それが、地獄のはじまりだった
領内のいろいろな場所で被害が出ていたから、鎮圧だけでなく、被害にあった土地や領民の様子なんかも確認しなくちゃいけなくて、段々とお父さまが家にいる時間が短くなってきていた。
ひどい時には、2~3ヶ月くらい帰れない時もあった。
お母さんは、私たちに心配をかけたくなくて、自分も心配していたのに、必死で笑顔を絶やさずにいようとしてくれた。
家令と相談しながら家の中のことを頑張ろうとしてたけど、元々平民だったこともあって日に日に疲れが顔に出ていた。
だから、クヴィスリングから「家の中のことは任せて、ゆっくり休んだ方が良い」って言われた時も、素直に任せてしまったんだ。
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それが、地獄の始まりだった。
最初に、お母さんや私、弟妹の外出が禁止になった。
山賊に狙われるかもしれないって理由だったから、私たちも素直に納得して屋敷内で過ごしていたけど、クヴィスリングの指示によって徐々に屋敷内でも過ごせる場所が限られていった。
さすがにおかしいと思ったけれど、その時には既にクヴィスリングが屋敷内を掌握していた。
ご飯や日常生活で必要な物も、全てクヴィスリングに申請しなくてはいけなくて、機嫌を損ねると1食無くなることもあった。
お母さんも私も元々平民だったし、ご飯の品数が少なくなっても、1食分が減らされても特に気にはならなかった。
でも、生まれた時から貴族として育った弟達には、まだ小さいこともあって耐えられずに泣いてしまうことが多かったから、私がこっそり隠していたクッキーや日持ちするお菓子なんかをあげたりしていた。
私たちを気の毒に思った料理人とメイドが、協力してご飯をくれたこともあった。
でも、クヴィスリングに目敏く見つかってしまって、翌日には解雇されて屋敷から追い出された。
自分たちのせいでクビになってしまったことがとても悲しくて、それからは弟たちもお腹が減っても泣いたりワガママを言わなくなった。
他の使用人達にも「今後私たちに何があっても助けないで」とお願いした。
みんな悔しさに体を震わせて、涙を流しながらも頷いてくれた。
そうなると、クヴィスリングにとっては面白くなかったみたいで、今度は私に標的を定めた。
「俺のものになれ。そうすればヴェルテュや君のお母さん、弟たちを自由にしてやる」
ある日執務室に私を呼び出して、絡みつくような視線と、肌を逆撫でするような声でそう私に告げた。
(家族の事を考えるなら、すぐに頷かなきゃいけない!)
分かっていたけど、クヴィスリングへの嫌悪が勝って、なかなか返事が出来なかった。
クヴィスリングは、私がいつまでたっても動かないから、反応を見るために執務机から私の正面に移動した。
「まぁ、今すぐにとは言わん。今は面白みのないガキだしな」
下卑た笑みを浮かべて見下ろされ、気持ち悪さに思わずピクリと反応してしまった。
クヴィスリングはニヤリと愉しそうに口元を歪めると、そのまま私に背を向けて元いた場所に歩き出した。
「もう行っていいぞ」
その夜、クヴィスリングの言葉にすぐ頷くことが出来なかったことで、自分を優先してしまったのだと罪悪感を覚え、ベッドの上にひざを立てて座り、そこに顔を埋めてひとしきり涙を流した。
傍若無人なクヴィスリング。リディアも一生懸命がんばってます。




