだ動けるようで、シンガーはホッと安堵の息を漏らす。そしてシンガーは突如、先ほどセイバーが言った言葉を思い出して、突然顔を赤くして、あーと口を動かす。
「えっと、みどり……さん?さっきの話だけど……」
「も、もしかして……!」
「うっ、でも、やっぱりまだ心のーーー」
「いいんですか!同盟組んでもらっても!!」
「ーーーへ?」
同盟と聞いた瞬間、シンガーはポカンとした顔を浮かべて、次の瞬間には大きな声で笑い出す。今度はそれをセイバーはポカンとした顔で見ていた。
「あははは!!そうよねそっちよね!!……一瞬真面目に応えようとしてたわ……危ない危ない……」
「えっと、小波……さん?」
「いいわ!この次世代のスーパーアイドル小波来夏ちゃんが同盟相手になってあげるわ!」
「あ、ありがーーー」
「その代わり!一つ条件があるわ!」
ピシッとセイバーの鼻先にシンガーは指を突き出した。ぷにっとセイバーの鼻を押した時、シンガーは小さくあっと呟いたが、それでも言葉を続ける。
「私のことを『来夏ちゃん』と呼ぶこと!さらに敬語も厳禁!!ドゥユーアンダースタンド?」
「……わかった。よ、よろし、よろしくね、来夏ひゃ、ちゃん」
そういわれてシンガーはニコリと頷いてセイバーの手を握り、またニコリと笑いかける。セイバーはだんだんと顔を赤くしていき、ヘナヘナと地面に座り込んだ。
「よかった……」
セイバーは今、一番安堵した顔をしていた。それを見たシンガーは暫く考えた後、セイバーの頭をポンポンと優しく撫でた。
その時撫でた手が一つ多い気がして、セイバーは思わず顔を上げる。が、いたのはシンガーだけであって、セイバーは少し迷いながらも変身を解く。
「ーーーあっ」
すると突然風が吹いてみどりが被っていた帽子が風に乗って飛ばされていく。来夏は思わず追いかけようとしたが、みどりが首を横に振って追いかけなくていいという。
みどりは寂しそうな目で、それでもその帽子が飛んでいくのを見送った。そして、みどりは小さくありがとうと呟いて元の世界に戻っていったのであった。
第3話『私の歌を聞きなさい!』
新キャラですね。いっぱい来ました。
ここからさらに増える予定なので、頑張って覚えてください(?)




