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第15話 転機と弟子入り



 おじさんが魔王を倒し、二人で第5層から降りた。


 配信は終了している。


蘇生リザレクションが間に合って良かった。アレは、対象が職業ジョブ取得者のみで、ダンジョン内で十分以内にかけないと効果が弱まるんです」


 凛音は、6層にある転移地点の前で、おじさんからビニール袋を受け取る。


「はい、いつもの(・・・・)チーズ牛丼弁当ですよ」

「……知ってたんですね」


 凛音が、赤井リリィであることを。


「すみません。魔力の色が同じでしたから」

「視えるんですね、そういうの……ていうか……ていうか……!!」


 感情が爆発した。


「小治さんだったんですか!?」

「えっ」


「チューバーイーツ最強おじさんって、小治さんだったんですかって!!」

「あ、はい。黙っていてごめんなさい」


「教えてくださいよ!」

「いやぁ、そういうわけにも……。赤井さんもVTuberだって言えないでしょう?」


「そりゃ…………そうか!」


 それ言われると何も言えないな!


「……ごめんなさい。一方的に責めたりして」

「いえいえ。それよりお食事が冷めてしまいますよ。それに……」


「それに?」

「あなたのようなお若い方が、そういったお姿をされているのは、目に毒です」


「へ?」


 ビニール袋を持ったまま下を見る。


 足元は見えなかった。


 脂肪おっぱいが邪魔で。


「んあああっ! すみませんすみませんすみません! 私また見苦しいものを!」

「いえ、見苦しくは無いですが、目のやり場に困りますので」


「はいっ! じゃあ私消えます! さよなら!!」


 テンパって雑な別れをしようとして、


「いや待ってください嘘です消えません!」


 踏みとどまった。


「どうしたんです? レシートっていりますっけ?」

「いります! いや違くて!」


 お弁当の入ったビニール袋を持ったまま、九十度のお辞儀をして、力いっぱい叫ぶ。


「私を弟子にしてください!!」


 おじさんは、困ったように「はぁ……」と言った。



 いきなり弟子入りを志願されたおじさんは、ふむ、と考える。


――素質はある。そして、ソロだと、いささか危なっかしい。なによりも……。


 あの六腕の魔物――阿修羅。あいつがわざわざ第5層まで出張ってきた理由。


 おそらく彼女だ。


 紅威くれない凛音りんねの何かを見出して、始末しに来たのだ。


 理由は不明だが、


――放ってはおけないな。


「本当は、ダンジョンからは距離を置きたかったのですが……」


「と、いうことは……?」


「お友達の頼みは断れません。師匠と名乗るのはおこがましいですが、僕の知っていることはお教えしましょう」


「やったぁ~!」


 嬉しそうに、ぴょんと跳ねる凛音。


 それほど強くなりたいのだろう。いくら他人より多少強いとはいえ、こんなおじさんに教えを乞うくらいだ。


「しかし、あなたほどの人なら、『オーリオン』や他の事務所ギルドにも入れるのでは?」


「いや? ぜんぶ落ちましたけど」


「そうなのですか。意外ですね」


「魔道士なのに魔法が飛ばせませんから、私」


 えへへ、と頭をかく。また肌が見えそうになって、おじさんはそっと目を逸らす。


「なるほど。それで……」


 どこからも見出されなかったわけか。


 なんと勿体ない。


 これほどの才能を放っておくとは。


「では、今日は解散としましょう。お疲れでしょう? ご飯を食べて、ゆっくり休んでください。蘇生リザレクションはしましたが、一度は死の淵をさまよっています。くれぐれも、安静に」


「はいっ! またLIMEで連絡しますっ!」


 びしっと敬礼して、凛音は転移地点から消えて行った。淡い光に包まれて消える瞬間、ぺこっとお辞儀をしていった。


 飛竜ぬいのアドが、


「旦那ァ、珍しいですね、関わるなんて」

「お前もわかるだろう? あの子の危うさが」


「まぁそうですが……ちゃんと報酬は頂いてくださいよ?」

「後継の子たちが育ってくれたらそれで充分さ」


「いーやダメです! いくら旦那でもこればかりは譲れねぇ! ちゃんとした対価! きっちりとした報酬! これ無くして、健全な信頼関係は生まれませんぜ! さんざん異世界あっちでやらかしたでしょうに!」


 むぅ、とおじさんは唸る。


 無償で人助けをしてあっちこっちに邪推されて色んな迷惑をかけたことを思い出した。


 ひとは、タダではひとを信用できないのだ。


 そこまで強くないのだ。


「お前の言うとおりだ、アド。僕はまたやらかすところだった。ありがとう。目が覚めたよ」


「わかってくれりゃあいいんです! なぁに、クーポンだってちゃーんと多めにカネ貰ってますからね!」


「そうだったの!?」


 びっくり。


 クーポンコードの管理はアドに任せている。誰に出すか、いつ出すか。人ならざる飛竜なら、そういった判断も客観的に出来ると思ったからだ。


「たまーにいますぜ。ラクしようとして旦那を呼ぶ奴」

「僕は別にいいけど、本人のためにはならないか」


「ま、今回みたいにちょーっと間に合わねぇこともありやすが」

「仕方ないさ。いきなり出てきたんだ」


 おじさんは自前の転移魔術を起動させ、扉を作る。


 ダンジョン間を移動できる魔法、時空間移送スライド・ゲート


 その元となったものだ。


 使用には魔力の他に、少しの寿命も消費するが、おじさんは気にしない。もう余生だから。だが、


「この余生も――少しだけ、忙しくなりそうだね」


 そうぼやくおじさんは、しかし嬉しそうだった。



「め、めちゃくちゃ忙しい……!」


 紅威凛音こと、赤井リリィは、忙殺されていた。


 あれから二日が経過した。


 転移地点に入ると、一層の転移部屋か、自宅の棺桶コフィンのどちらかに戻ることが出来る。


 後者を選択し、自宅へ戻り、とりあえずチー牛を食べ、シャワーを浴びる気力も無く、爆睡した。


 起きたら20時間経ってた。


 そしてスマホを見たら、ものすごい数の通知が来てた。


「な、なにこれ……」


 鬼バズである。


 まず配信サイトからの通知。登録者数が激増したことや、大量のメッセージが届いていることを知らせるもの。


 次に、VTuber用のメールアドレスに、大量のメールが来ている。


 そのほか諸々。SNSのアカウントもバズってるしDMいっぱい来てるし、LIMEやら電話やらも知らない番号からたくさん着信が来てる。


 ヒュッ、と呼吸が止まる。情報が雪崩のように襲い掛かってくる。本能で「ヤバい」と察して、スマホを枕の下に埋めた。


 何もかも忘れてシャワーを浴びて湯船に浸かる。


 色んな事があった。


 第5層のボスを倒して(魔王に殺されて)おじさんの弟子になった。


 途中の(魔王に殺されて)の部分をカットすれば、とても嬉しいことだ。


 大戦果だ。


「やった……のかな……」


 これから自分がどうなるのか、漠然とした不安はあるが、しかしそれ以上に、


「私、やれたんだ……!」


 達成感が、凛音の全身を震わせていた。



 そして事務作業に忙殺された。


 まず電話が鳴りやまない。


 うっかり出てしまったら、「こちら紅威凛音様のお電話番号で宜しいでしょうか? 当方、新たにVTuber事務所を立ち上げます〇〇と申しますが……」と一方的に話し掛けられ、なんで番号を知っているんだ怖い怖い怖すぎると思いながら「しゅいましぇぇん……」と言いながら無理やり切った。


 かかってくる電話が知らない番号ばかりで怖すぎる。スマホの充電があっという間に切れる。充電コードを刺しっぱなしにして通知オフにして放置するしかない。


 パソコンを見ればメールボックスがぱんぱんだ。内容も似たような感じで、やれ「うちの事務所でお話を~」とか「先日のダンジョン配信を拝見しとても勇気ある行動に感動し~」とか「そのスタイルを活かしてモデルになりませんか?」とか「そのおっぱいなら年収1億を稼げるからイメージビデオに出演しよう!」とかだ。最後のヤバすぎるだろ。ぜったいイメージビデオじゃないだろ。


 SNSのアカウントも通知が死ぬほど来てて、リプもDMもうっかり開けないし見られない。


 ていうか、こないだまで『勇者パーティ』と『チューバーイーツ最強おじさん』で埋まってたトレンドが今や『低身長爆乳VTuber紅威凛音』一色だ。身長が低くて悪かったな! おっぱいがデカいのは嬉しくないよ! 邪魔でしかないよ!


 たくさんの人に褒められるのは嬉しいけどさばき切れない。何から手を付ければいいかわからない。パンクする。




「無理だよぉ~~~~~~~~~!」




 ぴんぽーん。


――誰だこんな時に!


 と思いつつインターホンを見ると見知った顔。


「小治さぁん!」


 半泣きになりながらドアを開けたら、


「ふーん? だいぶ親しい感じだ」

「貴女がおじ様のお弟子さんなんだ」


 女が二人いた。


 ぱつぱつのブラウスを着た身も心も疲れ切ったような顔でヘラヘラしてる女と。


 死ぬほど顔を見た尊敬する魔道士VTuber・勇者パーティの摩訶まか伊法いのりさんだった。


 その後ろでおじさんが、困った顔をしていた。


 何が始まるんです?



 ワンルームの狭くてモノが多い部屋に、成人四人を詰め込むのは厳しいと思う。


 とにかく座る場所を確保しなければと凛音は床に散らばっているあらゆるものをベッドに乗せた。デカいブラが三つくらい落ちて、おじさんが見ていないことを祈りつつ洗濯機に放り込んだ。


 尊敬する魔道士VTuberの伊法さんが、


「……手伝おうか?」

「いえいえいえいえいえ大丈夫です!」


「いや、やるよ。これはこっちでいいよね。返事はいらない。後で直して」

「ひょえ~はい~」


 おじさんは玄関の外にいるらしい。


 ブラウスぱつぱつお姉さんが、


「えーと、凛音ちゃん」

「ハイ!」


「着替えたら?」

「はい?」


 自分の服を見る。だるんだるんのTシャツとショーツ一枚で、胸もお尻も太もももばっちり見えている。


「ハイ!!!」


 着替えた。


 どうにかスペースを確保できたので、四人で膝を付き合わせて座る。


 近い気もするが、対面におじさんがいるので悪くない。


 当のおじさんが非常に居づらそうにしているのは悪いなと思うが。


 右手に座ったブラウスぱつぱつ女がヘラヘラと、


「じゃ、まず私から。政府ダンジョン庁の内海です。電話をしたんだけど出なかったので、直接伺いましたー。急でごめんねー? はいこれ名刺」

「はぁ、どうも……」


 名刺を胸の谷間から出してきた。そんな漫画みたいなこと本当にあるんだ。


「次、私か。知ってるみたいだけど、『勇者』パーティの魔訶伊法です。よろしくね」

「ハイ! 伊法さんは尊敬する魔道士ライバーです!」


「え、そうなんだ。ありがと。嬉しいよ」

「私もお会いできてうれしいです!」


 伊法さんは驚いた後、にこりと笑った。可愛い。


「最後に……」


 と水を向けると、居づらそうにしているおじさんが、背中側に置いてあるバッグからスターボックスのドリンクを人数分差し出してくれた。


「チューバーイーツの小治です。なぜか呼ばれまして……あ、これどうぞ」


「ありがとござまーす! おほぉー! 甘そぉー!」

「ありがとうございます」

「おお、頂きます……ホイップすっご……」


 じゅごー、とコーヒーを飲む。中に、細かく砕けたチョコが入っていて、とても美味しい。


「それで、今日はどのようなご用件で……?」


 これはなんなの?


「ほいじゃー、私から説明しますわー」


 と、政府の内海さん。やけに気安い感じだが、それよりも今にも弾けそうなボタンが気になる。いや、自分も似たような胸部を保持しているからわかる。辛さが。


 凛音はそこでようやく気が付いた。


 今、ここにいる女三人が全員、乳がデケェことに。


「まさかそれで集まった……?」

「たぶん違うかなー」

「偶然だよ」


 思考を読まれた。いや、二人の胸を交互に凝視してたらわかるか。おじさんははてなマークを浮かべている。かわいい。


 政府の内海さんが、


「凛音ちゃん、まずは第5層クリア、おめでとうね」

「あ、ありがとうございます」


「いやぁソロで突破なんてすごいすごい。それも個人勢の魔道士で四か月も経たずに」

「どうも……」


「で、バズってます」

「はい……」


「鬼バズです」

「はい…………」


「ぶっちゃけどう? 嬉しい? つらい?」

「半々です……」


「だよね。じゃあ私らがフォロー入ります」

「え?」


「あのね。政府としても優秀なVの子にはちゃんとバックアップをしてあげたいの。それが企業勢ギルドの子だったらまぁそっちに任せるんだけど、きみは個人勢で事務関係わからないじゃない?」

「ええ、まぁ……」


「変な電話とかメールとかバンバン来てるっしょ?」

「そうですね……」


「イメージビデオとか言ってもあれAVだから迂闊にサインしたら絶対ダメだかんね?」

「やっぱそうですよね!?」


「いきなり顔が売れたVの子に、悪い大人たちがたくさん寄ってくるので、可能な限り私らでフォローしようってこと。そこまではOK?」

「はぁ……」


「いきなり来ても信用できないだろうから、小治さんに来て貰いました。ですよね?」

「はい。この人は大丈夫です」


 と、おじさんが頷く。ダンジョン庁じゃなくて公安の人間ではあるが、信用はできる。そうおじさんは思っている。そのことを凛音はもちろん知らないが、おじさんが言うなら大丈夫か、と納得した。


「師匠のお墨付きであれば」


「「「師匠?」」」


「ダメでしたか?」

「いや、まぁ、いいか……」


「「いいんだ」」


 それで、と内海が先を話す。


「私もずっと見られるわけじゃあない。ってことで……」


 魔訶伊法が、続きを引き取る。


「凛音さん」

「はい!」


「『オーリオン』に来ない?」

「はい?」


 業界最大手事務所(ギルド)からの、スカウト。


 降ってわいた幸運だ。


 あの憧れの『オーリオン』だ。第六期オーディションに応募するか迷っていた凛音には、渡りに船だった。まさに夢への道が拓かれる。


「やりまぁす!」


「ただし――」


 伊法は、付け加えた。


「おじ様とは、もう会えなくなる」


「やめまぁす!」


 もう少し考えなさいよ、と全員が思った。



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