27話 大切な日に向けて
「っはーー!! 疲れたー……」
「シュート君おつかれ! さ、お昼ご飯の前のきゅーけーだよ!」
「ゆったりとした動きは慣れないでござるからな! ストレッチも忘れずに、でござる!」
「ボイストレーニングもこれから本格的になる。喉のケアも忘れるなよ?」
外の空気に少しずつ熱気が混ざるようになったある日、共用ルームに祝詞斗の気の抜けた声が響く。ヘアバンドを片手で外し、ライブのグッズのサンプルでもらった青いタオルでじわりと浮かぶ汗をぬぐった。彼らは今、絶賛チャリティーコンサートの練習の真っ最中だ。地球外生命体との長きに渡る戦いで失われた多くの命。そして、これまでに起きた災害での犠牲者を追悼するために、年に1回著名なアーティストによるチャリティーコンサートを開いている。犠牲者の遺族は無料参加、テレビでの全国放送もある一大イベントだった。
そしてありがたいことに毎年呼ばれている「Midnight Phoneix」――つまり彼らは人気や三依や麟といった地球外生命体からの被害を受けているメンバーがいる、という点において注目アーティストの内の一組といて差し支えなかった。
「麟は出演者代表のスピーチも任せられているのだろう? 私もリーダーとして誇らしい」
「いや、そんな……人の前でかしこまって話すっていうのは慣れていないですけど、精一杯頑張ります!」
「ささ、喉にやさしい緑茶でござるよ! お昼ご飯も食べて、午後からのトレーニングも頑張るでござる!」
「んーね、テレビつけてもいい? 確かそろそろさあ……」
それぞれが思い思いに過ごす中、三依が薄いテレビのスイッチを入れる。真っ暗だった画面にはちょうど昼のニュースが終わったのか、野外の映像とともに後続番組のタイトルが映し出されていた。
「あ、やっぱり! シュート君みてみて! これ、今までのコンサート!」
「『犠牲者追悼チャリティーコンサート プレイバック総集編』……あ、あれ麟さんたちですか?」
「ああ、そういえばこの時期になるとやっていたな。せっかくだから見てみるか?今年の参考になるかもしれないぞ?」
「はい、ぜひ!」
祝詞斗に断る理由はない。頼んでおいた昼食を用意しながら、5人は30分ほどの番組をのんびりと楽しんだ。
「それで、どう? どうだった? ボク、かわいかったでしょー?」
「こうしてみると何回も招待してもらっているのだな」
「祝詞斗殿! なにか参考になりそうなことはあったでござるか?」
「んーーーーそうですねえ……」
先輩に振られ、祝詞斗は先ほどまで見ていた映像を反芻する。それぞれの年の名場面のみを切り取ったものとはいえ、コンサートの雰囲気は何となくつかむことができた。ライブでやるようなポップで激しい曲ではなく、バラード系の曲を歌っていた三依達は、普段とは違う魅力があった。しかしそれ以上に、祝詞斗にはきになるかもことがあった。
「なんか……『MidnightPhoenix』って、結構な頻度でメンバー変わってるんですね」
およそ20年分の映像の中には『Midnight Phoenix』のパフォーマンスも何度か映っていた。そして同じ歌を歌うそのメンバーは、今の形になるまでに幾度となく――晶理と元康を除き――増えたり減ったり、顔ぶれが変わったりしていた。
「そこ?!」
「あ、えと、なんか1年後の映像には居ない人とかもいてびっくりしちゃって……勿論歌い方とかも参考になりました!」
「まあ驚くのも無理ないか。普通のアイドルグループなら滅多なことでもない限りメンバーの脱退加入……死亡はないからな」
「え、まさか……」
笑顔のままさらりと告げる麟に祝詞斗が驚いていると、三依が一冊の分厚いアルバムを持って祝詞斗の隣にすとんと腰掛けた。
「そりゃーボク達『キケンととなりあわせ』って感じでしょ? フツーに作戦中にバイバイしちゃったりするし、オマエみたいに初日に脱走するヤツはいないけど、普通のアイドルになりたかった人にとってはツライからさあ……」
三依がアルバムを開くと、一年ほど前の日付が記された集合写真が目に入った。恐らくここ――共用ルームで撮られたと思われる晴れた日の写真には、ピースサインをする三依と元康、二人の後ろで柔らかく笑う晶理と麟、そして、見知らぬ白髪の小柄な少年が三依の隣で訓練用の木刀のようなものを持って笑っていた。
「たとえばね、この子はボクの初めてのコーハイの白菊未来君」
「すっごく中性的ですね……」
「まあ、いろいろあってもういないんだけどね。表向きは病死のはず」
「そう、なんですか」
日常の何気ない会話のようにさらりと言う三依。驚く祝詞斗をよそにそのまま次々とページをめくった。
「この人はケッセーしたときからずーといた副リーダー。特異点の力を使いすぎて戦えなくなっちゃったんだって。この人とこの人はも戦死。この人は……一応生きてるんだっけ、ショーリさん?」
「ああ、彼か。彼なら、視力は戻っていないが、最近では一人で出歩けるようになったそうだ」
「最近?! この写真、10年以上前ですよね?!」
「そうだ。この先輩方には俺も、三依も、会ったことがない。ただ元康さんとリーダーからはどの先輩方もとても勇敢な戦士だったと聞いているぞ」
「そうでござる! それはもう一騎当千百人力! 一度某らが戦地に赴けば、たちまち敵は消え失せる、なんて言われていたでござる! そうでござろう、晶理殿!」
祝詞斗ははぜ次々とメンバーが入れ替わるのか、なぜあの時のライブであれほど信頼されていたのか、少しだけわかった気がした。
「……確かにそのようななことを言われていたこともあった、が……」
元康に話を振られた晶理はおもむろに入り口に視線を移した。4人もつられてそちらを見ると、1人の女性職員が決まりの悪そうに立っていた。
「ひとまず、彼女の用件を聞いてからでも、この話は遅くないと思う」
「あ、お話し中申し訳ありません……その、寿さん……そろそろ定例会議のお時間が……」
全員の視線を浴びながらおずおずと切り出した職員。それを聞いた麟はえ、という顔でスマートフォンを確認し――
「あ、すみません!! すぐ準備しますね! 俺の、俺の制服……」
大慌てで席を立ち、ハンガーにかけられていた灰色の上着に袖を通しながら手櫛で髪を整えた。
「わざわざで呼びに来ていただいて申し訳ありません……会議、もう始まってます?」
「いえ、まだ5分ほどありますから、急げば大丈夫です」
職員の言葉によかった、っと胸をなでおろす麟。そして、すみません、お話はまた! とだけ言い残し、早足で共用ルームを飛びだしていった。
「……珍しいな、麟が予定を忘れるなんて」
「すごい速さ……オレより速いかも」
「お昼は……リンさんが帰ってきてからしよ! あ、でも今のうちにした準備だけしとかないと」
「そうでござるな!」
そして残された4人は、そんな彼の背中に手を振りながら、昼食を作る準備に取り掛かった。




