小話 ナタリー達のお泊まり会
ナタリー達が仲直りして、その日のお泊まり会での様子です。
リディアは、学園に来て初めてのお泊まり会なので、とても楽しみにしています。
ロウソクの薄明かりに照らされた、レモンクォーツの屋敷にある一室。
フリルがふんだんにあしらわれたカーテンや、ベッドカバー。
サーモンピンクに統一された部屋のソファに、ナタリー、フローライト、リディアの3人はテーブルを囲んで座っていた。
「それにしても、本当に今回の事はごめんなさい。焦っていたとはいえ、皆さんには沢山迷惑をかけてしまったわ…」
そっと両手で包むようにカップを持ち上げると、もう何度目になるか分からない謝罪を口にし、リディアはしょんぼりと肩を落とした。
「リディアったら、もういいって言ったじゃないの。知らなかったとはいえ、私達の態度も酷かったと思うもの。お互い様だわ」
「そうですよ!あんなに大変な思いをしてきたんですもの。なりふり構わなくなるのも仕方ありません」
「それでも、だからと言って許されることではないわ……」
3人が着ているのは、シフォン生地の可愛らしいお揃いのパジャマ。色とりどりのお菓子やケーキが目の前に置かれているのに、肝心の3人を包む雰囲気は灰色に沈んでいた。
同じような謝罪が繰り返され、かれこれ30分以上もお互いに謝りあっている。
リディアが謝り、ナタリーがフォローしつつ謝罪し、更にフローライトがその謝罪に乗る。
完全に謝罪のループが出来上がっていた。
そして、それを部屋付きのメイドが存在を消したままオロオロと見つめている。
ナタリー・レモンクォーツ。
自他ともに認める正義感の強い令嬢だが、正義を貫く余り行き過ぎる部分があり、友人と呼べる存在がなかなか出来なかった。
溺愛とまではいかなくても、娘を愛している両親はそんな娘にヤキモキし、何度かお膳立てもしてみたのだが、全くと言っていいほど次に繋がらなかった。
それだけならまだしも、最後には泣かせてしまうことも多々あったのだ。
それが、今回友達を家に連れてくるという。
しかも、泊まりで!
これにはレモンクォーツ夫妻も大層喜び、レモンクォーツの屋敷は一時期お祭り状態だった。
屋敷の飾り付けに始まり、料理、家具の配置など、家令の指示の元徹底された。
遠方でしか手に入らない食材も、友人2人の口に合うかもしれないと急いで仕入れた。
王都で流行最先端のパジャマを用意(ナタリーは黄色、フローライトは緑、リディアはピンク)し、貴族令嬢の間で流行っているというお菓子も何点か仕入れた。
美味しいと評判の茶葉も何種類か仕入れ、ミルクやレモンにもこだわった。
いざ馬車から娘と友達が降りてくると、夫妻は「よくやった!!」と娘を抱き締めたい衝動に駆られた(実際にはやらなかったが)
昔からの家令やメイド長も、気付かれないよう肩を震わせて涙を浮かべていたくらいだ。
夕食が始まると、夫妻は愛娘が暴走しないかどうかが心配でなかなか料理が進まない。
チラチラと3人の様子を伺っていたけれど、和やかに笑い合う姿に全くの杞憂だったと安堵した。
リディア、フローライト共に出される料理に感動し、初めて見る食材や料理をナタリーに質問しては、幸せそうに頬張った。
(影からそっと2人が食べる様子を伺っていた料理長と料理人達は、リディアとフローライトが料理を口にした時の表情や、食事の量、手が進んでいた味付け等をつぶさにチェックし、それぞれが手元に持ったメモ帳に一心不乱にペンを走らせていた)
娘から度々届く手紙には、生徒会に入ったことや、今回の事も書かれていた。
親としては少し心配もあったが、今日一緒にいることから仲直りはしたようだ。
夕食の様子も楽しそうではあったし、お風呂も一緒に入っていた。
だから、油断していたのだ
愛娘と友人たち(夫妻の中では、すでに親友くらいにはなっている)が部屋に入ったのを確認すると、部屋付きメイドにくれぐれもよろしくと伝えて自室に帰った。
それから、10分程で部屋付きのメイドから緊急事態だと知らされた。音を立てない最大限の速度でナタリーの部屋の前に行き、そっと扉に耳をつける。
筒抜けという訳ではないが、そこそこは聞こえるはずだ。
息を殺してじっと扉に耳を当てると、中で謝罪合戦の真っ最中だった。メイドが知らせに来てから今までの時間、ずっとこのループだったことを知った夫妻は、膝から崩れ落ちた。
-甘かった-
部屋の中での歓談までは手が回らなかった。
お菓子を用意していれば、話に花が咲くと思っていたのに……。
ボードゲームなども用意するべきだったか。
レモンクォーツ子爵は、片手で両目を隠し天を仰いだ。
夫人も隣で四つん這いになって落ち込んでいる。
夫妻と使用人総出で緊急会議が開かれ、どうすれば娘と友人達が盛り上がれるのか意見交換が行われた。白熱する議論。
しかし、夜中という時間帯なので、あくまで全員小声。
夜も更け朝焼けになろうかと言う頃、とうとう有意義な意見が出ないまま、体力が尽きて会議は終了した。
不甲斐ない自分達に肩を落とし、最後に愛娘の姿を見ようと薄く扉を開く。
そこには、3人で手を繋ぎあって幸せそうに眠る姿があった。
起こさないよう直ぐに扉を閉め、夫妻は天に感謝した。
それから、この友人達を決して逃がさないようにしようと決意する。
朝を迎え、フローライトとリディアが帰る時間になると、夫妻と使用人総出で送り出されることになり、更にお土産まで手渡された。
理由が分からず首を傾げるナタリーと、手厚い送り出しに感動する2人の温度差の中、お泊まり会は終了した。
余談だが、謝罪合戦が終わった後、今度はナタリーがアイリスの素晴らしさについて語り始めた。
それにフローライトも加わり、二人から感情豊かに語られるアイリスの偉業に、リディアまですっかり打ち抜かれてしまった。
それからは三人で、アイリスの素晴らしさについて語り合う時間が始まった。
あれが凄かった、これも素晴らしかったと話は尽きることなく、結局、三人が疲れて眠ってしまうまで続いたという。
そんなリディアは、どうしても贖罪したいと頼み込んで生徒会補佐になった。
アイリスに丁寧に仕事を教えてもらい(レオンが教えると言っても断固拒否した)、暖かな幸せの中でアイリスの為に一生懸命働くようになるのは、また別の話。
リディアとフローライトは、レモンクォーツ家に狙われました(笑)
これから、少しずつ囲われていきます(笑)




