17話 狩りの時間
『3人とも位置に着いたか?』
「はい。準備完了です。『糸』……じゃなくて今回は政府の予測システムでしたね……に従って行動を開始します」
『了解』
『了解でござる。地球外生命体を発見したら連絡をお願いするでござる』
夜8時。誰かの住まいで会ったであろうものの残骸が残る薄暗い荒野に5人は赴いていた。今回の地球外生命体は、あの時のライブのような人が生活する場所ではない。全国に点在している地球外生命体との攻防により軍が防衛困難、または地球外生命体の制圧困難とみなし、住民の退去及び戦線を一時放棄した後一般立ち入り禁止とした地区――いわゆる放棄地区だ。
勿論地球外生命体は戦力を立て直したうえでせん滅しているが、原状回復のための補助予算がない、住民が死亡している、優先度が低いといった理由から放棄されたそのままの荒れ果てた状態で放置されている場所がほとんどである。人気のない、遮蔽物もあるなかなか広い土地――一部の高度な知能を持つ地球外生命体が攻撃の機会を狙って潜伏するのは当然ともいえる場所だ。
「んじゃ、ちゃちゃっとやっちゃおう!」
「油断はするなよ、三依。……えっと、地球外生命体はこの辺のはずだが……」
「……あれ、じゃないですか?動き的に、見張りなんじゃないでしょうか」
今回は索敵、圧殺、拘束まで何でもござれの晶理の「糸」ではなく、政府が作成した地球外生命体襲来予測システムのテストも兼ねた使用をお願いされているため、索敵は可能であるもののやや大雑把な位置しか知ることができない。
祝詞斗が見つけた個体は決まった場所を往復しており、あたりに警戒しているようだ。おそらく、この近くに本陣があるのだろう。
「よし、俺がリーダーたちに連絡しておこう。祝詞斗、三依、あいつらを頼めるか」
「おっけー!」
三依は小声でウィンクし、懐から小さな銃を取り出した。見つからないように壊れかけの壁に隠れつつ、両手で銃を構え狙いを定める。彼のために技術を積め込まれた銃がこちらに全く気がついていない獲物を捕らえるのは当然の摂理だった。
「……よし。じゃ、行く? 多分あの壁の向こうにいる気がするんだよね〜」
静寂を破ることなく消えた地球外生命体を確認し、三依は小銃をしまい、彼のメインウェポンのガトリングガンを構えた。
「そうだな、勘付かれて逃げられると面倒だ。先陣は……祝詞斗、いけるか? もちろん危ないと思ったらすぐに俺が出る」
「了解です、オレが、行きます!」
「じゃあ決まりだ。三依、祝詞斗のサポートを」
「りょーかい!」
先程地球外生命体が巡回していた場所にゆっくり近づく。気配を消してそっと壁の裏をのぞき込むと、大きな虫のような姿をした黒い地球外生命体生命体が5体、繭のようなものに包まれて休眠しているようだった。
「……行きます!」
いうが早いか、祝詞斗はクローを構えて地球外生命体に素早く近づく。まずは一体、こちらに気がつく前に、壁に張り付いた黒い繭ごと切り裂いた。これなら問題ない。祝詞斗はそっと深呼吸を死、動線を頭の中でシュミレートした。
『!!!』
流石に気がついた残りの4体が繭から目覚め、臨戦状態になる。噛みつこうとする2体を自慢のスピードで素早くかわし対面の壁に激突させる。さらに背後から飛びかかる2体。しかし祝詞斗は体勢を低くしながら振り向きざまに両断した。
「カンペキ! あとはボクらに任せて!」
緊迫した現場に似つかない高揚した声とともに桜色の雨が降り注ぐ。激突の衝撃から体勢を立て直そうとした2体はものの1秒もかからず消し飛んだ。
「そこのはそれで全部か? こっちももう1体見張りがいたから倒しておいた。それと、こいつもっ!」
2人と反対側の壁から顔を出した麟。2人が場を制圧したことを確認しながら、彼の背後から襲い掛かろうとした残党へ間髪入れずに鋼の拳をお見舞いした。
「これで終わり? やっぱいつもみたいにショーリさんから教えてもらうほうがいいなー。タイショできないわけじゃないけど、ちょっとスリルありすぎ」
『私も常に現場にいるわけではないし、いつまでもいるわけでもない。それに糸は現場に一度は赴かなければ張ることはできない……予測システムが完成されれば、私がいなくてもある程度予測することができるんだ。協力してくれないか?』
「うーん……わかーっ、た」
『それで、地球外生命体は制圧した、ということでいいのか?』
「はい。システムには表示されていません」
『こっちも終わったでござる!』
通信機の裏から風を切る斬音と元康の駆動音がかすかに聞こえた。どうやらお互いにやるべきことは終わったようだ。
『では今日はこれで作戦完了としよう。万が一地球外生命体が残っていたときの保険で私が”事後処理”をしておこう。君たちは各自報告の後、自由にしてもらって構わない』
「了解。……と言う訳だ。三浦さんには俺から連絡して研究員の方を呼んでもらおう。三依、祝詞斗と一緒に報告をしてくれないか?」
「任せて! さ、シュート君、とりあえずホーキクイキから出るから!」
「あ、はい。……麟さん、ありがとうございます!」
「気にするな、そのうち祝詞斗もできるようになるさ」
「じゃ、業務用のスマホ出して。ここに『報告書作成』ってあるでしょ? ここにこれを……」
「ここですね、えーと、氏名と所属と……」
真紅の糸が既に視界に入りだした放棄区域から離脱し、祝詞斗は「小さな先輩」に教わりながら初めての戦後報告を完了した。




