第20話 凛音、成長中!
湯河原ダンジョン第10層。
探検長はうきうきと進む。
「斥候スキル・地図化」
にょわん、とウィンドウが立ち上がり、光のペンで探検長が地図を描いていく。
手は自動で動く。職業のスキルだからだ。
「以前来たときと変わってないような……あ、ここだけなんか違いますね」
一番奥の目立ちにくい場所に、一か所だけ、妙な空間が出来ていた。
さっそく行ってみると……
「このトマソンみたいなのがそうか……?」
壁に階段が作られているものの、その先は何もない。虚空だ。しかし、
「あっ、なんかある!」
階段の向かい側、ただの壁に、なにやら小さな石が埋まっている。
噂で聞いた『変な魔石』を探しているのだが、ひょっとしたら当たりかもしれない。
探検長はツルハシとスコップで慎重に掘ってみたが、
「固った! ダンジョンの壁と一体化してますねぇ~」
ダンジョンは、とてもとても固い物質で出来ているらしく、破壊できない。基本的には。
例外は常に存在する。
「採掘師スキル・夢ノ採掘!」
探検長の持つツルハシに、特殊な魔術付与が掛かる。
ダンジョンの壁が砂のようにサクサクと掘られていった。
が、やはり石には傷一つつかない。
「嘘でしょ!? 私のツルハシを以てしても傷一つつかないなんて……面白ぇことになってきましたね!」
わくわくする。これぞダンジョンだ。
「この石……岩石? 岩盤? なのかな? 奥の方まで続いてますね……。横を掘り進めてみましょうか」
ざっくざっくとツルハシを振るって奥へ進んでいく探検長。単純作業だが、集中できて良い。またいきなり溶岩にぶつからないように気をつける。
掘っても掘っても、岩石は全貌が見えない。とても大きなもののようだ。
「大きすぎる気もしますけど、まぁダンジョンですからね……。下手したら、山くらい大きいかも」
進み、進み、進み……。
そしてついに。
「光……? あれ? どっかに抜けちゃった?」
岩石の隣を掘り進めていたら、広い空間に出た。
だが、
「んん? さっきと同じ場所じゃない? トマソンの階段もあるし。で、あっちには――」
それを見た。
絶句する委員長。
――な、な、な、なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁぁぁー!?
ソレに見つからないよう、心中で絶叫した。
☆
一方、新宿ダンジョン。
おじさんの修行開始から、三日が経過。
鉄拳魔道士、紅威凛音は、第7層の最奥にいた。あと少しで第8層へ進めるのだが――。
「Gofuuuu……」
立ちふさがるように、魔物がいる。
オークファイターが一体。
オークの上位亜種モンスターで、高い膂力と大きな斧が特徴だ。
四人パーティでの各人の推奨レベルが8で、ソロなら32……いや35は欲しい。
こちらは魔道士が一人。レベルは16で、普通なら逃げの一手。だが、
「……やろうか」
凛音は落ち着き払った様子で、魔物と向き合う。
「Gofuuuu!」
その言葉を挑発ととらえたのか、オークファイターは手に持った斧を振り上げながら突っ込んできた。
魔道士は迎え撃つかのように、構える。
杖を構えるのではなく、その体を半身に構えたのだ。まるで武闘家のように。
口の中で詠唱を紡ぐ。
「――燃えよ、我が魔力。集い、高まり、炎となれ」
右の拳に宿るのは、炎。
火炎系魔法の第一階梯――小火灯だ。
たとえ放てたとしてもオークファイター相手にはまるで通じない威力の魔法を、手に纏わせている。
半身のまま、師から学んだ套路を練る。両手をくるりと天地に回す。拳に纏わせた炎が揺らめく。
「紅威流……」
突っ込んでくる巨漢の魔物に、魔道士はしかし正面から待ち受け――地を蹴った。
オークファイターの攻撃範囲が、その大斧を含めて、ざっと3メートル。
しかし七星剣武の基礎の基礎を収めた凛音は、一足で5メートルまで行ける。
跳ぶというよりも、水のような滑らかさで、凛音はオークファイターへ肉薄した。敵は驚きの表情のまま攻撃できない。すでに懐まで入られているからだ。今さら大斧を振り下ろしたところでもう遅い。凛音はすでに、右足を踏み込み、右直突きを放っている。
「――灼火/剛拳!」
ボッッッ!!
七星剣武でいうところの、無刀/剛拳。おじさんが『勇者』パーティから『魔王』を助けた時に使った技だ。
それを、小火灯を付与させた拳で放った。
ひとたまりもなくオークファイターは弾け飛ぶ。弾け飛びながら魔法の炎に焼かれていく。胴体は消し飛び、上半身は鎖骨から上までしか残らず、下半身は太ももより下しか残らなかった。かろうじて残った部分も小火灯の熱で端から炭化していく。
「Gofaala……!」
魔物が断末魔の叫びをあげる。不可解な表情を顔中に貼りながら。
速度がまず違う。
オークファイターが『振り下ろそう』と思った瞬間には、凛音の姿は消えてなくなり、いつの間にか放たれていた拳が着弾していた。
威力もまた違う。
とても小火灯の火力ではないし、魔道士の膂力でもない。
自分が喰らったモノの正体についぞ辿り着くことなく、オークファイターは塵に還った。
最後の反撃に備えていた凛音は、敵の消滅を確認すると、
「ふっ――」
まるで血振りをするように右手を下に払った。彼女の手に残っていた炎が――残り火が、ダンジョンの床に撒かれて土を焦がした。
「ふぅぅ……」
残心。呼吸を整えて、お腹に魔力が集まるよう、両手を回す。
腕を回している途中でデカい胸が引っ掛かってぶにょんと動くのが本当に邪魔。
だが、まぁ上手くいった。
「みんな、見てた~!? 師匠が教えてくれた技だよ~!」
『すっげぇぇぇええええ!』
『なんだ今の!!』
『凛音ちゃんつっよ!』
『小火灯の威力じゃねぇよ!』
『なんで魔道士のパンチでオークファイターが吹っ飛ぶんだよw』
『息を吹き込んだカエルみたいに爆発したなぁ……』
コメント欄も大盛り上がりだ。
『おっぱいめっちゃ揺れてた』
『いやぁ~眼福眼福』
『型やってる途中でおっぱい引っ掛かってて草』
こいつらはブロックする。24時間経ったらまたおいで。
『師匠って?』
「古武術を習い始めたんだ! 才能あるって褒められた~!」
『空手とは違うやつ?』
『中国武術っぽかったな』
『あの崩拳はゲームの八極拳であったな』
『実戦で使用われるのを初めて見たッッ!』
そんなこんなで7層をクリア。
階段を降りた凛音は、ついに第8層に足を踏み入れた。そして、
「よし、帰るか」
踵を返す。
『帰るんかい』
『今日の目標は8層タッチだからな』
『転移結晶もタダじゃないし、ていうかめっちゃ高いし、歩いて帰るんだよな』
『往路よりも復路が危険』
『家に帰るまでがダンジョンです』
また出てきたオークファイターを真正面から殴り倒し、オークの団体様を炎の回し蹴りで葬り、6層の転移ポイントまで戻ると、そこから1層へ転移。
初期位置である第1層の転移部屋へ、無事に帰還出来た。
ドローンカメラの向こうにいるリスナーへ向かって手を振って締めの挨拶を行う。
「おつりんね~! 今日の配信はここまで! 紅威凛音でした! みんな待ったね~!」
『おつりんね~!』
『おつ~!』
「今日もこれから武術レッスン! 頑張ってくるねー!」
『えらーい!』
『がんばってー!』
『いってらっしゃーい!』
鉄拳魔道士・紅威凛音は、順調に成長している。
登録者数はうなぎのぼり。
目標の第10層攻略もあっという間に思える……そんな時だった。
「師匠っ!?」
七星剣武の修行の最中に、おじさんがぶっ倒れたのは。
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