第3話:最強の通貨(トークン)は『認知度』
「……それよ! ヘレン、最強の初期装備じゃない!
貴女は世間知らずな『古流西洋武術の継承者』として、『アーマードバトル』にエントリーするの」
「アーマードバトル、とは?」
「アーマードバトルはね、フルプレートアーマーを纏って戦う実戦格闘競技よ」
彼女には指南役の娘として、修行で異世界のダンジョンにソロで潜るなどの『西洋武術』の本物の練度がある。
立ち上がったミントは、困惑するヘレンの肩を掴み、断定的な口調で「計算済みの予言」を突きつけた。
「いい? カメラへ素顔を晒してはダメ。全身を鎧で隠し、圧倒的な強さで敵をなぎ倒すの。
そして、全ての視線が一点に集まる表彰台で
――その時初めて、カブトを脱ぎ捨てて」
「剣闘で優勝賞金を狙う、それはわかりました。……ミント様、カブトを脱ぐことに何の意味が……」
「これで賞金なんて目じゃないほどの『結果』が、収益となって貴女に集まる。
細工は流流、仕上げを御覧じろってね?」
ミントは不敵に笑い、ミラーグラスを押し上げた。
「この世界ではね、ヘレン。『認知度』こそが、クレジットを凌駕する最強の通貨になるのよ」
彼女はこの瞬間、システムの「観測者」であることを辞め、現実を自らの手で書き換える「介入者」になった。
※
「ラムも配信とやら、したい」
と椅子の上で足をプラプラさせながら提案してきた。
その手にはコンビニで「庇護欲ハック」によってせしめてきたであろう、焼き鳥の串が握られている。
空気清浄機が唸りを上げ、仕事をし始めた。
至近距離で一心不乱に串焼きを頬張る「鱗の王」は、
この十平米の部屋ではただの食欲旺盛な幼女にしか見えない。
「見た目だけならアイドル売りもいけそうだけど、歌や踊りは無理そうね」
「奉納される側、つまり鑑賞する側だよ」
尊大に胸を張るラムの口元には、王の威厳を台無しにする甘辛いタレが一点ついていた。
ミントは無言でティッシュでそれを拭ってやる。ミントも栄養錠剤を口に運んだ。
「本当に食べるわね、ラム。家計が悲鳴を上げてるんだけど。ディストピア飯とかじゃダメ?」
食事の時間をタイムロスと言う層には、必要な栄養を短時間で摂取するためのタブレットの合成食。
もう少し健康を意識する層にはペーストやブロックのディストピア飯。
「この国では命を頂くことへの敬意と、食事を提供してくれた人への感謝で『いただきます』と言うと聞いた。
それがない食事なんか、いらない」
ラムの言葉が王としての矜持か単なる贅沢かは不明だが、ミントのミラーグラスの裏側では、
既に新たな「収益化アルゴリズム」を算出した。
「大食い系あざと美少女」
「……なにそれ?」
ラムが不思議そうに首を傾げる。
「いい、ラム。この街には『大盛りチャレンジ』という原始的な力比べの場がある。
そこを端から制覇していくよ。ワタシのカメラの前で、最高に『あざとく、美味しそうに』食べて」
「食べるだけで、お仕事になるの?」
ラムの純粋な疑問と上目遣い。
だがその仕草は、数値上では「破壊的なポテンシャル」としてカウントされる。
「そう、その顔。
ターゲットは、この世界で食べる喜びを忘れている層、
そして可愛い子がバカみたいな量を平らげる姿に癒しを覚える人種ね」
いくら食べても太らないドラゴンの余剰カロリー消費スペックは、
全女性を敵に回すような「体型維持の魔法」として、この世界では確実に『刺さる』ギャップとなる。
最大の問題であった、ドラゴンの食費問題の対策は出来た。




