16話 いざ北の大地へ
「うおー札幌!……さっむ!!!」
「到着とうちゃーく!……さっむ!!」
数時間列車に揺られ、最初の目的地である札幌に到着した5人。ホームから地上へと続く階段を登ると、肌を刺す風が彼らを出迎えた。
「だからちゃんとマフラーしろって言っただろ?……はあ、5回やって4回負けるなんてな……元康さん、到着手続きお願いしてもいいですか? 俺、売店で温かい飲み物買ってきます」
「承知したでござる!三依殿、祝詞斗殿、あまり遠くに行っちゃダメでござるよ!」
「私も一緒に行こう……ブロック間移動の手続きは煩雑だからな」
元々好奇心旺盛な最年少と修学旅行依頼の遠出になる祝詞斗は、そんな声を知ってか知らずか、少し離れた観光客向けの顔はめ撮影パネルを見ていた。
「これ、後から写真撮ってもらおうかなー。公式のSNSに乗せてもいいかも」
「……その場合誰がどこに入るんだ……?」
気恥ずかしさからやんわりと断りそうな麟をどう引っ張ってこようか、2人がうーん、と考えていると、着込んだコートの袖にひらりと小さな結晶が舞い降りた。
「……あれ、コレ、雪?」
「! 本当だ、これ雪です ……!ずっと透明なドームの中だったから、初めて見たかも……」
温暖化が進み、ただでさえ都市部では雪が降らなくなった上に、祝詞斗が住んでいた横浜ブロックは重要行政地域として透明な素材で作られた球状のドームに覆われ、天候から気温、湿度まで管理されていたため、「本物の雪」を見るのは生まれて初めての経験だった。
「あれ、でも札幌もジューヨーギョーセーチク? じゃなかったっけ。今日はジンコーコーセツ? もないはずだよね。何で雪が降ってるんだろう」
三依が疑問を抱きながら空を見上げるが、当然かなりの高さにある天井など見えるはずもない。そう言われてみれば、と祝詞斗も一緒に上を見上げたものの、雪が頬に舞い落ちるだけだった。
「多分、このあたり一帯は安全度が高いからドームが空いてるんじゃないか? 人工降雪機だってただじゃない。本物の雪が降っているなら、そのほうがいいんだろう?」
2人が顔を戻すと、そこには白い息を吐きながら温かいココアを2つ持った麟が立っていた。
「あ、ボク達に買ってきてくれたの!?」
「勿論だ。男に二言はない……まあ、晶理さんは大丈夫だって言ってからスタッフさんに渡したけど……」
「ありがとうございます!」
「ココアだー! リンさんありがとう!」
右目が隠れていても分かるように優しく笑う麟。先輩からの温かい差し入れに心も体も温まる2人。そろそろ到着手続きも終わるだろうと、元康と晶理の元へ戻ろうとしたとき、あの……と遠慮がちに話しかける女性たちの声が聞こえた。
「あの……違ったら申し訳ないんですけど……もしかして、『Midnight Phoneix』の方ですか?」
「え?」
「……やっぱり、そうですよね! 神風祝詞斗くんと、美笠浜三依くんと、寿麟さんですよね! わたし達、すっごく好きで……こんなところで会えるなんて……!」
「あ、えと……」
そいえば今日は変装らしい変装をしていなかった、と後悔する祝詞斗。女性の興奮したことを聞いて周囲の人々が集まってきている。遠くとは言えない距離にいる晶理と元康がばれるのも時間の問題だ。このままで、少なくとも良い結果にはならないだろう。
祝詞斗は助けを求めるように麟と三依のほうを見つめると、2人は任せて、と合図をした。
「え、おねえさん、ボク達のこと知ってるの? 嬉しいな! ありがとう!」
「そのグッズ……そちらのお嬢様達も、俺達のことを応援してくれているんですね。ありがとうございます」
「い、いえ、そんな……!」
あっさりと認めた2人にぎょっとすると、三依は右手の人差し指をそっと口元にあてた。
「でもお……キョーのことは、ナイショにしといてほしいな!おねえさん達、ボクと約束してくれる? 」
「!!!」
流石5年目のベテランと言うべきか、一瞬にしてアイドルスイッチが入った三依が、その可愛い見た目からそれ以上にかわいらしい声で手を合わせると、喜びか興奮か、はたまた驚愕か、取りあえず静かになった群衆はすぐに各々了承の意を示して去っていった。
「次のライブ、絶対サイコーにするからいっぱい見てほしーな! 」
最後の一人が去っていくまで「『Midnight Phoneix』のかわいい・ピンク担当」の名の通りに手を振る三依。全ての群衆が日常に戻ったことを確認すると、ふう、と一息つき、残ったココアを飲み干した。
「ありがとうございます……こういうの、初めてで……」
「流石三依。この手の対応は俺より上手なんじゃないか?」
「ま、たまーにあるからね。ちゃんと変装してなかったボクにも落ち度はあるし? シュート君にもいずれ覚えてもらうけど、キョーはトクベツ!」
あんなうまく対応できるのか……? と祝詞斗がやや不安げな顔をしていると、2人から到着手続きが終わったからタクシーでホテルに向う旨が連絡された。
「お、じゃあ俺達も行くか。写真は……まあ、三浦さんに撮ってもらうか」
「ちぇ……リンさんにもやってもらいたかったのに……」
残念そうにする2人と安堵する1人は、晶理と元康が待つタクシー乗り場に向かった。
「えーと、オレ達の部屋は……?5階のどこだ……?全部一緒に見える……」
チェックインが完了し、鍵に書かれた部屋番号を頼りに進む祝詞斗。まるで戦争中とは思えないほど絢爛な――活動家が見たら「こんなものより非中枢部の防御壁の建設をしろ!」とメガホンを片手に叫びそうな――造りの廊下をキョロキョロしながら進むが、やや方向音痴の彼は自分が逆方向に進んでいることに気が付かない。
「祝詞斗君、確か麟と三依君と君の部屋はあちらだったはずだ。私と元康の部屋の隣だ」
「あ、晶理さん! ありがとうございます。ちょっと迷っちゃって……」
「まあ無理もないだろうな。このホテルは見た目重視で建設された海外からの賓客や報道陣向けのもののはずだ……故に、機能性はやや低い」
「やけに内装に凝ってると思ったんですけどそういうことなったんですね……」
「……政府も必死なんだ。いかに自国が戦争とはほど遠い平穏な暮らしをしているかを見せつけるか、にな」
「え?」
「いや、何でもない。……向こうに特別に貸し切ってもらったエクササイズスペースもあるから、時間があったら見てみたらいいだろう」
「え、そうなんですか? 振り付けの確認しておこうかな……」
祝詞斗は一瞬表情を曇らせた晶理には気づかないまま、あまりに遅い彼を迎えに来た麟に伴われて自室へと向かった。




