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第32話「カプノス悶絶」

 リーネットは伸びる手足を器用に操り、群れを相手に躍り出る。

 魔術でもなんでもない、ただの体術だけで桃闇天を倒していく姿に、見る者は絶句していた。

 だが、勇気も与えた。


 士気が上がり、それぞれの連携が桃闇天を退けていく。

 ルヴィアはと言うと、表立って怪能を発動はさせず、ギャラリーに紛れ桃闇天を密かに潰していった。

 

 アダムスカの戦闘で湧いていたが、リーネットがさらに注目を浴びていく。

 図らずもそれが功を奏し、ルヴィアの補助が活きた。


 凄まじい速度で数が減っていく。

 学院側の士気が上がっていった。


 そんな中、さらに朗報ともいえる出来事が起きる。

 ラナフィーの参戦であった。


「なぁんでラナフィーちゃんが~、こんなメンドクサイことに巻き込まれなきゃいけないんですか~? おかしいですよね~………………ブッ潰す」


 引きこもっていたら黒い花が隅っこに生えており、中から桃闇天が出てきた。

 特に驚く素振りすら見せず瞬殺する。


 ドア越しにわめいていたリーネットの話を思い出して、ラナフィーは「アイツの呪いだ」と忌々しそうに呟き、身支度を整え外へ出た。

 

 オーディンによる切り裂きが桃闇天を襲う。

 

 一方、中庭から離れたカプノスはというと、ひとりで物陰に座り込み頭を抱えていた。


「やっちまった……確か、アダムスカだっけ? なんであのときアイツとしゃべっちゃったんだ。無視すりゃよかったじゃないか! あんなベラベラと、余計に興味持っちゃったじゃないか、もおおおおおおおおおおお!!」


 テンションが高くなったことで迂闊な行動に出てしまった。

 冷静になっていくと自分のミスに気がついてひどく悔やんでしまった。


 リーネットたちに色々口を酸っぱくしていたのに、自分がこうでは示しがつかない。

 いや、もうそれ以上に恥ずかしい思いで死にたくなった。死ねないけど。


 しばらくするとリーネットたちが悶絶しているカプノスを見つけた。

 そして事情がわかると馬鹿笑いを始めるリーネットだった。


「ダッハッハッハッハッ!! いいじゃんかよカッコいいカッコいい! ハハハハハハハハハハ!」


「そういう先生も素敵です!!」


「すまない、ちょっと黙っててくれ。ホント、自分でもどうかしてたんだ。褒められても嬉しくない」


「まぁまぁ、二挺拳銃カッコいいもんな。はしゃぎたくなるもんな。うん」


「下手な慰めを言うな」


「先生、素敵です」


「君はそれしか言わないね」


 誰にも知られない片隅の小休符。

 日常に近い感覚の会話でカプノスの精神状態は落ち着きを取り戻す。


 そんなとき、


「あ、やっぱりこんなところにいた~」


 テンション低めなラナフィーだった。


「お、出てきたのか」


「部屋にバケモノが出たから気晴らしでーす」


「ラナフィー。君も協力してくれると心強い」


「あら、どうもおじさま。でも残念。ラナフィーちゃんはラナフィーちゃんで好き勝手にやりますので。アナタたちの協力なんてしません」


「アナタ……」


 ルヴィアが睨むも、ラナフィーは意に介さず。


「あんだけ人をボコボコにしておいて、こっちがオッケーなんて言うと思います?」


「そもそもアナタが悪さをするからいけないのではないですか?」


「あれれ~~~? ルヴィアさんは自分の力でまったく《《そういうこと》》をしなかったとでも?」


「おー、煽られてっぞルヴィアさんよ」


「アナタは黙っててください」


「ヒヒヒ、なんならもっかい潰し合うかぁ? ここでよぉ。アタシはかまわねえよ?」


「ラナフィーちゃんもいいですよぉ? もう敗北はあり得ませんから」


「調子に乗らないでくださいよふたりとも」


「だぁー! やめろっ! 今そんなことしてる場合じゃないだろッ!」


「こういう状況でやるから面白れぇんだろうがッ!」


「そういう問題じゃない! ホラ、静まれ静まれ!」


 カプノスがその場をおさめ、話題を今回の怪能の持ち主へと切り替える。

 情報を共有し、それぞれの考えを聞くこととした。


「レイカ・クロユリ……あぁ、知ってます。私のクラスメイトでした」


「ほう、君のか。それで?」


「なんだか成績が伸び悩んでいたみたいで、それで心を患ったようです。それ以来ずっと寮に籠っていて」


「お前と一緒だな」


「ウザッ、ラナフィーちゃんはそんなんじゃありません」


「……なるほど、つまりこういうことか。彼女は怪能を得たのち、自分が描いたものを現実に具現化させた」


「でも動機がわかりませんね」


「うん、だがそんなものはどうでもいいんだ。問題はレイカ・クロユリが今どこにいるかだよ。ここまでの情報をもとに、なにか気づいたことはないかい? なんでもいい。気になったことでも、疑問に思ったことでも、とにかくなにか言ってほしい」


 カプノスはそう言うが、それらしい意見どころか、彼女らはひと言も発しなかった。

 自分の足で探すしかないかと思った矢先、「あ」とリーネットがなにかを思い出す。


「どうした?」


「絵、だ」


「彼女の作品かい?」


「あぁ、そいつの部屋に入ったときさ、妙な絵があったんだ。あの黒い花と種をすりつぶして、それで描いたみたいな絵がさ」


「……その絵は、今も部屋の中に?」


「あると思う。その絵を見てるときさ、すっごい気配がしたんだよ。持ち主の気配っていうの?」


 しかし、レイカ・クロユリはいなかった。

 カプノスは数秒の沈黙ののち、リーネットに頼んだ。



「その絵、ここに持ってきてもらうことは可能かな? わたしなら、謎が解けるかもしれない」


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