第11話:ミントPの事務的な『ガチ』謝罪
シン新宿のネオンから遠く離れた、鉄とコンクリートの墓場。旧新宿廃棄区間。
そこには場違いな折り畳み式の長机と二脚のパイプ椅子が置かれ、背景の廃墟には黄色い規制線が張られていた。
「ミント様、打ち合わせ通りカメラのセットは終わりました。あとはこのハンディカメラで私が……」
「確認した。プラン通り、いい仕事ね」
ニクスからミントへ通信が入る。
彼女は「闇の運び屋」として培ったパルクール技術を駆使し、ビルの屋上や鉄骨の隙間など、常人では不可能なアングルに無数の固定カメラを設置していた。
さらに彼女自身が手にするハンディカメラは、これから起きる「本物の破壊」を至近距離で捉えるための、最も危険で価値あるレンズとなる。
規制線の外側には、SNSでの炎上を聞きつけた野次馬と、「ヤラセ」の証拠を掴もうと手ぐすね引いて待つアンチたちがカメラを構えて群がっている。
一人の男がカメラを構えて規制線の内側へ踏み込もうとする。
「止まりなさい」
その肩を、ヘレンの指先が掴んだ。
彼女は慈愛に満ちた、しかし一切の妥協を許さない瞳で男を射抜く。
「勇気と蛮勇は違います。この先に待つのは、貴方の想像を絶する『質量』です。命を惜しみ、下がりなさい」
ヘレンの放つ圧倒的な威圧感に、男は蛇に睨まれた蛙のように硬直した。
その様子をモニター越しに見ていたミントは、冷淡に独り言を漏らす。
(好奇心は猫を殺す……というのはイギリスの諺だったかしらね。そこから先はワタシも安全を約束できない)
ミントはミラーグラスを操作し、ストリーミングの状況を確認する。
ミントはミラーグラスの角度を直し、ホバリングするドローンのレンズに向かって淡々と告げた。
「皆さん、ミントPです。一つだけ約束してください。規制線の内側には絶対に入らないこと。
そこから先は自己責任です」
(土下座?)
(ネタバレ防止乙)
(蠢懈抄縺励※繧?)
コメントを無視してミントは続ける。
対面に座るトップ・インフルエンサーのリリへと視線を向けた。
「本日はリリさんのチャンネルにお邪魔しております。
……ではミントP、『旧新宿の廃棄区画で謝罪を生配信してみた』。始めさせていただきます」
ミントが平板に口上を述べる。
巨大な「漆黒の質量」がホバリングしている。
「ちょっと、ミントP! 謝罪以前の問題よ! 後ろに、とんでもないサイズのドラゴンがいるんですけど!」
次の瞬間、空気が震えた。パニックに陥るリリの声に対し、視聴者のコメント。
(巨大ホログラムに風圧装置を連動させてるだけ)
(ARフィルター叩いた報復がこれ? 映像技術で対抗とか必死すぎ)
未だにそれを『フェイク』だと断じていた。
しかし、その質量が手近な廃車の上に着地した瞬間。
数トンの鉄塊がアルミ缶のように圧縮され、路面にめり込んだ。
土煙の中から現れたのは、重厚な漆黒の鱗を持つ伝説上の生物――ラムの真の姿、「鱗の王」であった。
「ああ、あれですか。別の収録スケジュールとバッティングしてしまったんです。
規制線から出なければ安全は確保されています、賢い子ですから」
ミントはミラーグラス上で同接数の推移を確認しながら、
淡々と事務的な口調で応じる。
ミントが事務的に応じる中、ラムは太い鉤爪を一閃させ、廃車の残骸を容易く切り裂いた。
「うちのチャンネルは常に『ガチ』を信条に運営しています。
前回のヘレンの失言についても、悪気や仕込みはありません」
ドラゴンの巨大な顎が開かれ、極大の火炎が放たれる。
「ドラゴンが今、思いっきり炎を吐いているんですけど!? 熱い、熱気がこっちまで来てる!」
「ドラゴンなら火も吐くでしょう。続けますね。
だからといってヘレンの無作法が許されるわけではありません」
一瞬にして廃ビルが炎上し、規制線の外までチリチリと肌を焼くような熱風が吹き抜けた。
「……おい、待て。今、熱かったぞ。ホログラムで熱量まで再現できるか?」
野次馬の一人が戦慄した声を上げる。




