表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/65

第34話「黒衣愧悦天」

 黒百合クロユリ家の家訓は『文武両道』。

 3人兄妹の末っ子として生まれた麗香レイカのプレッシャーは尋常ではなかった。


 長男・長女ともに優秀。

 武術に魔術、果ては茶道に華道、そして舞踊。

 各々の才能が日々の生活で開花する。


 しかし麗香はそんな兄たちに比べると、平凡そのものだった。

 父母も彼女に落胆するも、まだマシだった魔術の才を見込んで海を渡らせる。


 彼女の孤独な日々が始まった。

 ただ、絵を描いているときだけは孤独を紛らわせた。

 中でも神仏を描いているときは、身も心も洗われるようで。


 しかし、だんだんとその絵にも影が落ちてくる。

 ちょうど魔術の才に限界を感じたときだった。

 

 ────救いなど、ない。

 それが彼女が引きこもるようになって得た虚しい真理だった。

 その証として、麗香もまた怪能の持ち主に選ばれてしまう。

 

 神が自分を救わぬのなら、自分が神になればいい……。

 怪なる導きが、ねじくれた解を彼女に与えた。




「かかれえええ!!」


 愧悦天を守るように、桃闇天が欄干をよじ登ってくる。

 彼女が合図を送ると一斉にカプノスへ飛びかかった。


 しかし、わめき声は銃声によって断末魔へと変わる。

 二挺拳銃が火を噴き、弾丸が桃闇天を貫いた。


「くぅ、なにをしているのです! 賊はひとりです!」


「こんな狭い場所でワラワラ集まったって、いい的になるだけだ」


 数で圧倒する戦法。

 しかしそれには密集し過ぎて動きが限定されてしまっている。


 神速射撃と神速のリロードが、次々に数を減らしていった。

 彼の瞳はこの空間の闇よりドス黒く、引き金を引くことに一切の躊躇がなかった。


 殺し屋が情なくターゲットを仕留めるように。

 ハヤブサが上空から獲物を爪で捕え、引き裂くように。


 だが愧悦天も負けじと、再度合図を出すと、今度は左右前後から現れ始める。


「参ったな。一撃で死んでくれるからまだいいが、こうも多いと……」


「隙あり!」


「おっと!」


 天狗飛斬の術。

 彼女の得意とする剣技が、燃え盛る法剣によって繰り出される。

 防御の暇はない。


 回避の後、すかさず眉間に向かって撃つが、槍の放つ雷で砕かれてしまう。

 愧悦天はニヤリと得意げに笑った。


「無駄です。そんな武器では私には勝てない」


「そうだといいね」


「自信たっぷりな……随分と侮られたものですわ」


「侮っているのは君の方だ」


「なんですって?」


「忘れたのか? ここは仮初とはいえ、レイカ・クロユリの夢の中でもある。……つまり」


 愧悦天でも見切れぬ瞬間移動。

 背後に回られ、脳幹を撃たれた。


「わたしのホームグラウンドでもある」


「ガパァ!?」


 彼女を守っていた桃闇天もうろたえる。

 しかしカプノスは続けて発砲。


 何発も受け、血と脳漿が飛ぶ。

 振り向く暇すら与えない。


 連続してダメージを受ける愧悦天だったが、白目を向いたまま雄叫びを上げた。


 法剣と槍を振り回し、周囲を炎で焼き、雷で穿つ。

 双方とてつもない破壊力で、魔術の域を超えている。


「ギギギギィイイイイイイイイ!!」


 桃闇天は巻き添えを喰らい消滅。

 そんな中、カプノスは炎と雷を見切るように優雅な徒歩で、リロードを行う。


「ゼイ、ゼイ、ゼイ……よくもこの私に」


「力は強そうだけど、まだ怪能での実戦経験はないと見える」


「たったその程度で、神たる私に勝てると、思うなぁ!!」


 愧悦天がカプノスへと躍り出た。

 剣を振るい、槍で突き、炎が揺らめき、雷が迸る。


 舞うような鬼神が如き武闘。

 怪能で再現した神秘は、まさしく人ならざる妖艶な大気を放っていた。

 これにはカプノスも焦る。


 炎と雷で弾丸が遮られ、剣と槍で弾かれる。

 真っ向からでは隙をつくことは無理だった。


「ほほほほ、防戦一方ですわね」


「そうでもないさ!」


 弾丸が飛ぶ。

 したり顔で弾こうとした瞬間、愧悦天の視界からそれは消えた。


「なに!?」


 弾丸が曲がった。

 鋭角に、直角に、弧を描くように軌道を瞬時に変え惑わしてから、彼女の顎下に着弾し、


 ボカァアアッ!


 ────そのまま脳天を貫いていった。


「あがっ!!」


 未知の動きに反応できず、大ダメージで硬直が生まれた。

 その隙に、カプノスはまた何発も叩き込む。


 神速のリロードを駆使し、まるでマシンガンのように正確に彼女の全身を撃ち込んでいった。


(な、なぜ……!? なぜ神たるこの私が、こんな男に!?)


 だが考える間もなく眉間に2発喰らう。

 カプノスのワンホールショットにより、頭蓋骨を貫通していった。

 これにはさすがの愧悦天も、膝をついて息を荒くする。


「気はすんだかな?」


「この、このぉ……!」


「惜しいね。現実世界でまともにやってりゃ、もっと強かったかもしれないのに。……生憎、夢の中でわたしが負ける道理はないんだよ。ごめんね」


「!!」


「神様になりたい。……わたしには理解できないが、きっと今の子には、素敵な願いなんだろうね」


 否定するでもなく、寄りそうでもなく、淡々と感想を述べる。

 だが、それを侮辱に感じたレイカは立ち上がり、剣と槍を構えた。


「まだやるのか……」


「黙りなさい! 私は、私は神に、なって……それで!」


「神になる。言いたいことはそれだけ?」


「ッ!」


 またカプノスはリロードを行う。

 ただそれだけで、レイカは身を震わせた。

 

 また撃ち込まれる、容赦なく。

 もはやトラウマとも言える連撃に、歯をカチカチと鳴らした。

 だが怪能によって歪められた精神がそれを許してくれない。


 逃げなければよりも、殺さなければが強まっていく。

 そんな彼女に銃口を向けたときだった。





「大将、やってる?」


 後方からの声に、カプノスは綺麗な二度見をする。


「うっふ~ん、来ちゃった。テヘペロ」


 無表情でおどけてみせたのは、リーネットだった。


「は?」


 これにはカプノスも素の反応になる。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ