↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テンプレ異世界はバグばかり?異世界を救ったら家計が赤字になったので、配信業をはじめます  作者: ニャルC


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/17

第7話:魔法の鏡の終焉

初めてのコラボ配信


シン・新宿の夜は、嘘と電気信号、そして絶え間なく降り注ぐ酸性雨で塗り固められている。

空を覆うのは希望の星ではなく、ホログラムの巨大な魚が泳ぐ極彩色の広告の群れだ。


酸性雨を弾く透明なドームの下に設置された屋外特設ステージでは、

眩いばかりのARエフェクトが舞い踊り、物理法則すらもフェイクの光で上書きされていた。


「はーい、みんな! 今日も世界を可愛くハックしちゃうよ!」


ステージの中心で、シン新宿のトップ・インフルエンサー「リリ」が、完璧に計算されたウィンクを投げる。

彼女の顔には、この街の美の基準である幾重にも重なったARフィルターが常駐していた。

陶器のように白く発光する肌、物理的な限界を超えた瞳、そして鋭利に削り取られた顎のライン。


モニターの中に映し出された彼女は、もはや生身の人間ではなく、

記号化された「美」という名のデジタル・データの塊であり、究極のフェイク(偽物)だった。


その隣で、ヘレンは借りてきた猫のように強張った表情で座っていた。

ミントによって「西洋の田舎から来た武芸者」という設定で用意された衣装は、

パンガイア大陸の騎士服を現代的にアレンジした、機能美と重厚さを併せ持つ特注品だ。


周囲のノイズにまみれたエフェクトの中でも、ヘレンだけは決定的に異質だった。

幾多の修羅場をくぐり抜けてきた者にしか宿らない、確かな肌の質感。

長年、鋼の剣を握り締めてきた手のひらのタコ。

加工された虚飾の光の中に、一人だけ「現実の質量」が座り込んでいるような、奇妙で暴力的な存在感。


リリがヘレンの肩に、親愛を装って馴れ馴れしく手を回し、モニター越しに視聴者へ語りかける。

「今日はなんと! 今超話題の『天然系』騎士様、ヘレンちゃんと初コラボだよー!」


ヘレンは困惑したように眉を寄せた。

彼女は事前にミントから「配信」という概念のレクチャーを受けてはいたが、目の前のモニターに映し出されている光景には、どうしても理性が納得を拒んでいた。

実直な彼女は、目の前にある「不整合」を放置することができないのだ。


「緊張してるのかな?『侍 vs 騎士』のアーマードバトルの前だもんね」


リリが宣伝を織り交ぜて話を振る中、ヘレンは、隣に座るリリの実物の顔と、モニターの中に映る「何か」を交互に見比べた。

その瞳には、侮蔑も嘲笑も含まれていない。そこにあるのは、純粋な驚きと、深淵を覗き込むような困惑だけだった。


「……あの、失礼ながら、お伺いしてもよろしいでしょうか」

ヘレンは至極真面目な顔で、むしろ隣にいる女性の重篤な容態を心から案じるような、

慈愛に満ちた瞳で問いかけた。


「そちらの『魔法の鏡』に映し出されているお方は、一体どなたなのでしょう?

先ほどから拝見しておりますが……隣にいらっしゃる貴女様とは、随分とお顔が違うような気がいたします」


刹那、スタジオの喧騒が消え、スタッフたちの動きが凍りついた。

配信のコメント欄は一瞬の空白(フリーズ)ののち、ダムが決壊したかのようなログの滝が荒れ狂った。


(公開処刑きたあああ)

(魔法の鏡とかワロタ。騎士様、素で言ってるぞこれ)

(ちょ、天然ってそういう意味!? 物理アタッカーすぎる)

(誰かリリのメンタルを修復してやれ)


しかし、ヘレンの「追撃」は止まらない。彼女は真剣にリリの顔を覗き込む。


「それとも……もしや、魔法の調子が悪いのでしょうか? どこかお加減でも悪いのですか? 」

「あ……あはは、ヘレンちゃん冗談きつーい! これはフィルターっていって、その……」


リリの引き攣った笑顔が、ARフィルターの追従ミスを引き起こし、画面上では彼女の顔がグニャリと醜く歪んだ。


『配信中断』


モニターが暗転し、スタジオの空気が冷酷に凍りつく。

舞台袖から、ミラーグラスをかけたミントが歩み寄ってきた。

「申し訳ない。プロデューサーとして、不手際を謝罪するわ。彼女、かなりの『世間知らず』なの」


ミントはミラーグラスの裏側で、加速するSNSのエンゲージメント数値と、

サーバーがパンクするほどのトラフィックを確認した。


『魔法』という言葉。

ミントは異世界転生する際、自動翻訳チートの仕様確認を女神ガイアにしたことがある。

「『サイバーウェア』という単語の場合は、強制的に『魔法の道具』として置換される。

これはシステムの問題ではなく、受信側の限界ですね」

と説明されていたことを、思い出した。

ヘレンからしたら、ディスプレイやARの概念はないから魔法の鏡と翻訳されたのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。