22話 先輩尾行作戦
「では夕食までには戻ってきてくださいね。出発は明日となりますので、しっかり休んでください」
「ありがとうございます、三浦さん。……では各々解散で!」
よく晴れた空の下、変装用のマスク越しの麟の声に4人は頷く。無事にツアー公演及び地球外生命体制圧を終えた後のご褒美とも言える自由行動を楽しむべく、彼らはガイドブック片手に各々に店舗街へと出かけていた。
「晶理殿、どこに行くでござるか? 某、メンテナンス担当の職員方にお土産を買いたいでござる!」
「私は特に予定はない。君が良ければ同行しよう。」
「勿論でござる!」
うきうきの元康を連れた晶理は大通りの土産屋へと向かい
「……母さんからなんか頼まれてたな。確かあっちの店に……」
SNSアプリに送られたメッセージとにらめっこをしている麟は小さな商店街へと消えた。
「三依さんはどこか行く予定があるんですか?」
「うん、ボクも行くところがあるんだよね~。ってことで、また!」
残された三依も足早に去っていった。
「じゃあオレも見て回るか……えーと、『甘い物好き必見! 激うまスイース10選!』に載ってた店がこの辺にあるはず」
東京を出ることのない祝詞斗にとってはせっかくの機会なのだ。いつもは一緒にいこ! と誘ってくれていた先輩の背中を見送りながらも、彼もとあるブログの画像を見ながら人込みを進んだ。
「やっぱりすごく美味しかった……! 母さんへのお土産も買えたし、後は東京に持って帰れるお菓子にしないと……」
しばらくした街の一角、おしゃれな紙袋を両手に持った祝詞斗は満足げにそれらをも詰めていた。彼が政府敷地内で暮らすようになってから寂しい思いをさせてしまっている母への土産をそっと眺めていると、前方によく知る人物がいることに気が付いた。
「あれ、三依さん?」
キャップの下の桃色の髪を1つに結び、大きめのパーカーに身を包んだ小柄な少年。土産屋の紙袋ではなく近くのコンビニのビニール袋を持った彼は、祝詞斗の出てきた2つ先の店――古い花屋で店主と談笑していた。
「生花はさすがに持ち帰れないはずだけど、ドライフラワーでも買うのかな?」
しかし、彼の手に会ったのは丁寧に包まれた数輪の菊の花だった。会計を済ませた三依は笑顔で店主に手を振ると、喧騒から遠ざかるように市街地へと続く道を進んだ。
「ん? その方向って、放棄地区じゃないか?」
花束を抱えながら三依が向かった先は、昨夜の戦場である瓦礫の街。今は自由時間故、当然誰にも連絡はしていないだろう。しかしいくら祝詞斗らが政府の人間とはいえ、勝手に放棄地区に侵入することは褒められた行為ではない。それに万が一地球外生命体に遭遇すればたいへんなことになるだろう。
「…………あんまりいい事じゃないけど……何かあったら大変だし……」
こちらに全く気が付いていない三依は、そのまま「この先放棄地区 関係者以外立入禁止」の看板を一瞥することなく通り過ぎた。祝詞斗の数秒の思案の後、少し距離を取りながらそっと後を追うことにした。
「♪――♬~」
「三依さんどこまで行くんだ? もう結構進んでる……というか昨日の場所より奥、だよな?」
昨日公開された新曲口ずさみながら軽快に進む三依。祝詞斗は少し離れた壊れた壁に身を隠しながらそっと後姿を見つめている。昨日地球外生命体を制圧したこともあり辺りはしんと静まり返っている。三依のコツコツという足音を聞きながら様子をうかがっていると、三依がふと足を止めた。
「ふうん……やっぱりまだ、そのままなんだ」
「そのまま?」
祝詞斗は三依に見つからないように壁の陰から周囲を見回す。しかしそこに広がるのはただの瓦礫。恐らく住宅街があったであろうこの場所には、薄い水色の空の下に規則的に並んだかつて家であっただろうものが静かに置かれていた。
「こんなところに、何のために……?」
今は出勤要請が出ている訳ではない。決して安全で楽しいとは言えない場所にわざわざ向かった三依の意図を汲みかねていると、突如後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
「あれー? シュート君、こんなところで何してるの?」
「うわあっ?!」
肩を大きく震わせ、恐る恐る後ろを振り返ると、そこには先ほどまで瓦礫の前にいたはずの三依が笑顔で――しかし威圧感の溢れる顔で――立っていた。
「い、い、いつの間に?!」
「んー、ここ着いてから、かな。足音が聞こえたっていうか。敵意ないみたいだからほっといたけどさ」
「敵意あったらどうして……いやいいです言わなくて……」
彼が敵と認定した者が蜂の巣になるのは自明である。祝詞斗はドクドクと高鳴る胸を抑えながら、三依の機嫌をうかがうように彼を見つめた。
「センパイをつけるなんていいシュミしてるじゃん?」
「あ、いや、一人じゃ危ないと思って……」
「ふーん?」
半分嘘で半分本当ではあるが、三依はそれ以上追求する気がないのか、ま、いいやと先ほどの瓦礫に視線を移した。
「あ、あの……?」
「……せっかくここまで来てくれたんだし、シュート君にも紹介してあげる」
三依はいつもよりも落ち着いた声でそう呟くと、状況の飲み込めない祝詞斗の前で、手に持っていた菊の花束を地面にそっと手向けた。
「ようこそ、ボクのコキョウヘ! ここはボクの……ボクの家だった場所、だよ」




