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テンプレ異世界はバグばかり?異世界を救ったら家計が赤字になったので、配信業をはじめます  作者: ニャルC


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13/17

第13話:無名に勝る悪名

ラムはミントの横顔をじろりと見上げた。

「あのリリとかいう娘を泣かせながら、『謝罪』と真顔で言う。やっぱり、ミントは性格が……」

「何かしら」

ミントが歩を止めず、淡々と問い返す。

ラムは呆れたように肩をすくめ、しかしどこか愉快そうに口角を上げた。

「……最高に、いい性格」

「よく褒められるのよ?」



シン新宿、10平米のポッド。ミントが忙しなく手を動かしていた。

「しかし……引越しが遠のいたわね。早く『新宿ドラゴン』の高画質版を編集して、この投資分を回収しないと」

ヘレンの勝利に全額ベットして得た配当金は「袖の下」として添え、当局へ旧新宿廃棄区画の使用許可を申請して使ってしまった。

その矢先、リリが「#新宿ドラゴン事件#ミントPヤバい」と訴える告発動画をデプロイした。

『緊急で動画を回しています! 皆さん、見てください……これが『#新宿ドラゴン事件』の真実なんです!』

彼女の背後では、ドラゴンがビルを一瞬でブレスで炎上させる。尻尾でビルを破壊する光景が繰り広げられていた。

しかし、カメラのレンズが捉えた真の恐怖は、その破壊の傍らに立つ一人の女だった。

ミラーグラスに周囲の地獄を反射させ、表情一つ変えないプロデューサー、ミントPである。

『正直に言うと、業界の誰もが彼女――ミントPを過小評価していた。私もそうだった。

最初はただの、運良く『ガチ勢』を捕まえただけの無愛想なマネージャーだと思っていたの』

画面の中ではリリが『彼女は、感情という名のノイズを完全にデバッグしてしまった怪物よ!』と、ミントの非人間性を必死に訴えている。

ミントはリリの絶叫が響くライブ映像をBGMに、ソファでポテトチップスを頬張るラムの口元を拭ってやった。

「感情をデバッグ、ね。もし本当にそうなら。そもそも居候なんて面倒なもの、引き取ったりしないわよ」


リリの映像が続いている。

『崩落の轟音、地面が揺れてる。それなのに、彼女(ミントP)はどうしていたと思う?

彼女が見ていたのは私の安否じゃない。リアルタイムで爆増していくアクティブ・ユーザーのグラフ、ただそれだけだったわ。

交渉のやり方も残酷を通り越して、ある種の崇高さを感じたほどよ。

『この圧倒的なトラフィックを謝罪の印にして、手打ちにしませんか?』

――死を覚悟した瞬間に、ビジネスのトレードオフを突きつけてくるの。性格が悪いなんてレベルじゃない』

リリという巨大なトラフィックの源泉が、ミントへのヘイトを加速させる。

「いい性格って、よく褒められるけどね」

マッドマンセオリーの副産物。

ミラーグラスの裏側で数値の奔流を眺めるミントの唇は、不敵に吊り上がっていた。

「ヘイトが集まったこの流れ、利用させてもらう。無名に勝る悪名ってやつね」


リリの恐怖と罵倒によって形成された「#ミントPヤバい」というタグは、今やシン新宿で最も熱い注目(エネルギー)を帯びている。

この負の熱量を初期ブースト(燃料)にして、ミントは温存していた「最後の切り札」を解き放つ準備を整える。


ミントが狙うのは、リリが発信した「恐怖」という一次情報を、「未知のカリスマ」への期待へと反転させる。

世界中に一斉に配信されたミントPの新作動画、それはラムのデビュー動画。


シン新宿の薄暗いデカ盛り店の動画。

カメラが回る。丼を前に、ラムはあえて背筋をピンと伸ばす。

彼女は静かに目を閉じ、小さな掌を胸の前でパンッと叩く。

「……いただきます」

喧騒の店内の中でその所作があまりに美しく、神聖ですらあった。

視聴者に忘れていた、食への「畏敬」を思い出させる。

ラムは割り箸を割ると、愛らしい笑みをカメラに向けた。

幸せそうに食べ始め、しばらく後。

大人の顔より大きな丼を三つ並べ、涼しい顔で「完食」と書かれた札を掲げるラムの姿があった。

「……おかわり、ある? まだ、ちょっとだけお腹空いてるの」

カメラをじっと見つめ、少しだけ小首を傾げて微笑む。

今、配信画面の向こう側に届けられているのは、守ってあげたくなるような幼さと、それを裏切るような「胃袋」、食への「敬意」を併せ持つ、新時代のモンスター・タレントの姿だ。

(大食い天使かよ……)(胃袋ブラックホール)(次のおかわり、俺の奢りだ!)(蠢懈抄縺励※繧?)

画面上に流れるコメントとドネーションのログが、ミントの家計ログを急速に「リビルド」していく。


ミントは一人のインフルエンサーの悲鳴を、コストゼロ広告費に変えた。

しかし、画面の向こう側の誰も知らない。

この大食い天使は、廃車を踏み潰し、ビルを焼き尽くした「破壊の神」であることを。

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