閑話 闇夜の井戸端会議3-上
「やっぱり最新型は充電も早いでござるな! ……現在気温は25.4度、今日は少し涼しいでござるな。応答タイプを真夏日から一つ下げて……」
暑さが続くある日、深夜の作戦終わりの充電の完了した元康は会話プログラムの調整をしながら自室から共用ルームへと向かっていた。人間とほとんど変わらない見た目である彼だが、ロボットである以上睡眠や食事といった類のものは必要ない。しかし長時間――特に太陽光発電のできない夜の活動後は人間の睡眠と同じように長時間の充電が必要だった。
「今日のスケジュールを検索中……む、今日は特に何もないでござるな。ということは、皆も共用ルームにいるでござるな! 久々の休養日でござるから、流行りのオンラインゲームでも提案してみるでござる!」
精巧な技術で作られたワインレッドと黄金色のオッドアイに5人分のスケジュールと人気オンラインゲームの検索結果を映し出しながら、うきうきと廊下を進む元康。5人でもできるパーティーゲームにしよう、などと思考しながら共用ルームの扉に手をかけようとした時、少し早く小さな話し声と共に扉が僅かに開いた。
「いや、私が見に行こう。もしかするとそろそろ充電が終わる頃合い……あ」
「晶理殿! やはりここにいたでござるな! 三依殿や祝詞斗殿もいるでござ……晶理殿?!」
そしてその扉は長い付き合いの中で見たことがないほど目を見開いて固まった部屋着の晶理によってすぐに乱暴に閉じられた。どういうことかノックをしても最大出力で引っ張っても開く気配はない。チェーンなど容易く破壊できる馬力を持つ元康が開けられないということは、恐らく晶理の「糸」によって無理矢理閉じられているのであろう。
「何かあったでござるか? 備品を壊してしまったのなら、某も一緒に謝るでござるよ?」
全く状況が読めずにノックとドアを破壊できるギリギリの出力でドアノブを引っ張ることを繰り返すこと数十秒、突然扉が軽くなり少しだけ開かれたかと思うと、先ほどとは明らかに異なる他所行きの格好をした晶理が素早く部屋から出てきた。
「晶理殿! ……着替えてただけでござったか。どこかに行くでござるか?」
元康が後ろ手で扉を閉める晶理に明るく尋ねると、彼もやや不自然な間の後、ぎこちない笑顔で答えた。
「ああ、そう……そうなんだ。今日は、その、天気がいいから。散歩……あ、いや買い物に行こうと思って、だな。あー、えっと、元……元康もどうだ?」
「某の言語モジュールが故障した時ぐらい喋り方がおかしいでござるよ?!」
彼がやや対人コミュニケーションに苦手意識があることは熟知しているが、ここまで言動がめちゃくちゃなことは今までで一度としてなかった。当の本人は気がついていないのか、元康も、どうだ? ともう一度自分に尋ねていた。
「晶理殿、体調でも悪いでござるか? だったら買い物よりも先に医務室に……」
「あ、いや、体調は大丈夫だ。それで、買い物に一緒に行かないか?」
「話がイマイチ通じていないでござるか……? まあ、買い物は行くでござるが。新しい上着を購入するでござる!」
心なしかほっとした表情の晶理に首を傾げつつも、電子マネーの残高確認と近隣服飾店舗の入荷情報の検索を始める元康。アンドロイドが服に関心を持つなんてと疑問に思う人もいるかもしれな。しかし彼に言わせてみれば、食事も化粧もヘアアレンジにも無縁なアンドロイドは整備士にメンテナンスしてもらえない服ぐらいにしか給料――形式的なものなので人間の6割程度だが――の使い道がないのだ。
「むむ! 大型ショッピングモール内の複数店舗で新作が入荷しているようでござる!」
「そうか、じゃあ……そこにしよう。私はどこでも問題ない」
「やっぱりなんかおかしいでござるよ……?」
念の為バイタルサインを確認しようとした元康だったが、では、行こう、と元康の手を引っ張って進み出す晶理に慌ててついて行くことしかできなかった。どんどんと共用ルームから遠ざかって行く2人を三つの影がこっそりと見つめていた。
「……行った? 行った?」
「そうみたいですね」
先ほど晶理が閉じた今日ルームから顔だけ出して外を伺う祝詞斗と三依。完全に廊下から消えた2人を確認して、大きく息を吐いた。
「「よ、よかった〜〜〜〜〜〜」」
そっと扉を閉めて再び室内に戻る2人。祝詞斗の手にはカラフルな輪飾り、三依の手には共用ルームリビング部分の写真に細かく説明が書き込まれた飾り付け図が握られていた。
「よく……挙動不審で誤魔化せましたね……」
「ショーリさん嘘苦手だし、チョー急だったからハラハラしたよ……」
「リーダーが機転効かせてくれなかったら危なかった……本当は俺が行こうと思ったんだけどどうにも火から手が離せなくて……」
普段は食事のために使う大きな机の上には、作りかけの輪飾りと薄い紙で作られた色とりどりの花、そして「元康さんお誕生日おめでとうございます!」と書かれた厚紙が所狭しと置かれていた。さらに奥のキッチンでは麟がパーティー用の料理――元康は食べられないが彼がパーティーの雰囲気を好むため軽いものをいくつか作っていた。
そう、彼らは、元康に絶対にバレてはいけない――しかし彼らの個室の距離と広さを考慮すると共用ルームでやるしかない――彼のためのサプライズパーティーを準備していたのだ。
「そうなんだよねえ……昨日しーっかり働いてもらったモトヤスさんの充電が終わったぐらいで、コーハイでリンキオーヘンなリンさんがテキトーに一緒に出かける。その間にボクとシュート君とショーリさんで準備するって算段だったのに……」
「これで器用担当がいなくなっちゃった……」
「……悪かったな料理以外できなくてさ。あ、いや、料理は祝詞斗以外できるか……はあ」
元康さえ時間通りに充電が終われば完璧な計画だった。しかし彼らは元康が最近最新の充電設備に取り替え替えたことを知らなかった(それに気がついた彼と同室の晶理が確認に行こうとしたのだが)ため、作戦を大きく変更する必要が出てしまった。
「どうする?料理は完成したけど、それ以外はまだ全然……」
「あの感じだと晶理さんが稼げる時間なんてしれてますし……」
「……悩んでいる時間はないぞ。俺もできる限り手伝う。だからリーダーの稼いだ時間でなんとしてでも飾り付けを完成させよう!」
「「はい!」」
きっと2人は今頃店に着いた頃だろう。生活に無頓着な挙動不審な晶理と服とアクセサリー以外興味のない元康が滞在する時間など2時間あればいい方だ。3人は腹を括り、それぞれ自分の仕事に取り掛かった。




