24話 違和感の正体
「……何? 今の音。なんかの訓練?」
「政府からの通達は……出てない、です」
先ほどの重たい空気から一変し緊張が走る。かなり近くから聞こえたということは、いつ遭遇してもおかしくはない距離に何者かが潜んでいるということである。
「シュートくん隠れて。念のため、地球外生命体用の装備も起動して」
「は、はい!」
鋭い目つきで周囲に視線を巡らす三依。ものの数秒後、彼の赤い瞳が捉えたものは、ここに入るはずのない生物だった。
「なんで……あいつらが、あんなに? 昨日倒したはずなのに」
そこにいたのは瓦礫の間を我が物顔で闊歩する十体程の地球外生命体だった。
「しかもなんかマガマガしくなってない?」
「昨日繭みたいなやつに包まれている個体をいくらか見ました。もしかしたら、見えないところでまだ眠ってた……?」
黒っぽいオーラのようなものを纏った地球外生命体の姿は、誰がどう見ても脅威そのものだった。
「『糸』にもかからなかったってこと? あ、あのコーセードヨソクキは?」
「えっと、予測機は……は、反応してない?!」
「ハア?! 何のための機械だよ……もう」
しかも政府肝いりの予測器は目の前に地球外生命体がいるにも関わらず、何度更新しても予測結果はオールグリーン。三依は驚きと呆れの混じったため息をつくと、素早く武器を展開した。
「見るからにヤバそーだし、ショーリさん来るまで時間かかるよねー。…………セーフク着てないから速度は落ちるけど……あの量ならなんとかなる。……これって、リベンジマッチってヤツ?」
かつて自身の故郷と両親を奪った宿敵。そして今、長い時を経て再び故郷で対峙している。きっと何かの因果なのだろう。三依はかつての怒りと憎しみが燃え上がっていることを自覚した。深呼吸して心を落ち着かせ――そして自身の後ろで慌ててクローを装着している祝詞斗を手で制止した。
「三依さん! オレはどう動きますか? 距離もありますから、今ならオレが不意打ちを……」
「あ、シュート君は来なくていいよ。そのかわりショーリさんに連絡して、すぐ離れて」
「え? 見たところ結構いますし、本当は嫌ですけど、1人でも多いほうが」
「だって、オマエはまだ新人でしょ? それに、こいつらはボクが殺りたい。いいでしょ?」
こちらを振り返った彼の瞳には、かつてないほどの怒りが込められていることは祝詞斗にもすぐにわかった。彼がチャームポイントと自負している大きな赤い瞳はあの日のような炎のようにも見える。小さな先輩から滲み出るありえないほどの威圧感に、祝詞斗は首を縦に振ることしかできなかった。
「……本当はね、ボクも、シュート君と一緒」
「え?」
大きな銃を構え、地球外生命体のもとに向かう三依はぼそりと言った。
「ボクも、悲しいし…………とっても、怒ってる」
「……っ」
「全員消えろ……ここからいなくなれ!」
往日の死者を弔うように降る桃色の光、怪物の悲鳴ともとれる叫び声、封じ込めていた怒りを発散させるように連射を続ける桃髪の少年。
「あんな三依さん初めて見たかも……」
祝詞斗は言われた通り物陰に隠れ、複雑な感情を抱きながら復讐劇を静かに見つめていた。
「……私も、あの子が負の感情を露わにする場面はめったに見たことがないな」
「うわあっ!……あ、晶理さんか......」
突然背後から聞こえた落ち着いた声の主は一つに結ばれた長い髪を風に揺らしながら、今もなお攻撃を続ける三依を見て苦笑を浮かべた。
「連絡してくれたのは君だったか? もっとも、私の加勢は必要ないようだが」
「はい……『ボクがやりたい』って言われて。三依さんの実力を疑っているわけではないんですけど、大丈夫なんですか?」
「あの子の実力なら十分だ。……それに、私には止める権利はない」
見ると、三依を囲めるほどの数いた地球外生命体はいつの間にか姿を消し、三依は銃口から煙を立ち昇らせながら空をぼんやりと見上げていた。
「……しかし、君の原動力が忌避意識のみであることと同じように、あの子の原動力は地球外生命体に対する怒り、憎しみ……それだけだ」
「……」
「……あの子から何を教えてもらったのだ?」
「三依さんの、ご両親が亡くなられた時のことです」
祝詞斗の言葉を聞いた晶理は、そうか、と頷いた。
「私は詳しいことまで聞いたことはないのだが……あの子は随分と君を気に入っているらしいな」
「え、そうなんですか?」
祝詞斗がとてもそうとは思えない、という顔をすると、晶理にこやかに頷いた。
「三依君は……君といると楽しそうだ。君に親近感を抱いたいるのかもしれない」
「親近、感?」
好きなもの、失ったもの、アイドルとしての在り方……人懐っこい笑顔でファンを魅了する小さな「先輩」は少しだけ、自分に似ているところがあるかもしれない。
「それなら……いいんですけど……」
今思えば彼なりの気遣いだったのかもしれない三依の行動と、それと同じぐらい振り回されたことを思い出し、祝詞斗は曖昧に――しかしどこかで少し嬉しそうに笑った。
「残党は……もういないようだな。では、これをもって地球外生命体制圧作戦は正式に終了だ。今回の件は私から政府に報告しておこう。三依君は……もう少しここにいさせてあげてくれないか?」
「了解、です」
いつの間にか情報収集をしていたのか、晶理は指先から伸びている糸をふわりと消した。そして祝詞斗も彼とともに、花束をかつての玄関に供える三依を残して放棄地区を後にした。




