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第6話 新人底辺VTuber・紅威凛音



「りんね~?」

『てんさ~い!』

「わぁ~みんなありがと~!」


 紅威くれない凛音りんねチャンネル。


 ダンジョン生配信中。


 凛音が、挨拶の後、いつものコーレスをしてみたら、チャット欄の二人がコメントで返事をくれた。


 とても嬉しい。


 リスナーは大変貴重だ。


「今日はとりあえず3層まで目指しまーす。だいたい5時間くらいかなー?」

『りょうかーい』

『気を付けてねー』


「はーい、ありがとー!」


 コメントはサブウィンドウで流れる。


 凛音の視界には、いくつものウィンドウが現れている。自分の職業ジョブステータスや、階層の地図といったダンジョン関連のものから、視聴者数やコメントといった配信関連のものまで。もちろん戦闘になったら非表示にするけど。


 ここは新宿ダンジョンの第一層。


 そのはずれのはずれ。


 ダンジョンはとても広いが、同業者もそれなりにいる。


 VTuberは今現在で日本に一万人ほど。


 ダンジョンも新宿だけではないし、それほど被ることは無いが、お互いの配信に映らないよう配慮する必要がある。暗黙の了解だ。


 チャンネル登録者数によるイジメや差別――なんてものは基本的には無い。


 聞いたこともあまりない。


 個人勢のペーペーな自分は虐められるかも……なんて不安に思ったりもしたが、企業勢のひとたちはみな優しい。


 まぁ一部、厄介な配信者もいるが――。


 そういうのとはかかわりあいを持たないようにしている。


 この広いダンジョンで鉢合わせにならないよう祈るばかりだ。


 新宿ダンジョン第一層は、だだっぴろい洞窟になっている。


 そこかしこに、人類が置いた魔法のランタンが置かれているため、それほど暗くはない。


 政府支給のマッピングツールがあるため、第三層までは迷うことも無い。


 移動距離はかなりあるが、職業ジョブによって強化された肉体ならば、大したことはない。


 問題は、距離ではない部分。


「……いるね」


 視界の遥か先に小さな人影がある。


 ゴブリンだ。一体のみ。群れとはぐれたのだろう。


 魔物、モンスター、クリーチャー。


 呼び方はいろいろあるが、人類の敵である。


『今回の初戦闘だ』

『いつも通りかな?』


 もちろん。


――燃えよ、我が魔力。集い、高まり、炎となれ。


 魔道士である凛音は、口の中で詠唱を紡ぎ、レベル1の簡単な火球の魔法を生み出すと、




「おおおおりゃあああああああああっ!」




 全力で殴りに行った。


 あまりのデカい声にびくっとするはぐれゴブリン。彼の視界には、白目をむいて突進してくる右手を火で燃やしたチビの魔道士が映っている。思わず「ヒッ」っと悲鳴を上げた。


――好機!


小火灯ファイアーライトパァァァァァンチ!」


 怯んだゴブリンに腹パンする凛音。


 ゴブリンの腹で火球が弾け、敵は盛大に吹っ飛んで行った。


Gyoeeee(ギョエエェェ)……」


 地面に落ちて、断末魔のうめき声をあげ、ゴブリンは塵になっていく。


 魔物をやっつけた。


 凛音が真っ赤に燃えた拳を高らかに上げる。


「よっしゃあ! りんね――?」

『てんさーい!』


「ありがとー!!」


 いつものコール&レスポンスが決まり、上機嫌の凛音。


 鉄拳魔道士こと紅威くれない凛音りんねは、近接戦闘で直接魔法をぶち込む脳筋スタイルなのだった。


 魔力量は豊富なのに魔力放出が下手過ぎて、手が届く距離しか飛ばせないのだ。


 もちろん、職業ジョブを得ているとしても前衛職である武闘家・戦士などに比べれば腕力で劣る。


 というか、こんなことなら初期職業(ジョブ)も武闘家にするべきだったのだが、魔法少女のアニメが好きだった影響なのか、適正が魔道士しかなかったのである。


 転職は職業ジョブレベルを20まで上げないと出来ない(らしい)し。


 割と詰んでる。


 しかし凛音は諦めなかった。


――普通に魔法を撃ってもその場で消えてしまうならゼロ距離で打ち込めばいい! ついでに殴っちまえばもっといい!!


 鉄拳魔道士はこのようにして生まれた。


 とはいえこのままではいけないことは、本人が一番わかっている。殴り合う後衛職など危なくっていけない。


 いまは、魔法の射程距離をどうにか伸ばせないか練習中である。


「さてさて~♪ ゴブリンくんは何を落としたかな~♪」


 るんるんで跡地・・を見る凛音。


 成果としては雑魚モンスターを一匹狩っただけなのだが、それでも低レベルの魔道士ひとりが無傷で突破できたのは凄いことだと自画自賛する。


 と、直径4ミリ程度の小さな宝石が、職業ジョブを得た凛音の目に輝かしく光って映った。


「魔石ゲットー!」


『お、レア2のリュガート魔石!?』

『これは幸先がいいね~!』


 魔物は、死亡すると、塵に還って、魔石を落とす。


 ダンジョンで得た物質は、腰に付いている不思議なバッグに入れれば、ある程度なら棺桶コフィンに持ち帰ることが出来る。


 これを政府機関その他で換金するのだ。


 相場によって変わるが、今回はだいたい一万円程度。低級ザコモンスターを一匹狩ったにしては破格の報酬だ。ふつうはレア1魔石の千円程度にしかならない。


 それでも、棺桶コフィンのメンテ代や膨大な電気代、そして武器・防具・アイテム代などもろもろを差し引くと、赤字なのだが。


 場合によっては治療費や入院費、後遺症などで死ぬまでお金が掛かり続けることにもなる。


 とはいえ、開始5分、不意打ちパンチ一発で1万円はデカい。


 VTuberは夢と危険が満載のお仕事なのだった。


 政府ダンジョン庁や自衛隊所属のVもいるが、噂を聞く限り大変そうである。凛音も適性検査をパスした際にスカウトを受けた(片っ端からやっている)が断った。


 お給料は安定しているが、危険な戦闘業務に厳しい規律。


 ぜったい自分には無理。


 どうか徴兵制になりませんようにと祈るばかりだ。


 政府と自衛隊のみなさん、いつもありがとう。


「では行きましょう! 3層までこっそり行くよ~!」

『おおー』

『がんばれー』


 赤い鉄拳魔道士が、ソロでダンジョンを進んでいく。



 新宿ダンジョン・第三層。


「――魔の粒子よ、薙ぎ払え。閃煌線パイロ・レイキィィィック!」


 小さい魔道士が、閃煌の回し蹴りを放つと、黒角ネズミ4匹がまとめて燃え尽きた。


 kyuyy(きゅいぃ)……と声を上げて、塵に還っていく。


 ネズミという可愛い言葉に騙されてはいけない。こいつらはその辺のウサギ並にデカいし、人間も普通に喰う、とんでもない奴らだ。


 額に生えた黒い一角から電撃を放ち、低レベルの探索者ならそれだけで黒焦げになる。


 黄色くて可愛いアイツではない。


 鈍色の恐ろしいモンスターである。


 今の凛音の最強魔法・・・・を使わなければ勝てなかっただろう。


「ふぅ……」


 ダンジョン攻略開始から約5時間。


 得た魔石はレア2が五個、レア1が三十個。


 前衛がいないソロのため、敵を避けてこっそりここまで来て、適当に魔物を狩っているが、そろそろ潮時かもしれない。


 魔力が尽きそうである。


 エーテルウォーターは魔力を回復できるが、とても貴重だ。ほいほいとは使えない。


『ナイス! あの数は危なかったねー』

『凛音のお嬢じゃなかったら死んでたよ すげぇよ』

『お嬢はレベルいくつだっけ?』

『魔道士レベル8だな』

『ソロだとちょっと厳しいか この階層は』


 凛音のチャンネルは、その小規模さゆえに、チャットでのリスナー同士の会話をある程度は自由にしている。


 そのチャット欄が最初よりもにぎわっている。今は十人も見に来てくれている。


 大手の企業勢――同時接続が数千人――に比べると遥かに低いが、駆け出しの新人としては十分だと思う。


『初見です。なんでソロで3層に? パーティメンバーいないんですか?』


 至極まっとうな質問が来た。


 答えようか迷っていると、


『それ聞いちゃダメなやつよ』

『お嬢の意識が高いからさ……』


 常連さんが(たぶん)苦笑気味に返信した。


「組んでたパーティを脱退したんだー!」


 凛音は語る。出来るだけ明るく。


「良くある話なの。個人勢はせいぜい3層までの低層で雑魚狩りをするものだけど、凛音わたしはもっと深くまで潜りたかった。だから提案したんだけど……」


 断られたので、脱退した。


「私のワガママで抜けちゃって、他のメンバーには申し訳ないよ」

『方向性の違いだし』

『しゃーない』

『ごめんなさい、そんな事情があるのも知らなくて質問しちゃいました』


 リスナーの優しい言葉にちょっとうるっとする。


「いいよいいよー! ふつう疑問に思うだろうし! 聞いてくれてありがとね!」


 新しいメンバーが見つかるまでは活動休止する者も多いのだが、凛音は危険を承知でソロで潜っている。


 個人勢でも3層を超えようとする同業者を探しているが、なかなかいない。自分も大して強くないし、登録者数も少ないから余計に見つからない。


 時には、「高望みしすぎ」「夢を見すぎ」と揶揄されることもある。


 それでも――。


「ダンジョンの最奥が、私を待っている気がするんだ……」


 チューブが日本に出現した時。凛音が――赤井リリィがこの力に目覚めた時、誰かに呼ばれた気がした。


 その感覚は、今も続いている。


 遠い昔に、どこかで出会った誰か。


 そのひとのことを想うと、胸が熱くなって、幸せになって、同時に会えない辛さと、焦燥感が募って――どうしようもなくなる。


「だから私は、ダンジョンに潜るの」


 前世の夢を見る。誰かわからないけど、夢に出てくるひとがいる。とても大切な人で、しかし自分が病気のために死別する。


 ダンジョンの深層へ行けば、何かがわかる気がしているのだ。


『男か……!?』

『ユニコーンになってしまう』

『濃厚な百合かもしれん』

『今さらだろ、お嬢は』

『Vはなんかそういうひと多いよな。呼ばれてるって』

『適正ってやつかなー』


「ごめんね。不純な動機だから、嫌に思う人もいるかもしれない」


『気にしないよー』

『たぶん気にしてる奴は何も言わずにいなくなってるしな』

『魔石で稼いでる時点で今さらではある』

『それはそう』


『俺は凛音のお嬢が、鉄拳でモンスターをぶっ倒すのが好きだからさ。こっちは気にしないで、好きにやって欲しいよ』


「……ありがとう! みんな大好きだよ!」


『照れるぜ』

『俺の方が好き』

『体に気をつけて』

『オークの腹よりデッカい胸があるって聞いてきたんですけど』


「最後のひとは24時間ブロックするね!」


『通常運転だ』

『あまりにも早い制裁。俺でなきゃ見逃しちゃうね』

『鉄拳による恐怖政治だからな、このチャンネルは』


 紅威くれない凛音りんねチャンネル、登録者数85人。


 今日だけで二人増えて、十人減った。



 ダンジョンから戻ってきて、ヘロヘロになりながら何とかお風呂に入って、死んだように眠って、起きたら昼だった。


 寝ぼけてチューバーイーツを頼んだら、


「お待たせしました! チューバーイーツです! いつもありがとうございます!」


 いつもの配達員さんが来て、


 もうすっごい笑顔で、


 本当に、


 なんとなく、


――好き。


 と思ってしまった。




 呼ばれている声が、そう(・・)であるかなんて、誰にもわからないのだ。




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