せ、正義の味方参上……だ…と思う
前回の生徒会役員vsリディアちゃん
ヒートアップするリディアちゃんを止めるのは、もちろんアノ人です(笑)
リディアの居る扉方向から突然待ったが掛かり、その場にいた全員が一斉にそちらへと視線を向ける。
「せ、正義の味方参上……だ…と思う」
そこには、小粒のオニキスがセンス良く散りばめられ、上品な銀色に輝くドミノマスクをつけたレオンが、両手を腰に当ててグッと胸を反らして立っていた。そう、見間違えるはずもない、我が国の王太子が、羞恥から顔を赤らめて立っていた。
しかも、途中で勢いを無くしたセリフは、最後に向かうほど声が小さくなり、とうとう最後は「思う」などと未確信で終わってしまった。
そして、よく見ればレオンの背後で震えながら蹲っている背中が見えている。
必死に耐えているのか、時々「ふふっ…」や「ふはっ!」など耐え切れずに吹き出す声が漏れ聞こえる。体を震わせて笑っているせいで、背中に流れるシルクのような黒髪が体から少しずつ滑り落ちているのも見えるが、きっと本人は上手く隠れているつもりだと思うと、何とも言えなかった。
先程まで怒りと感動のボルテージが最高潮の盛り上がりを見せていた生徒会室は、今や自称正義の味方のお陰で潮が引くように静けさと人々の冷静さを取り戻していた。
「せ、成功ですわね」
「何を?本当にこれは正解なのか?……何故か、私の尊厳が失われていっている気がするのだが」
「気のせいですわ。ね、皆さま?」
ようやく笑い終わったのか、目尻に涙を浮かべたままアイリスは立ち上がり、皆を冷静にするという目的が果たされた事でレオンへ任務の完遂を告げる。
しかし、自らの格好と皆から送られる視線に、レオンは果たしてこれが最適解だったのか心底悩み、サラサラと王太子としてのプライドが零れ落ちていく感覚に陥った。
王宮に行ったはずの2人が何故ここにいるのか、そもそも何処にいたのか、いつから聞いていたのか、など浮かび上がる疑問は尽きなかったけれど、それよりも皆が抱いている最も強い疑問は、
「なぜ仮面?なぜ正義の味方?」
だった。
その疑問を解消すべく、いち早くサリオスが口を開こうとすると、それよりも早くアイリスから同意を求められ、反射のようにコクコクと頷いてしまう。
リディア以外の他の役員達も同じで、言いたい事は多々あるのに、アイリスから可愛らしく小首を傾げて同意を求められれば、サリオスと同じように頷いてしまう。
レオン以外の役員全員一致で賛同を得られたアイリスは、心底嬉しそうにレオンへと「ほらね?」と言わんばかりの笑顔を向ける。
そうなると、レオン自身も何だか悩む事が馬鹿らしくなり、「アイリスがそれで良いのなら」と流してしまう。
そんな中、リディアだけは冷静にレオンを見つめていた。
「レオン様、やっぱり来てくれたんですね!皆さんが、私に向かって酷い事ばかり…」
「もう大丈夫ですわよ」
リディアが胸元で両手を組み、媚びるように甘えた声で生徒会役員の非道を訴えると、それをアイリスが穏やかに遮った。
「…は?大丈夫って何が?私、何にも……」
「もう大丈夫です。お母様も、妹さん弟さんも無事に我がサフィア公爵領で保護しましたわ」
せっかく訪れたチャンスを遮られた事で焦りを感じるも、アイリスの言葉に理解が出来ず、勢いが削がれたまま、思い当たることなどないと答えようとする。
すぐに1つの気がかりに思い当たると、リディアは全身の力が抜けて生徒会室の床に座り込んでしまう。
ゆっくり「大丈夫」という言葉が全身に染み渡ると、今度はボロボロと涙を流し、ひたすらに「良かった」と繰り返した。
1時間程泣いていたリディアは、スっと床から立ち上がると、今まで見せた事のない綺麗なカーテシーと、心からの言葉で今までの非礼を詫びた。
スコロライトとフローライトには特に何度も謝り、途中からペコペコと頭を上下するリディアと、「とんでもない」と両手を小刻みに振る2人という何とも奇妙な光景が生まれた。
仮面を取ったレオンとリディア含め、全員が生徒会室の奥にある談話室のソファに沈み込むと、アイリス付きのメイドがすかさずカモミールのミルクティーを全員分準備してくれた。
それぞれが喉の乾きを潤したところで、レオンが今回の件について話し出した。
「まず、みんなチャロアイト男爵令嬢の事をちゃんと知らないだろう?」
曰く、リディアの家族は元々チャロアイト男爵領にある小さな村でひっそりと暮らしていた。
それが、ある日山賊に襲われて父が亡くなり、命からがら母親と自分だけ領都にある町へ逃げてきた。
そこでひっそりと生活をしていたが、母親が現チャロアイト男爵に見初められ、結婚。
今では歳の離れた、可愛らしい弟と妹が出来たという。
「それが、どうしてあんな暴挙に出ることになったのです?」
今までとすっかり様子の変わったリディアに、ナタリーは不思議そうに疑問を口に出した。
もし今が幸せであるなら、わざわざ問題を起こす様な事はしなくても良い筈だと、不思議そうに首を傾げた。
「それは……」
「リディアさん、もし話し辛いようであれば、宜しければ私からお話しても良いかしら?」
リディアは投げかけられた疑問に、スカートの裾がシワになるくらいギュッと握り締め、答えにくいのか下唇を噛んで俯いてしまう。
それを見たアイリスは、そっとリディアの背中に手を添え、安心させるように優しく撫でた。リディアが少し落ち着きを取り戻したことを確認すると、感情に刺激を与えないように自分から話を続けてもいいかと提案した。
アイリスの申し出をたっぷり数秒考えると、自分の感情と照らし合わせリディアはコクリと小さく頷いた。
アイリスがホッと溜息を付くのが感じられ、俯いたままピクリと体を揺らす。
生徒会室でのやり取りの後
レオン:そう言えば、アイリスは彼女を既に名前で呼んでいたのか?
アイリス:そうですわね。まぁ、知らぬ中でもありませんし。彼女、気を引く為に私の事も悪く言っていたみたいで、そこから良く可愛らしい視線を感じましたの
レオン:あぁ…、それで捕まえたんだな?
アイリス:だって、可愛く威嚇する子猫って、懐かせると可愛いじゃありませんの
レオン:アイリス、そういうところだぞ
アイリス:ふふん、羨ましいんですのね。マリアも未だ帰りませんものね
レオン:くっ……
☆☆☆
という一幕があったとか、なかったとか(笑)
ちなみに、「ドミノマスク」は仮面舞踏会とかでよく使用される、目元だけの仮面です。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。




