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テンプレ異世界はバグばかり?異世界を救ったら家計が赤字になったので、配信業をはじめます  作者: ニャルC


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12/17

第12話:物理は全てを解決する

燃え盛るビルの柱へ向かって、ドラゴンの強靭な尻尾が叩きつけられる。

衝撃。数階建てのビルが、まるで砂の城のように崩落し、地面を揺らした。

「ビルが、ビルが倒壊しているんですけど! 死ぬわよこれ!」

リリは完全にパニックだ。

ミントは微動だにせず、舞い上がる塵をミラーグラス越しに眺めながら付け加える。

「旧新宿の廃墟は脆弱ですからね。燃えた後の衝撃で崩れた……といったところでしょう」

静まり返る現場。変わらずミントはミラーグラス上で同接数(アクティブユーザー)の推移を確認している。

ドローンの向こう側、ネットの海もまた、圧倒的な「現実」を前に「沈黙」した。

もはや、これをCGやヤラセだと断じるための論理的根拠など、どこにも残っていない。


「ドラゴンが空を飛んでいるんですけど! なんなの、どうなってるのよ!」

ラムが巨大な翼を広げ、暴風を巻き起こしながら上空へと舞い上がった。

「翼がありますからね、飛ぶでしょう。……リリさん、落ち着いてください。この配信の同時接続数を見て。

貴女のチャンネルの過去最高記録を、今この瞬間も更新し続けている。この圧倒的なトラフィック(注目度)を謝罪の印として、今回の件は手打ちにしてもらえませんか?」

「わかった、わかったから! もう謝罪とかどうでもいいから、お願いだから、私をここから帰らせて!」

リリは泣き出しそうな顔で、自分を包囲する圧倒的な「現実」に降伏した。彼女にとっての「炎上」とはネット上の文字の羅列だったが、今目の前で起きているのは、文字通りビルを焼き尽くす「物理的な炎上」だった。


「和解ありがとうございます。……では視聴者の皆さん、配信を終了します。

後ろで暴れていたドラゴンの高画質版アーカイブは、後日ウチのチャンネルで独占公開しますので、チャンネル登録を忘れずに。

……ん?これも一種の『炎上商法』かしら?」

ミントは崩れ落ちるビルと炎を背景に、不敵な笑みを浮かべた。



通信を切ると幼女に戻ったラムが近づいてきた。

「なんで謝罪動画の後ろで、ラムが暴れるプランだったの?」

「リリのチャンネルで先行公開させたことで、ウチが用意した加工動画だという疑念を第三者視点で封じ込めるため。

そして、ヘレンの失言は、この破壊の衝撃に完全に埋もれた。まさに物理は全てを解決する。

ハックすべきはコードじゃなく、観測者の脳内優先順位(プライオリティ)だったというわけ」


ミントが突然の暴力的な苦さのコーヒーを飲めば失言のことを一瞬忘れるように、

より大きな暴力、例えば「ドラゴン」を提示することで、世間の関心を完全に書き換えたのである。


隣では、ラムが、満足げに喉を鳴らしながら歩いている。

「久しぶりに暴れて満足した、帰ろう!」


ミントはリリのプロデューサーのK宛てに、メッセージを作成し始める。


※メール開始

宛先:K(シニア・プロデューサー)

件名:本日の生配信に関するご報告と謝罪


他の撮影スケジュールと重なり、あのような騒動を招いてしまったこと、ひとえにワタシのスケジュール管理の甘さが原因です。

貴社のブランド管理に多大なご不便をおかけしましたこと、深くお詫び申し上げます。


幸いにも、本日の生配信における記録的な再生数にはご満足いただけたようで、胸をなでおろしております。

また、配信中にリリさん個人から寛大な和解のお言葉をいただけたことは、誠意が通じた結果だと信じたいところです。


これ以上の法的紛争は、双方の市場価値にとって「非効率なノイズ」になると判断いたします。

今回の件をもちまして、本件に関する損害賠償および移籍の要求は、公的に解消されたものと認識しております。


今後とも、業界の隅で良いお付き合いをさせていただければ幸いです。


―― プロデューサー:ミント

※メール終わり

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