式日Ⅳ
思っていたより待たされなかった。
携帯ショップはいつも狭くて。混んでいて、けっこう待たされる。そんな印象だ。
それでも、その時間帯学校に呼ばれたのが、6年生の生徒と父兄だけだったせいか。僕と母さんは、それほど待たされずに、手持の整理券の番号で呼ばれた。
「本日は・・御契約の御家族様のうち、現在小学校などに就学中のお子様のみ、機種変更の対象となります!」
ショップのお姉さんは、少しだけ緊張気味の僕と母を笑顔で出迎えた。
後は前にも聞いたような説明。
僕は少しだけ眠くなった。
「では・・ご説明は以上になります」
それで、新しい携帯の入った紙のバックを手渡され家に帰る。そう思っていた。
「では・・お子様は、そちらの衝立の裏で必要な処置を受けて頂きます」
処置ってなに?
新しい機種を受けとるだけでしょ?
「制定された新法では、外科手術扱いになりますので。なお、処置には医師が必ず立会いますので・・どうか御安心下さい」
外科手術ってなに!?
僕は思わず母さんの顔を見た。
「それなら安心出来ます」
見上げた母の顔は、美術室の石像のレプリカみたいに無表情に見えた。
店員の言葉と、立ち上がった母に促され。僕は白い衝立で仕切られた、ブース裏のスペースに足を踏み入れた。
小学校の身体検査の時の教室。
その場の印象はそれだけだった。
違うのは父兄の同伴者がいること。
白衣を着た、おそらくは医師と看護師さん。そして携帯ショップの人。
普段あり得ない組合せ。
その前には見慣れた同級生たちの列。男女の区別なく。生徒たち皆が、その場に行儀よく並んでいた。
服を脱いで心音を計ることもない。
「滅菌服の頭だけ脱いで…こちらの籠に」
自分の順番が来ると、目の前に置かれた丸い椅子に「腰かけて」と言われ。ただ黙って医師に必要な処置を受けていた。
「注射よりも痛くないからね」
目の前で、唇を弓に結んで座る女の子。
目の前には、白い電話の受話器に似た物体。
その子が目を瞑る。
「ほら痛くないでしょ?」
それが右耳の裏にあてがわれたのは、ほんの一瞬に思えた。
「もういいですよ」
彼女は、看護師さんに耳裏に小さな絆創膏を貼ってもらうと、医師に小さな紙箱を手渡された。
ご褒美の飴でも入っているのだろうか。
そのまま彼女は解放されたような、安堵の表情を浮かべて立ち上がる。
「ぜんぜん痛くないよ」
彼女は小声で僕に囁いた。
そのまま、近くで待っている母親の元へと、ぱたぱたと走って行った。
すぐに僕も看護師さんの言葉を聞いた。
耳裏がひやっとする。
消毒ガーゼの感触。
彼女の後ろでチカッ!
光ってた。
青い光は今の僕には見えない。
それでも僕は病院の匂いが嫌いじゃない。なぜか安心出来るんだ。
皮膚にあてがわれた謎の機械から、バチッ!という音が耳の中で響いた。
家に帰ってから、携帯ショップで貰った紙の小箱を開けた。
サービスポイントで貰える、携帯ケースや、会社のキャラグッズだと思った。
箱の中身はコンタクトレンズだった。
「母さん・・僕、目は悪くないよ」
「新しいヒロトの携帯には必要なのよ」
そうは言っても、肝心の機種は渡されなかった。僕は首を傾げた。
「新しい携帯は・・もうヒロトの頭の中に埋め込まれているの」
母さんは、説明書に目を通しながら僕に説明した。
「これは…表示された画面を見るための、モニターの代わりになるらしいわ」
そう言って、一度消毒した手でレンズを人差指の先にのせた。
「ヒロト・・天井に顔を向けて」
まず僕の右目の目蓋を左手の細い指で広げて。それからレンズを眼球に被せる。
左目も同じようにして。僕にコンタクトをつけてくれた。それで、視力が急によくなるわけではないみたいだ。僕はもともと目は悪くない。
「まだ機種の電源が入ってないからね」
少しだけ異物感。
涙が滲んで来そうになる
僕は拳の裏で瞼を擦る。
「それにこれは・・自然の植物由来の成分で作られているらしいから、ヒロトの涙で溶けてから眼球全体を覆うの・・大丈夫?痛くない?」
「痛くないよ」
「そうよかった」
母さんの言葉通りだった。
僕の目の中に何かが入ってる。
そんな感じ。
それは、すぐに消えて無




