18話 半分の世界
「シュート君お疲れ様! 明日は通しリハだから、早く寝よ!」
「それもそうですね。じゃあこのラングドシャ食べたら寝ようかな……」
「え、 さっきも食べてなかった?」
報告も終わりホテルに戻った祝詞斗と三依はシャワーを終え大きな机の上に売店で購入したお菓子を頬張っていた。ヘアバンドをつけ肌の手入れを終えた三依は1つ、半ば強制的に美容液を塗りたくられた祝詞斗は3個目に手を付けている。
「シュート君はさあ……その食習慣したほうがいいよ? 衣装によっては腕とかお腹とか出るし……。ボクはまあまあタイシャ? がいいから何とかなるけど、シュート君そのうち大変なことになるよ?」
「う、耳が、痛い……」
「先輩」からの痛い視線にいそいそと菓子箱をしまう。シュート君はアイドルなんだよ? オマエだけの体じゃないの! とさらに三依が追撃をしているところに、シャワーを終えた麟が声をかけた。
「旅先で心がはやるのは分かるけど、早く寝るんだぞ? 水場は空いたから、食べ終わったほうから歯磨きして……」
「わかりま……えっ」
その声に返事をしながら麟の姿を見た祝詞斗は思わず驚嘆してしまった。
洗顔直後故にヘアピンであげられた前髪。それによって顕になった、普段は隠されている右目と、瞳を切り裂くように刻まれた大きな傷跡。
「祝詞斗?どうしたん……あっ悪い! ……うっかりした。見てて、気分がいいものじゃないもんな」
突然黙った祝詞斗を見て、すぐに自分の右目の状態に気がつくと、慌ててヘアピンを取り払い前髪を乱雑に下ろした。
「き、気分を害したとかじゃないんです! ちょっとだけ、ちょっとだけ、びっくりしちゃって」
とても失礼なことをしてしまった、と咄嗟に弁明する祝詞斗。そんな彼に麟はいつものように笑いかけた。
「祝詞斗がそんな人間じゃないのは知ってるさ。本当にびっくりしただけっていうのは見れば分かる。そのうち伝えておこうと思ったんだが、中々時間が取れなくてな……説明しておかなかった俺も悪かった」
麟はコップに入れられた水を一口飲み、ベット際の椅子に腰掛ける。
「実はな……俺はMidnight Phoenixの切る前は、日本軍の兵士だったんだ。そんな偉い人じゃなくて、地元の防衛分隊だったんだけどな。その時の作戦中に、地球外生命体からの砲撃が当たっちまったんだ」
「……」
くしゃくしゃになった前髪の隙間から見える虚ろな銀眼は僅かに悲しみを湛えていた。
「でもまあ、確かに右目は見えなくなっちまったけど、急所は外れたんだ。それにその後の俺の反撃で突破口が開けた。仲間も死なずに済んだんだ。『名誉の負傷』ってやつさ!」
なんともないというように、いつものように目を細めて笑う彼からは、いつもはない暗さが感じ取れた。
「そんな、そんな危険な場所で、麟さんは……俺の兄さんも……」
祝詞斗はふと在りし日の兄の姿を思い出した。
年に片手で数えられるほど、ちょっとした手土産とともに帰宅していた兄。一度も戦場を見たことがない彼は、少し汚れた隊服で笑う兄の置かれていた場所を思い知り沈痛な面持ちで黙ってしまった。
「あ、あのさあ! なんか、空気重くない? ボクこーゆうのニガテなんだけど! ……あ、そうだ! この部屋ベッド2個しかないでしょ? 誰がソファーベッドで寝るか、ソンタクなしのじゃんけんで決めない? ね? そうしよ!」
ほら、今日は早く寝ないといけないんだし? と立ったままの祝詞斗を無理やり麟の方へと押しやり、リンさんもそれでいいよね? と彼なりの精一杯に気を使う三依。
「……そうだな、そうするか!」
「そう、しましょう! 恨みっこなしですよ!」
「ボクこー見えて運はいいほうだから!」
それから長くないうちに、一抜けした三依と7回のあいこの末争奪戦を制した麟がベッドに、残念そうな顔をした祝詞斗がソファーベッドに入り、彼らの部屋の灯が消えた。




