第10話:マッドマン・セオリー。廃棄区画で謝罪を生配信してみた
ミントが愉快そうに笑う。
「プロデューサーKから承諾の返信があった!さすが敏腕、仕事が早い。
プラン変更、謝罪動画にはワタシが出る。
デジタルな中傷に慣れていないヘレンより、ネットの海を泳いできたワタシの方が適任よ」
ミントは不安げなヘレンを制す。
「ヘレンは興行の調整に入りなさい。あとはワタシに任せて
……狂人を装って相手の予測を上回る『マッドマン・セオリー』で対応するから」
自らが矢面に立ち、ネットの憎悪をヘレンから自分へと誘導する。
プロデューサーとしての非情かつ献身的な最適化だった。
膝の上のラムに言う。
「鱗の王、たまには暴れたいでしょ? 溜め込んだカロリーを一気に消費するチャンスよ」
「……いいね」
とラムが「ドラゴン」として愉悦の表情で応じる。
「ニクスは旧新宿区画に撮影用のカメラの設置をお願い。撮影プランはラムと打ち合わせして」
そしてミントは自らカメラを回し、動画の撮影を開始した。
「お騒がせしております、ミントPです。
所属のヘレンは、剣のことしか知らない世間知らずでして
……『着ぐるみの中に人がいるんですか?』と真顔で聞いてしまうタイプなんです。
申し訳ないですが、彼女は現在は動画に出せる状態ではありません。
今は『侍 vs 騎士』のアーマードバトルの最終調整中です」
(はいはい、宣伝ね)
(天然?笑)
(設定が盛りすぎなんだよ)
アンチのコメントを鼻で笑いながら、ミントは不敵な笑みを浮かべた。
「ヤラセだと思っているアンチの皆様へ。
後日、旧新宿の廃棄区画へお越しください。……そこで『ガチ』だと納得してもらいます」
と、不敵に笑ったところで動画撮影終了。
ふと、隣で申し訳なさそうに新しいコーヒーを淹れ直しているヘレンを見た。
この「暴力的に苦いコーヒー」というエラーがなければ、この解決策には辿り着けなかった。
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配信開始:超・密着!話題のミントPを直撃!「旧新宿廃棄区画で謝罪生配信」の裏側を独占公開!?
「はーい、皆さんお待たせしました!シン新宿のトップ・インフルエンサー、リリです!
今日はね、今SNSを騒がせているあの『騎士様騒動』について、なんと進展がありました!
なんと、相手方のプロデューサーさんから直接、謝罪配信のオファーをいただいちゃいましたー!」
画面の中のリリは、完璧なデジタル・メイクと最高精細のARフィルターを纏い、いつもの華やかな笑顔をカメラに向けている。 背景は移動中の車内だ。
1. 謎の「ミントP」にリリが抱く勝手なイメージ
「今回、対面するのは渦中の騎士ヘレンちゃん
……ではなく、彼女をプロデュースしている『ミントP』という女性です!
彼女、元ハッカーっていう経歴の持ち主らしくて、常にミラーグラスをかけてる小柄な人なんです。
え、なんか強そう? でも噂だと、かなりの理系女子さんらしいですよ」
リリはフォロワーからのコメントを拾うように、茶目っ気たっぷりに首をかしげる。
「ハッカーでリケジョでミラーグラス……。
ちょっと怖そうなイメージだけど、実は意外とカワイイ顔してたりして?
私がビシッと、ファンの皆さんの代わりに『あんな毒舌な騎士様を育てたのは誰!?』って問い詰めてくるね、楽しみにしててね!」
2. ロケ地:旧新宿廃棄区画
「撮影場所は、旧新宿の廃棄区画を指定されました。
最近は廃墟マニアの間で人気のスポットよね。
きっと、ちょっとエモい感じの背景で『誠意を見せます!』っていう。よくあるバラエティ的な謝罪企画なんだと思うわ。」
リリは手元の手鏡でARフィルターの乗りを確認しながら、余裕の笑みを浮かべる。
「本人のヘレンちゃんは、今『試合前の調整中』とかで来られないみたい。
プロデューサーが代理で出てくるってことは、相当気合の入った台本が用意されてるんじゃないかな? 私のチャンネルの同接数、今日は過去最高を狙っちゃうかも!」
3. カウントダウン
「じゃあ、そろそろ現場に到着するわね!
廃棄区画の入り口には、もうミントPさんが待っているはず。
どんな『予定調和』な謝罪が待っているのか、皆、最後まで目を離さないでね!
シン新宿流の、スタイリッシュな和解をお見せしちゃいます!」
リリは自信満々にカメラを切り替え、車のドアを開ける。
その先で、ミラーグラスをかけた小柄な女性が、冷徹な瞳でタブレットの流入グラフを見つめていること、そして背後の空が「本物の熱」で歪み始めていることなど、この時の彼女は微塵も想像していなかった。
「それじゃあ……『旧新宿の廃棄区画で謝罪を生配信してみた』、スタートです!」
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