第18話 爆速の内海
内海の仕事は爆速だった。
スカウトには丁寧な「お断り」メールを返し、
取材やコラボや案件の依頼には丁寧な「検討します」メールを返しておいて内容や相手先や報酬ごとに分類し、
SNSと配信サイトには、
『多くのご反応を頂きましてありがとうございます! ファンやリスナー、皆さんのご声援、とても嬉しいです! これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします!』
と本人にVの姿で喋らせたショート動画を投稿し、
誹謗中傷は後で開示請求をするための証拠を保存したうえで本人の目に付かないよう『税務関係』のフォルダにデータを移し、
配信サイトには収益化の申請を出し、今まで白色でやってた確定申告を青色でするための申請書を用意し、
凛音のパソコンとスマホに公安のバックドアを仕掛けた。
三日後には、
「すごい……1000通以上あったメールがゼロになってる……」
感動する凛音。
本名:赤井リリィの部屋で、相変わらずブラウスぱつぱつの内海が笑う。
「ナハハ。振り分けただけだよ。こっから案件とか取材とか、何をどうするか、一緒に確認してくからねー」
「ハイっ!」
「突貫の報告配信も上々だったし……」
あのあとすぐに、凛音は配信を行った。ダンジョン攻略ではなく、変奏体で行う雑談配信だ。
内海マネに『言っちゃいけないこと』をリスト化されて渡されて、出来るだけ『これまで通りの紅威凛音』を見せるために、流れだけを記載した台本を使って喋った。
「こんりんね! 皆に元気と拳を届ける魔道士ライバー、紅威凛音です! えーと……なんかいきなりとんでもないことになって、びっくりしてます……」
『凛音ちゃーん!』
『すげーよアンタ!』
『待ってた!』
『かっこよかったです!』
「わぁ、ありがとう……! すごい速度でコメント欄が流れていく……スゴイ……コワイ……! いやでも、嬉しい! みんな、私を見つけてくれて、ありがとう!」
『こちらこそだよ』
『生きててくれて良かった~!』
『5層ソロ突破、魔王からの生還、おめでとう!』
『またおっぱい見せ―このコメントは削除されました―』
とまぁこんな感じで、特に問題なく出来た。ファン数が爆増したせいで、おっぱいコメントも爆増したが、内海マネが片っ端からブロックした。
「ちなみにおっぱいに関しては自動でモザイクが掛かる仕様だから、全部は見えていないよ~」
笑う内海に、凛音が恥ずかしそうに顔を隠す。
「ほんと助かりました……。なんで裸でカッコつけたんだ私……」
「いやまぁ、カッコよかったよ?」
「ありがとうございます……」
「新しい装備も用意しないとだね~。絵師さん、ピックアップしといたよ~。描かせてください! ってメールもだいぶ来てたね~」
「ありがてぇ……ありがてぇ……」
「あんまり防御力が無いとはいえ、デザインだけで魔素が装備を作ってくれるのは助かる」
「ほんとです」
「収益化したら、魔導縫製師さんに頼んで、魔素防御の高い装備も作って貰おうね~」
「あぁ~夢が広がりますぅ~! 内海さんありがとぉ~!」
「いいのいいの~。同じチビ巨乳のよしみじゃないの~」
抱き着く凛音をヨシヨシする内海。
それを眺める男がいる。
おじさんである。
というか、二人の仕事が終わるのを待っている。たまに差し入れをチューバー配達バッグから出しつつ。
「はい、スタボのコーヒーですよー」
「わーい!」
「やったぁ!」
じゅごー、と内海が飲みながら、
「これ、いつ買ってきたんです?」
「いつかの僕です」
「ん……時空系の魔術ですか。あまり使うと寿命が減るんじゃ?」
「実際に往復した分しか減りませんから、変わりませんよ」
「その辺のカラクリは教えてくれないんですかねぇ~?」
「手品のタネを簡単に明かしたらつまらないじゃないですか」
そっかぁ、と内海は諦めた。無理に尋ねて逃げられても困る。今は信用第一だ。
「じゃあ凛音ちゃん、教わっておいでよ。例のアレ」
はいっ! と凛音が飛び上がって敬礼。
どたぷんっ! と震える爆乳が痛そう。
「師匠! お待たせしました!」
「うん、じゃあ早速始める――前に謝っておくことがあります」
「はい?」
「僕は、ダンジョンには数分しか潜れません」
「…………。えっ!?」
「いちおう生身ですので」
「そっか!! そうですよね!!」
「ですから、あまりダンジョン内では指導できないのです」
「どどどどどうしましょう!?」
「ご安心を。当流派・七星剣武は、生身でも可能です。僕もそうですし」
「なるほど……! あ、でも、コフィンに入ればダンジョンの外でも、変奏体で活動できますよ?」
「目立ってしまうでしょう? 身バレの危険もありますし。顔はほとんど同じとはいえ、変奏体と生身では印象がまるで違いますから」
「それはそう……!」
「生身で出来ることは、生身でやってみましょう」
「その成果を、ダンジョンでVになった時に試すんですね!」
嬉しそうな凛音に、おじさんもつい微笑んでしまう。
「ええ、そうですね」
「配信では、ボクシングジムに通い始めた、とか言っておきます!」
「いいですね。どちらかというと、古流武術に近いのですが」
「じゃあそっちにします!」
「対応が柔軟だ」
「うー! 教わるのが楽しみです、七星剣武!」
「あー、七星剣武をそのまま外で喋るのは危険ですね……。僕はともかく、凛音さんにも迷惑がかかってしまう。名前を変えましょう。何がいいかな……」
内海が口をはさむ。
「紅威流とか?」
凛音がぶんぶん手を横に振って、
「それじゃ私が編み出したみたいになっちゃいます! 恐れ多い!」
しかし、とおじさん。
「職業と七星剣武を組み合わせるのは、この世界では凛音さんが初めてです。始祖として名前を付けるのは良いと思いますよ」
「そうですかぁ……?」
「はい。七星剣武も、大元は別の流派から派生したものでした。また、七星剣武から分派した流派もたくさんあります。紅威流もその一つ。だから気負わなくても平気ですよ」
「……わかりました!」
「そもそも魔法を手に纏って殴るの、凛音さんのオリジナルでしょう? それに僕の武術を輸入するだけですから」
「その型がめちゃくちゃ大事な気がするんですけど……」
「では早速練習に行きましょうか。内海マネさんにお願いしまして、ダンススタジオを借りてもらいました。Vの方が練習するのは不自然ではないとのことで……」
「おお……! 本物のVTuberっぽい……!」
「本物のVTuberですよね?」
「えへへ……まだ四か月くらいなので、実感が湧いてなくて」
「四か月であの配信技術は凄いと思いますよ。雑談やゲームでもリスナーとコミュニケーションが取れていて、見ていて楽しいです」
「雑談配信もゲーム配信も見てるんですか!?」
「チャンネル登録もしています。収益化、楽しみです! 早くスパチャを投げたいです!」
「師匠も本物のファンなんですね……」
「でもアカウントは秘密です。恥ずかしいので」
少し前は二、三人しかいなかったリスナーの誰かなのだろうか……。
いったいどのリスナーがそうなのだ……。
凛音の脳内でリスナー人狼が始まった。
その三十分後、都内のスタジオにおじさんと凛音は到着している。
「バイクの後ろに乗せて貰ったの初めてです! 楽しかったです~!」
「125ccなので、後ろが狭かったですね、大丈夫でしたか?」
「大丈夫です! むしろ良かったです! (その分、密着できましたし……)」
「? なんて?」
「なんでもないでーす!」
にっこにこの凛音。
おじさんはジャージに、凛音はレッスンウェアに着替える。二人ともCUで買ってきた。
凛音のウェアは、体の動きがよくわかるように、なるべくぴっちりしたものを選んだ。お腹も見えていて少し恥ずかしい。
おじさんは全く気にしていない様子で、
「それでは、套路を始めます」
意味の分からない単語を喋った。




