貴女は、とても優しいのね
それからは、あまりご飯が喉を通らなくなった。
スコロライト様とフローライト様が私を見ていた時の目が忘れられなくて、何かを口に入れてもすぐに吐いてしまっていた。
(あぁ……、私も化け物になってしまったんだ)
今まで、ただ家族を守りたくて必死だった。
だけど、私は私の正義を踏みにじった。
果たして、そんな私に家族を守る資格はあるの?
終わりのない疑問は、私に抜け殻のような毎日を過ごさせた。
ただ、何の理由もなく悪口を言ってしまったアイリス様には申し訳なくて、姿を見かける度に謝ることも出来ないのに視線で追ってしまっていた。
ある日の昼休み、惰性のように中庭の大きな木に向かうと、そこには先客がいた。
その人は私と目が合うと、ニコリと優しい笑みを浮かべて立ち上がり、思わずため息が零れるほどの完璧なカーテシーを見せた。
「初めまして。私はサフィア公爵の娘。アイリス・フォン・サフィアですわ」
「は!初めまして、チャロアイト男爵の娘。リディア・チャロアイトでしゅ!」
アイリス様の突然の名乗りに驚いて、思わずカーテシーと一緒に名乗ったけれど、最後の最後で思いきり噛んでしまい、恥ずかしさで顔が真っ赤になるのが分かった。
そんな私を見て、アイリス様は楽しげにくすくす笑うと、そっと私の顔を覗き込んだ。
「な!な、な、な……」
「顔色が随分悪いわ。きちんと食べられている?」
ビックリしすぎて上手く喋られなくなった私なんかお構いなしで、アイリス様は右手を自分の頬に添えるとヤレヤレとばかりに首を軽く傾げた。
「い、いえ。あ、はい。ちゃんと食べています」
「……そう。貴女はとても優しいのね。今日はね、私の事を悪く言った貴女がどんな人なのか見に来たの」
嘘をつくことになったが、どうせ今だけの気まぐれだろうと思ったから、気にはしなかった。
だけど、アイリス様から続いた言葉にサァーっと全身から血の気が引いた。
(やってしまった!もっと早く謝るべきだった。クヴィスリングに付け入る隙を与えてしまう!お父さま、お母さん、みんな……)
自分がやらかした事の大きさに、今になって全身が震えてくる。心臓の鼓動は早くなり、冷や汗が止まらなくなった。
王太子殿下に話を聞いてもらいたかったとは言え、手を出してはいけない物も確かに存在したのに。
アイリス様はお優しいと聞くから、今すぐに謝って処分は自分だけにして欲しいと願えば叶えてくださるだろうか……いや、どうせ処分されるならば、クヴィスリングも共に処罰されるようにもっていけないだろうか?
一瞬の間に脳内が目まぐるしく活動し、どうにか家族だけは処分を免れる方法がないかと一生懸命考える。
クヴィスリングと共に処分されるなら、むしろ本望だという結論を出し、リディアはそっと覚悟を決めた。
「何を考えているか大体分かるけれど、残念ながら私ではそれは叶えられないわ。だから、叶えられないお詫びに悪口も不問にしてさしあげるわね。……あら、そろそろ行かなくては。いいこと?ちゃんと食べなくてはダメよ。それでは、ごきげんよう」
おどけたようなアイリスを前に、覚悟を決めたばかりのリディアは訳が分からなかった。
耳には言葉が入ってくるのに、脳がそれを理解できない。そんなことは初めてだった。
あっという間にアイリスは去っていき、狐につままれたような気分のまま、その日1日を終えて帰宅した。
そして、クヴィスリングに呼び出される。
投稿が遅くなってしまいました(汗)
ここまで読んで頂き、ありがとうございました今後ともよろしくお願いいたします。




