第61話「Beyond The False Dawn」
中心点は動かない。
ロベリアの猛攻はより過激になる。
引き続き各国からのミサイルや、宙に浮かせたいくつもの携帯型レールガン掃射。
ここへ来る前に瓦礫をいじって創ったバイオウェポン。
さらにはビルそのものを巨大なレーザー砲に変えたりして強大な破壊力をぶつける。
「塵にしてあげる」
ロベリアのひと言で、ハックした人工衛星を改造。
監視し見守るそれは、あっという間に地上へ下す神罰のような兵器へと変わる。
恐らく今の時代はおろか、数百年経たねばその雛形すら完成しないだろう逸物。
「衛星との視覚共有、ターゲット・ロック。軌道補正、完了。命中精度120パーセント……10、9、8、7……」
カウントダウンののち、いくつもの衛星兵器から放たれる軌道レーザー。
ミサイルやレールガンなど比にならない威力を誇る。
この世のどんな光よりも明るい熱を発しながら、目標地点へ1ミリのズレもなく着弾。
衝撃とともに大地が割れて、地面深くまで抉れるさまは、その威力がどれほどの強大なエネルギー質量であったかを物語る。
もう廃墟どころではない。
雨が数日降れば、そこに湖でもできてしまうのではないか。
そんな地形が変わってしまうほどのクレーター。
その中心で、リーネットは何事もなく佇んでいた。
「なんて……こと……ッ!」
ロベリアの表情が驚愕で歪む。
リーネットにダメージどころか、その場から1ミリとも動いていない。
すべての力が振動エネルギーとして消えていく。
物理法則などあったものではない。
「運命はワタシを選んだはず。ワタシにディライラを与えた……ッ。すでにこの世の頂点に立っているハズなのに……ッ!」
ロベリアは犬歯を剥きだすように歯軋り。
アドバンテージは一気にひっくり返った。
見下ろしているはずなのに、リーネットがジッと見てくることに圧を感じて後退りをしてしまう。
キョトンとしたあどけない顔、だったかもしれない。
ガンを飛ばすとか、冷徹だとか、そんなものではなかった。
しかし、ここで異変に気がつく。
「光の本数が、増えている……?」
いつの間に、と驚いてこそいたが、それがなにを意味するかと考えたときの恐怖がぬぐえなかった。
リーネットの背中に生えていた光のサイズは大小さまざまだったが、機能的には大差はないだろう。
しかし、それが増えるとなればそれだけ出力があがる。
できることが増えるということ。
それを分析するため、片目だけ覆うバイザーを装着。
これまでの戦闘・行動データをもとに、簡易的な未来予知装置を創ったのだ。
「アナタのその力はよくわかった! でも、それはあくまで防御面での話。攻撃を見切れば、チャンスは必ず────」
言いかけた瞬間、バイザーごと砕くようにリーネットの拳が顔面に突き刺さった。
(────え?)
予知、不能。
ロベリアの目や、機械でもとらえられないほどの速さ。
立った状態から、いきなり最高速度での肉薄。
しかも敵意や殺意も微塵も感じなかった。
怒りや憎しみといった過程をすっ飛ばして、容赦のない一撃。
はやロベリアにのみ降りかかる現象、『災厄』である。
「がっ!!?」
思った以上のパワーで吹っ飛ばされる。
まだ比較的無事だったビル群を突き破り、地面を転がりながら受け身。
恐怖の中で感じたのは殴られたという感覚ではなく、強すぎる力場に引っ張られたような、そんな抗いがたい現象。
顔を上げた瞬間にはリーネットがもう目の前にいて、また拳を突き出そうとしていた。
防御、しかしそれが通用しない。
作用反作用の法則というものがあるが、それすら振動エネルギーとして消え去っていく。
リーネットからすれば、当たった際の衝撃も感触もない。
なんの手ごたえもないゼロの状態であらゆる物を粉砕できるほどの威力で殴ってくる。
さらに速度の限界も肉体疲労も、すべてが振動エネルギーとして消えるため、コンマ数秒の内に何万発、何億発ものパンチを可能とした。
ここまでくれば、もはや濁流というにふさわしい暴力である。
防御を崩され、今まさに吹っ飛ばされようとしているロベリアの肉体に、それだけの量の拳が炸裂した。
「がぁぁあああああああああああああああああああああああああああああ!?」
怪能の持ち主としての再生が追いつかない。
ディライラを駆使して再生速度と肉体強度を高めても、すべては無に帰す。
リーネットの攻撃が終わったときには、あつらえた衣装は真っ赤に染まり、ロベリアの心は完全に圧し折れてしまった。
あまりにも遠い距離を吹っ飛び、勢いのまま無様に地面を転がりながらたどり着いた場所は偶然にもあの建物の真ん前。
建国の起源にして、今は記念館として扱われている古城だった。
「あが、あ……ぁ……わ、ワタシが、こん、な」
四肢が動かせない。
首の骨も折れている。
ただの人間ならすでに塵だが、それが余計に地獄を長引かせていた。
「腕と足……、首……あぁ、なおった、かな? でも、もう、これ以上は……」
限界。
肉体的にも精神的にも打ちのめされたロベリア。
そんな彼女の目の前に、また一瞬でリーネットが現れる。
つぶらな瞳で満身創痍のロベリアを覗き込むように見ていた。
リーネットはしゃがむように片膝をつき、拳を振り上げる。
「────ッ!」
ロベリアは反射的に目をつむった。
────カラン、カラン……。
直後、リーネットの足元から軽い金属音が響く。
「…………」
リーネットの動きが止まった。
音の正体に目を向け固まっている。
空の薬莢だ。
カプノスに託されたふたつのそれが、コロコロと転がってリーネットの足にコツンとぶつかる。
「…………ぁ」
この状態になってリーネットが初めて言葉を発した。
そしてガタガタと震えはじめた。
背中の光が大きく、千切れんばかりに振動する。
本来処理されるはずの感情が、リーネットの力に拮抗し始めていた。
ギギギとぎこちない動きをしながら、空の薬莢を手に取る。
リーネットは約束を果たそうとしていた。
リーネットは思い出した。
どうしても、守りたいものがある。
そのために、ここへ来た。
自分を失ってもかまわないが、この約束を破ってしまっては本末転倒だ。
そのための行動であるのなら、自分を害するものではない。
むしろ自分にとってはある意味有益なものなのだ。
こじつけのようなロジック、もしくは感情。
それに、まだ能力としては未完成だったことも手伝ったか。
そういった理由から、わずかながらもつけいる隙が生まれたのかもしれない。
右手と左手、双方にひとつずつ。
互いの頸部に同時にそれを押し当てた。
「がっ!?」
「────ッ」
薬莢の効果が現れる。
ロベリアは一瞬だったが、リーネットはだいぶ時間がかかった。
リーネットがすべての怪能のエネルギーを回収したときには、もうクタクタで動けなくなっていた。
「これでテメェの夢物語も、終わりだな……」




