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第31話「トゥーハンド」

 妹が避難場所から離れていることなど露知らず、アダムスカは中庭へと訪れていた。

 まだ避難できずに襲われていた生徒たちを助けていた。


 結果、自分が囲まれる羽目になった。

 誰もが彼を助けようとするも行く手を阻まれ、向かうことができない。


 孤立無援の状態であっても、アダムスカは涼しい顔をする。

 桃闇天がひしめく中庭で、彼は戦う覚悟を秘めた眼差しで周囲を観察した。


「グアアアアアア!」


 正面の1体が腕を振り上げ襲い掛かった。

 生徒たちから悲鳴が上がる。


 しかし、



   ガキィン!!


「グギ、ギ……!?」


 桃闇天の攻撃は防がれた。

 アダムスカは腰に隠し持っていたヌンチャクを瞬時に引き抜き、


「なるほど、魔力がないのにこの膂力りょりょく。本当に怪異じみてきたな」


 桃闇天の振り下ろす腕を、苦もなく受け止めていた。

 

「おお、久々に見るな。アダムスカの戦い」


「どうやら、面白いものが拝めそうだぜ」


「ちょ、ちょっと! そんなこと言ってる場合!? アダムスカ君がピンチなんだよ!」


「大丈夫だ。────アダムスカは、強い」


 見守る生徒たちの言う通り、アダムスカの身軽で強烈な攻撃が開始された。


 魔導探偵には荒事が付き物だ。

 アダムスカは過酷な現場を生き抜くために独学で戦い方を学んだ。


 独特な体術に実戦経験から得たものを加え、古今東西の武術の一部を組み合わせる。

 さらには昔から趣味だったヌンチャクの扱いの向上にも努めた。

 

 それが今の強さに至る。

 神速の手さばきでヌンチャクを振り回し、鋭い身のこなしで包囲網を難なく瓦解させていった。


 しかし臆することなく襲いくる様は、まさに漆黒の雪崩。

 ヒト型であるというのが余計に気色の悪さを加速させる。


「次から次へと!!」


 後方から襲い掛かって来ようと、左右から同時に来ようと、ヌンチャクを振るえばたちまち頭部が破壊されていく。

 

 腐ったトマトが勢いよく汁をぶちまけるように。

 アダムスカは溢れ出る数を、気迫と咄嗟の判断でいなしていった。


 しかし、敵はどこからともなく現れる。

 

(あと2.3体倒せば隙間ができる。……そこから脱出だ。皆のいるところに戻れば、こちらも数で対応できる。さぁ、もうひと頑張り────)


 次の瞬間、季節外れのからっ風が吹いた。

 桃闇天たちがゆっくりと風の吹く方向に視線をやる。


「な、なんだ?」


「バケモノたちが、一斉にそっぽ向き始めたぞ?」


(なんだ? どうしたんだ? ……あの方向に、誰かいるのか?)


 アダムスカも目をやるが、誰かがいるようには見えない。

 しかし桃闇天には。《《それ》》が見えていた。 


 風とともにやってくる男がひとり。

 ────ミスター・カプノスだ。


 普段の雰囲気はなりを潜め、瞳の黒さの奥にはより強い殺意のようなものが渦巻いている。


 それだけではない。

 腰のガンベルトが徐々に黒く染まっていった。


 一挺だった銃は二挺に。

 弾丸や予備のシリンダーまでびっしりと取り付けられている。


「これにチェンジするのは久しぶりだなあ」


 カプノスが近づくにつれ、桃闇天もまた殺気立つ。

 一定の距離まで来た直後、文字通り火蓋は切られた。


 桃闇天たちが動くよりも、カプノスの引き抜きのほうが早かった。

 そこからは電撃的な速度での射出とリロード。


 現代の拳銃ならともかく、彼が持っている銃でのリロードを素早く行うことは至難である。

 ましてや動き回り、相手との距離を保ちながらであればなおのことだ。


 しかし、まるで予知能力でもあるかのようにスマートに動き回りながら、正確に桃闇天の頭蓋を撃ち抜いていった。

 神速のリロード・シリンダー交換により、増えるよりも早く数を減らしていく。


 二挺拳銃でそれらをこなしているのだから、桃闇天も狼狽し思うように動けずに死んでいった。

 戦闘向きじゃないと自称するが、腐ってもそこは怪異側の存在。


 あっという間に敵を蹴散らしていく

 無論、この光景は生徒や教員には見えない。


 一方向に飛びかかっていくかと思えば、バタバタと消えていく不可思議な光景だ。

 しかし、魔眼ペルセポネを開いたアダムスカには、おぼろげながら見えている。


(またあの黒い影だ……今度は銃を持っているのか!?)


『んん~? あれ、君って……』


 出会ってしまった。


「お前、一体……!」


『……フフフ』


 アダムスカが思わず動きを止めている間に、カプノスはもういくつか駆除する。

 彼の表情は見えないが、なんか小馬鹿にでもされた気分になったアダムスカだった。

 

『おっとぉ、イラつかせてしまったかい? 今、割とハイな気分なんだ。戦闘モードだからね。悪かった。別に煽ってはないんだよ。そうだ、君もさっさと逃げ────』



 ドゴォ!!


「舐めるな。自分の身は自分で守れる!」


 ムキになったアダムスカとカプノスで桃闇天の討伐が開始。

 とんでもない速度で中庭から桃闇天がいなくなっていく。


「キャアアアアアアア!!」


「なに!?」


 桃闇天がひとりの女子生徒を人質にとるように移動してきた。

 武器を捨てろと言わんばかりに唸っている。


 ────カチャ。


「お、おい、なにしてんだ! やめろ!」


 カプノスは迷うことなく撃鉄を起こし、銃口を向けた。

 アダムスカが止める前に引き金を引く。


 弾丸は当然真っ直ぐ飛び、────貫いた。


「…………ぇ、え、え?」


「グ、ピィィイ……ッ!」


 女子生徒の肉体をなにごともなく弾丸がすり抜け、桃闇天に当たる。

 なにが起きたのかわからず、女子生徒はひたすら怯えていた。


『ここは任せたよ。わたしは別のほうへ行く』


「な、なんだと!? おい待て!」


 しかし、すぐに左目に痛みが走った。

 魔眼の限界だ。

 左目を閉じざるを得ないので、もうカプノスの姿は見えない。


「…………行ってしまった。なんなんだ? 何者なんだアイツは?」


 人質になってしまった女子生徒を連れ、自身も避難をする。

 妙な悔しさと疑念を心に残したまま、皆とともにこの場をあとにした。



「戦っ争じゃああああああああああああああああああああああああああ!!」


 一方、別のところではリーネットがいつも以上に張り切っていた。

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