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第57話「火湖」

 自国の軍事要塞から都市に向かってミサイルが発射された。

 それが自国政府に伝わるのはそう時間はかからなかった。


 そればかりではない。

 隣国や海を越えた国からも、同じようにミサイルが発射され、あと数分後に都市に向かって着弾することがわかっている。


 弾道ミサイル迎撃システムや魔導防護システムは、機能せず……。

 この不可解な攻撃に各国政府や軍は、瞬く間にパニックに陥った。


 衝撃波によって車とコンクリートとアスファルトが砕け宙に舞い、炎が命を貪り喰らう。

 その破壊力から現場はうめき声と死の空気が蔓延する、燃える炉と成り果てていった。


 リーネットは跳ぶ。

 ミサイルは自動追尾を兼ねるように、妙な目玉がいくつもあった。

 ロベリアの能力は全世界にまで及んでいると知ったとき、彼女がスポンサーと表現した理由がわかり忌々しく舌打ちする。


 第二波がいつ来るのかは知らないが、とにかくロベリアから距離を離した。

 しかし、ロベリアにはその動きすら筒抜けである。


 そればかりか都市内にある監視カメラを怪能で改造し、リーネットの動きを完全にとらえられるまでに機能向上。


 さらに、映った映像から次の行動を予知シミュレートする。

 どのタイミングで振り向くのか、呼吸をいつ整えるのか、どの通りを逃げようとするのか、衛星からの映像も駆使してより精度をあげることで、リーネットがどう動くのかをすべて見えるのだ。


「オイ嘘だろ、もうミサイル来やがった!」


 数十発からなるミサイルが、リーネットの軌跡をたどってきた。

 ビルとビルの谷間をくぐり抜けて、執拗にリーネットを追いかけまわす。


 時折方向をミスったミサイルがビルに直撃するが、その反動でビルが倒壊。

 リーネットの行く手を阻むように落下してくる。

 すべてが攻撃だ。


 猟犬を用いたハンティングのように、ロベリアは薄笑いを浮かべながら遠巻きに確認する。

 爆発が連鎖し、悲鳴と怒号が炎と黒煙の中へ消えていった。


 あれでどれほど死んだだろう。

 しかし、リーネットはまだ逃げ回っている。

 

 2発ほどミサイルに直撃はしたようだが、大したダメージにはなっていないようだった。

 しかしかまわず第三波を向かわせる。

 そしてもっと徹底的に追い詰めようと、ロベリアはまた別の準備にかかった。


「クッソ! このボケナスがぁ!」


 逃げ回るうちに鶏冠とさかにきたリーネットの反撃ビヨンドにより、ミサイルはみるみるうちに撃墜さていく。

 伸びる拳を突き出し、両腕を鞭のようにしならせた。


 しかし、攻撃と爆発の余波でさらに街は多大な被害を受ける。

 リーネットの意図とは裏腹に、周囲は地獄と化していった。


 苦い顔をしつつ、ロベリアと距離を開け過ぎたことを悔いた。

 こうなることを織り込み済みでここまで仕掛けてきたのだとすれば、ほかの怪能の持ち主よりまったく容赦がない。


「この様子だと、まだミサイルが来やがるな。目的のためなら街なんかどうなってもいいってか!」


 身を隠してから被害を見る。

 視線の先には瓦礫と悲しみがあった。


 崩れた店は見覚えがある。

 流行りの服をしつこいくらいに勧めてくれる女性店員がいたところだ。


 その隣のカフェも立ち寄った。

 あそこのバナナ・オ・レは格別だった。


 ふと揺らめく思い出も、今は黒ずんだ空気が漂うばかりである


「あの場所からずいぶん離れちまったな。だが気配で追えるはずだ。見たところ高みの見物きめこんでるだろうからな、そこまで移動はしてない……はずッ!」


 予想通り、移動するにつれてロベリアの気配を感じ取れる。

 移動こそすれ、まるで散歩のような速度で別の方向へと向かっていた。

 ものの数分でロベリアに会合する。


「見つけたぞコノヤロウ! ミサイルなんてふざけた攻撃しやがって、ボケッ!!」


「お気に召さなかったようね」


 と、ロベリアはせせら笑う。


「おい待て、まさかまた……」


「ええ、もうじきまた新しいのが来るわ」


「ファック!! テメェ覚悟しろ!」


「どうやってワタシを攻撃するつもり?」


「ぐっ」


「クスッ、そうよね。無闇に近づけば我がディライラの餌食になる」


 余裕しゃくしゃくといった感じで、ロベリアは拳銃を取り出した。

 さっきの魔導衛士が持っていた物のひとつだ。


 カプノスがそうするようにガンプレイをしてみせる。

 弾は抜いてあるようで、回るたびに引き金がカチカチと鳴るもそれ以外に異常は見られなかった。


「……なんのマネだ」


「知らないの? 男の人はね、銃をこうやってクルクル回すのが好きなものなのよ」


「なんで今? んなこと聞いてんじゃねえ」


 ロベリアはピタリとやめた。


「無粋な奴。じゃあいいわ。今度はワタシも戦ってあげるから」


「なにを言って────」


 そう言いかけたとき、目の前の変化に度肝を抜かす。

 手に持った拳銃が瞬時に大きさを変え、形を変え、火器から兵器へと様変わり。


「携帯型超電磁砲(レールガン)


 そう唱えるとロベリアは2メートル大の鋼鉄の塊を片手で持ち上げ、標準をリーネットへと向ける。

 これもまたデータを盗み見たものを再現した逸物。


 まだ企画段階でこそあるが、科学と魔術の融合技術を用いることで現代扱われているレールガンをより軽量化、さらに威力と速度も従来を遥かにしのぐ。


 それでいて魔力もバランスよく用いることで電力の消費は最小に。

 部品の消耗や負荷もコーティングを施すことでより軽減されるなど、ほかの点を見ても従来より極めてECOな兵器となっている。

 

 まだ足りない部分や弱点はディライラで補助・補強。

 ゆえに今ロベリアの手元にあるのは、人類が目指した完璧以上の出来の力だ。


 ちなみに完成は数十年先とされている。


「ハハハ、撃てよ。ンなもん効くと思ってんのか?」


「言っておくけれど、ミサイルとはわけが違うのよ。見せてあげる」


「え、ちょ────……」

 

 躊躇なき試し撃ちが、街を襲う。

 立ち並ぶビル数件に巨大な風穴があき倒壊していった。


 凄まじい熱がビルの壁と骨組み・内部構造を溶かし、ドロドロとした光を放つ。

 この威力に、リーネットは思わずあんぐりと口を開けた。


「わぁスゴイ♪ けっこう癖になっちゃうかも」


「……武器を置き話し合おう」


「イヤン」


 レールガン連射。

 怪能の効果もあり、弾丸は無限と言っていい。

 機関銃のように撃ちだされる破壊の権化が、必死に避けまわるリーネットを襲う。


「わあああああバカバカバカバカ!!」


「アハハハハハハハハハハ! アハハハハハハハハハハハハハハハハ!」


 これから先の時代に生まれるであろうシステムや兵器、そして生命。

 その能力をはるかに凌ぐ逸物すら創造できるディライラ。


 ロベリアは世界を掌握し、世界を超えた。

 魔術も科学も、もう彼女を殺すことはできない……。


「カスカスカスカスカスカスカスハゲハゲハゲハゲハゲハゲ、ハゲェー!!」


 ただひとりをのぞいて。


 

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