25話 雛の決意
今回で2章完結となります
よく晴れた昼下がり、町はずれの一角に設けられた静かな緑地に一人の少年が立っていた。
「ただいま、お父さん、お母さん。……中々来れなくてごめんね」
少年の前には大きな黒い慰霊碑。長い壁のようなそれには、「戦災慰霊碑」という大きな文字と、無数の人々の名が刻まれていた。
「でも安心して! ボクは元気だから!」
三依は献花台に花を静かに置き、慣れた動作で両親の名前の彫られた石の前にしゃがむ。
「今はね、アイドル続けてて、昨日はライブしたんだよ! おーっきいステージで、いっぱい歌って、みんな笑顔で、とっても楽しかった!」
少し離れれた場所には、彼をそっと見守る4人。
「あ、あと、ボク、すごーーく、強くなったの! ウチュージンなんかヨユーで倒せちゃうんだから!」
そして、静かに両手を合わせた。目を閉じて、在りし日の日々に思いを馳せる。穏やかな風が、彼の桃色の髪を優しく揺らした。
「……だからね、安心して、お父さん、お母さん。 次に会いに来る時には、きっと、ウチュージンなんかいなくなって、平和になってるはずだから!」
数十秒の沈黙の後、三依は立ち上がった。そして寂しさの混ざる赤い瞳で晴れ渡った青空を少しだけ見つめ、慰霊碑に笑顔で手を振った。
「……じゃあね。また、今度」
彼を見守るように降り注ぐ日差しの中を三依は駆けていく。そして彼を優しく迎える4人と共に、故郷をあとにした。
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「それじゃあ、ツアーライブの成功を祝して……」
「「「乾杯!」」」
数日経ったある夜。東京中枢区生活棟のとある部屋で、3人のアイドルによるささやかな宴会が開かられていた。
「あんまり大きな声出すと三依と祝詞斗が起きますんで、そこだけ気を付けてくださいね?」
「もちろんだ。元康も、気を付けるんだ」
「そ、某は小音モードがあるでござるよ! というか、晶理殿は知ってるでござろう!?」
「「静かに!」」
「罠でござるか!?」
机の上には2本のグラスに注がれた酒。麟が作ったであろうかるいつまみも用意されている。大きな行事ごとの後、不定期に開催される大人(と見ているだけの機械生命)のささやかな慰労会だった。
「反響はどうでした? 自分的にはかなりいいパフォーマンスだったと思ったんですけど」
「概ねポジティブな意見が多いでござる! 特に祝詞斗殿の加入に伴う新規ファンからはかなり高評価でござるな!」
「それはよかった。あとで彼にも伝えておいてほしい」
しばらく他愛のない会話が続いていたが、少し顔の赤くなった麟が豆菓子の袋に手をかけながらそいえば、と呟いた。
「結局あれ、どうだったんですか?」
「あれ、というと……予測機の異常でござるか?」
「そうですそうです。今回はたまたま放棄地区で三依と祝詞斗が近くにいたから良かったですけど、市内だったら大惨事ですよ?」
「その件だが……精度不足だったそうだ。それ以上の説明は得られなかった」
晶理がやや不満の残る表情で答える。
「それだけ……それだけですか?!」
「ああ。なにか必要なことがあれば協力する、と申し出たのだが、問題ないと」
「いや問題しかないでしょ!?」
「まあー……8割がた晶理殿の力を頼りたくないのでござろうな」
「またそれですか?! 人命かかってるんですけど?!」
いつものことだと、ため息をつく晶理と元康。お酒の影響かいつもよりも熱くなっている麟。
「次の定例会議でおれからも言っておきます! リーダーに何のうらみがあるのか知らないですけど、そんなこと言ってる場合じゃないです!」
「そうだな。私がいつでも動けるとは限らない……私を頼らないのであればしっかりしたものを作ってほしい」
「過去の地球外生命体出現データなら某も持っているでござる。今の開発環境との互換性があるかどうかはわからぬでござるが、渡しておくでござる」
そう言いながら残った酒を一気に飲み干す麟に2人もうんうんと頷いた。ふと窓の外を見ると、果て無く広がる黒い空に雲に隠れてぼんやりとした月が浮かんでる。
「……いつか、終わるんですかね、この戦い」
「さあ、な。終わりはいずれ来るだろうが……それがいつなのかは私にもわからない」
「某にも計算できぬでござるなあ……」
闇夜を照らす、消えない灯。しかし、闇はいつまで照らし続ければ晴れるのだろうか。暖房の効いた部屋がすこしだけ寒くなったように感じた。
「……まあ、なんだ。取り敢えず今は、こういった話はしなくてもいいかもしれないな」
「そうでござるよ! もうすぐですチャリティーコンサートも始まるでござるし、休める時にはしっかり休むでござる!」
「……そう、ですね。あ、おつまみまだありますよ!」
再び始まる束の間の平和。酒を飲み、なんでもない会話を続ける宴会は、時計の針が深夜を指すまでゆっくりと続いた。




