表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/63

第35話「空の薬莢」

「ま、ま、また邪魔者がひとりぃ!」


「うっほ! 生で見るとめっちゃ際どい衣装だなオイ」


「コラ、一応神様だよ。……一応ね」


「どうせ自称だろ? それにアンタだって何発も撃ってるだろ」


「……なんで来た?」


「いや、こっちに来たほうが面白いかなって。大丈夫大丈夫、あのふたりが今頑張ってるから、多分」


「絵はどうした?」


「隠してるよ安心しろ。抜かりはねえ」


 面白そうという理由は半分嘘だ。

 実際はカプノスが心配だったから。


 リーネットは、カプノスは地味に命を懸けていると感じていた。

 自分たちは不死だが、彼がどうかはわからない。


 ここでレイカ・クロユリに敗北した場合、彼はどうなるのだろう。

 普段自分たちのことを気にかけてくれる分、柄にもないことだと思いつつもリーネットははせ参じた。


「うし、ブッ飛ばそう」


「まぁ、火力が高くなって悪いことはない。さっきより楽に戦えそうだ」


「おのれ……恨めしや、仏敵。焼いて、砕いて、引きちぎってやるぞおおおお!!」


 法剣と槍で嵐を巻き起こす。

 薙ぎ、刺突、唐竹、まとうは断罪の炎と審判の雷。


 リーネットが躍り出て拳を交えるも、互角の戦いを演じていた。

 いや、この接戦においてはまだ愧悦天が若干有利だ。


 武器術はもちろん、炎と雷(エンチャント)によってバネ化しようと関係なくダメージを与えてくる。

 

「くう! カプノス!」


「右に頭傾けろ」


「オッケー!」


 言葉だけの連携。

 弾丸はリーネットの顔横を通り、愧悦天の左目に当たる。

 しかし怯むことなく鬼のような形相で、ヘラヘラ笑っていたリーネットを法剣で薙いだ。


「ヤベッ!!」


 ガードも虚しく、力で押し切られる。

 裂くような速度でお堂を越えて、枯山水にある巨岩に激突した。


 円形の凹みの中心でリーネットは大きく目を見開いた。


「リーネット!」


「ふん、その程度? バネの身体には驚いたけど、なんの脅威にも────」




「いいや、一か八かだったが……やればできるもんだ、アタシも!」


 円形の凹みの正体。

 それはバネ化してクッションのようにリーネットを支える巨岩の表面だった。


 ラナフィーが周りのものを刃物にしたように、リーネットも触れたものをバネに変えた。ほんの一瞬でだ。タイミングがずれればひとたまりもなかっただろう。

 ぶっつけ本番で彼女はピンチを塗り替えた。

 

「物をバネにしてる間はアタシはバネにはなれない。まぁそういう縛りってやつか。だったらそれで戦ってやる────よッ!」


 巨岩から弾けるように、元の方へ飛ぶ。

 その途中でへし折った木の枝を手に、先端を鋭くしたバネに変えた。


 逆手に持ち、今まさにカプノスと戦っている愧悦天の後頭部、小脳に当たる部位に思いきり突き刺した。


    ────ズシュウウウッ!!


「あっがぁああ!?」


 勢いのあまり目が飛び出るほどの衝撃を受けた。

 バネ化した枝は見事に突き刺さったようだ。


 愧悦天はそのまま前のめりに受け身も取れず転がり、柱に激突する。

 彼女とぶつかった衝撃を利用し、リーネットはうまく着地した。

 

「ほい、ただいま」


「お帰り。さぁもうひと仕事だよ」


「おう」


 カプノスは銃を一丁、華麗な背面投げでリーネットに渡す。

 リーネットはカプノスと並ぶように銃を構えた。


「撃ち方はわかるかい?」


「アンタのマネをするよ」


「グッド」


 勢いよく立ち上がった愧悦天。

 枝を後頭部に刺したまま、獣のような咆哮を上げる。


 もはや理性もなく、最後の足搔きと言わんばかりに身を振るった。

 そんな彼女が振り向いた直後に、その両目を穿つように同時に弾丸を放った。


「が……っ、ぶばぁ……ッ!?」


 両目は鮮血とともに空洞となり、愧悦天はビクンと痙攣し硬直した。

 気づけば雨はやみ、周囲に静けさが漂う。


 どこからかの微風が各々の髪を揺らした。

 それに押されるように愧悦天が倒れ、桃闇天同様に、塵となって消えていく。


「どうやら、精神が折れたらしいな」


「だろうな。空間も崩れていく……」


「外に出られるみたいだ」


 寺院も、木も、枯山水も。

 すべてはこの風に漂う塵に同じ。


 大仰な雰囲気が立ち込めていたこの空間も、こうなればあまりにあっけないものだった。


 神様になりたい。

 その想いすら今や儚いもの。


 彼女の言う神とはなんだろう。

 自分を変えたい・生まれ変わりたいという意志の裏返しか。


 それとも救いの神なき現実というニヒリズムから逃げたいという、倒錯の象徴であったか。

 

 明確な答えなどないし、もう然したる興味もない。

 そんなとき、ふと、ふたりの足元から重力的感覚が消える。


 お互い、細く長くほつれていき、遥か上空の一点へと吸い込まれていった。

 …………気がつくと、ふたりは現実世界へ戻っていた。


「ほお、体育館の倉庫か。いい隠し場所だね」


「だろう? ……お、コイツは」


 跳び箱にもたれるように眠る少女に目を向ける。

 その隣には真っ白になったキャンバスが倒れていた。


「レイカ・クロユリだね。恐ろしい怪能だったな……」


「おう、どうやら黒い花も桃闇天も全部消えたらしいぞ。歓声が聞こえてくる。皆助かったらしい」


「そうか」


 カプノスはレイカの顔を覗き込むようにしゃがみながら、懐から『空の薬莢』を取り出す。

 

「それは?」


「これに怪能を封じ込めるんだよ」


「アンタが前に言ってた摘出ってやつか?」


「そういうこと」


 首筋に当てると「うっ」とレイカが唸り、一瞬顔をしかめる。

 だがすぐに安らかな顔色になり、一筋の涙とともに寝息を立て始めた。


「こんで終わり? もっとこう、複雑な儀式とかやるのかと」


「わたしがそんなの知るわけないだろ。こんなもんだよ」


「へぇ~。意外にアバウトなんだな」


 医者が慣れた手つきで注射をするように、速攻で終わった。

 あまりのあっけなさにリーネットは拍子抜け。


 そして踵を返したとき、


「……怖いかい?」


「なにが?」


「こうやって怪能を取られることがさ」


 リーネットの動きが止まった。


「君、その力を気に入ってるようだからね。失うの、嫌だろうなって」


「嫌って言ったら、やめてくれんのか?」


「いいや。わたしだって自分の居場所に帰りたいし、こんな力を現実世界に置いておくわけにはいかない」 


「ちなみに聞くわ。なんで置いとけない? 別に現実世界がどうなろうと、アンタには関係ないだろ」


「怪異のテリトリーの話はしただろ? バランスなんだ。怪異が範囲を広げれば広げるほど、ほかの怪異が追いやられたり、取り込まれたりする可能性がある。わたしも例外じゃあないんだ。今は個人の範囲でとどまっていても、怪能はいずれ能力範囲を拡大させる。今回の愧悦天のようにね。そしてやがては世界を蝕む怪異そのものになる」


「……なるほど」


 再び歩き出し、倉庫のドアを開けた。


「答えを聞いてないな」


「アタシの答えは、もう決まってる」


 いつもとは違う、邪念のない気怠そうな顔で、


「別にアンタに恩を感じてるわけじゃないけどサ。……仇で返す、なんてことはしない。約束する」


「……いいだろう。君を信じよう」


 リーネットはそのまま去っていった。

 カプノスの目から見ても、彼女の背中は寂しさを物語っていた。



 怪能の持ち主は、ついに最後のひとり────。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ