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第59話「白気」

(なにあれは? リーネットの怪能は自身や触れたものをバネにする力。彼女の奥の手? いや、だったらすでに出してるはず……)


 そんな疑問を抱くロベリアなど露知らず、リーネットはまたあの時間の経過とともに来る奇妙な感覚に身を委ねながら逃げ回る。

 身体も心もしんどいはずなのに、それがじんわりと体外へ送られていく感覚。


 全身の細胞が整い、筋肉が高いパワーを維持しながらほどよいバランスをとっている。

 早鐘を打つ心臓も、荒い呼吸も、徐々に落ち着いていった。


 視界がクリアになっていき、身体が軽くなる。

 その感覚は時間が経つにつれどんどん色濃くなっていった。


 これだけ動いているのに、危機から脱していないのに、心の底から澱みが落ちていく。

 自身を傷つけるありとあらゆる因果から、解き放たれたように。


「逃がさない!!」


 地獄のレースが続く中、ロベリアはドローンのようなものをいくつも創造する。

 小型のレーザー砲を搭載した、もはや夢物語であろう遥か未来の発明。

  

 リーネットをとらえ、一斉掃射。

 リーネットはドローンに視線を向けるも、驚く素振りも避ける動作もしなかった。


 爆炎と衝撃波が街を襲う中、リーネットは無傷で走る。


(そんな、まさか! 確かに着弾したはず。狙いの精度は現代技術をはるかに上回るから、万が一にも外すなんてありえない)


 さらに驚くことに、リーネットは自身の身体をバネ化していない。

 普通に走っている。しかしその速度はロベリアを上回っていた。


 背中のバネ状の光の本数も増えている。

 リーネットが動けば動くほど、それは振動し遥か空の彼方へと消えていった。


 ロベリアはバイザーのようなものを出現させ、リーネットをスキャン。


「リーネットから伸びてるあの光……触れられるわけではないみたい。ただの、光? いや、そんなはずはない。まさか計測不可能?」


 天高く、かつ四方八方に伸びるバネ状の光。

 まるで翼のように大きく振動しているが、原理は一切不明。


 あの光はどこに繋がっているのか。

 はるか宇宙の領域か、それとも人類が到達できないほどの高次元空間か。

 ……いや、どこにも繋がっていないのかれない。


「あの光はなに? 『ビヨンド』の新たな段階?」


 確かめたい。

 そう思った矢先、リーネットは足を止める。


 すでに瓦礫と焼け野原となった区画のど真ん中でリーネットは佇み、背中を向けたままロベリアを待った。

 

「────」


 リーネットは言葉を発さず、表情も先ほどの焦燥の色はない。

 目を見開くようにぼんやりとした感じだった。


 苦痛も喜びもなく、憎しみも悲しみもない。

 山吹色の光子で全身を輝かせながら、自身の手や身体を不思議そうに見た。


「さっぱりわからない。リーネットは、『なに』になったというの……?」


 ロベリアは異様な変異を遂げたリーネットを前に冷や汗をひとつ。

 リーネットがリーネットでなくなった。

 そんなバカげた矛盾めいた感覚で、脳が誤作動を起こしそうになる。


 現にリーネットから敵意も殺意も感じなかった。

 ただひとつわかることは、────リーネットのビヨンドは、超えてはならない境界を超えた。


 怪能が強化されるということは、それだけ人間から離れていくということ。

 すなわち、存在の定義が怪異側へとよっていくということだ。


 そのことはロベリアも怪能の持ち主として感覚で理解していた。

 だからこそ、ロベリアは確認のための一手を放つ。



 パイロキネシス。

 ロベリアのそれは、視界に入ったものはどんなものでも発火させる。


 結果、彼女の姿が見えなくなるほどの勢いで炎は上がる。

 しばらくジッと見ていたが、結果はある意味思った通りだったと顔が引きつった。


 炎の中でリーネットは顔色ひとつ変えず佇んでいた。

 じっとロベリアを見たまま、微動だにしない。


 その代わり背中の光は大きく振動していた。

 その様子を見て、観察・考察する。


 彼女の身になにが起こっているのか、だんだんとわかってきた。


 あのバネ状の光は、内外問わず肉体的な負荷や制約を振動エネルギーとして逃がす機能を持っている。

 感情が薄らいでいるのも、それすら振動エネルギーとして変換されているからだろう。

 あらゆる干渉を受けようと、リーネットの存在は『一定』に保たれ続けるのだ。


 

 舞い踊る炎の中で涼し気な顔のリーネットは、まるで夜明け前の静けさと冷たさを放っていた。


 炎はやみ、周囲に静けさが覆う。


「リーネット……アナタ、その力は一体?」


「────」


「どういうことなのかしらね? ビヨンドとの相性が想像以上に良かったからなのか、それともアナタはほかの持ち主よりずっと使っていた時間が長かったからそのぶん進化も早かったか……今となっては知りようがない。ワタシも知らない怪能の未知なる部分……」


 リーネットは反応しない。

 視線こそ向けられているが、それ以外のものはなかった。


「その背中のバネみたいな光……一体どれだけの量のエネルギーを流せるのかしら? ちょっと興味が湧いたわ」


 ビヨンドを超えたビヨンド。

 ビヨンドのさらに先にあるパワー。


 不変を司るビヨンド。

 変幻を司るディライラ。


 まるで太陽と月。

 頂上決戦は、最終局面へと移り変わる。

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