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第29話「桃闇天」

「アタシを差し置いて、なに楽しそうにやってんだよクソボケども!」


 花より生まれたる異形の群れに、リーネットは嬉々と躍り出る。

 魔力によるダメージは今ひとつで、劣勢に立たされていた面々は彼女の登場に度肝を抜いた。


 リーネットの噂は当然ながら他クラスまで轟いている。

 バネで飛び回るとなれば当然だろう。


 それを新たなる噂、『夢で知らない男に貰った』という本人の言い分も、当初はバカげていると考えたが、今実際こうして彼女の戦闘能力を見れば……、


「オラァアアッ!!」


 ────ドゴォ!


「す、すげぇ。雑魚みてぇにブッ飛ばしていく」


「まさか本当に、本当にあの力を貰ったっていうのか? 悪魔との契約みたいに」


 そうこうしているうちに、群れはあっという間に一掃された。

 倒した異形は塵となって消えていく。


「ふぅ、数が多いな。それだけ殴り甲斐があるってもんだが」


「……お前おかしいよ」


「おいやめろ。すまねえな。助けてくれてありがとう」


「いいっていいって。アタシはほか行くから」


「ま、まだ戦う気なの?」


「戦わねえと蠅女が湧いて出てくるぞ? 食堂にまで入られてみろ。アタシは怒りを抑えきれなくなる」


「う、嫌なこと言わないでくれよ」


「そうだ。あの蠅女を出しまくってる張本人がいるはずなんだ。なんか怪しい奴見かけなかったか?」


 全員が首を横に振る。


「くそう、もう1回頭脳男に聞いてみるしかねえな」


 リーネットは足早にあのクラスメイトの元へ向かう。

 ラナフィーのときに世話になった少年であり、魔導探偵の親友・スパイクの元へ。


 道中、異形を撃退しながら混乱の渦中をかき分けていくと、ノートパソコンを大事そうに抱えた彼が、今まさに異形に襲われようとしている場面に出くわした。


「よう、取り込み中失礼すっぞ!」


「今それどころじゃ……」


「────フン!!」


 異形たちの頭部を砕いて安全確保。

 瞬く間の現象に、スパイクはポカンと口を開けた。


「これで話ができるな」


「その、ありがとう。でも避難しないと……僕、戦いは苦手なんだよ」


「ほんの2.3分だよ。聞きたいことがあるんだ」


「今じゃなきゃダメぇ!?」


「ダメ! 答えろ!」


「ふざけないでくれ。僕は逃げるよ!」


「待て待て待て! アンタならこのバケモノどもの正体とか知ってんじゃねえかって……」


「知るわけないだろ。あんなの見たことない!」


「じゃあ怪しい生徒とか教師とか……」


「知らないってば!」


 スパイクは立ち上がり、逃げようとしたときだった。


「大声出してどうしたんだい? 君らしくもないな」


「アダムスカ! 聞いてくれ、彼女が……」


「落ち着きなよ。……へぇ、君が」


 曲がり角のほうからやってきたアダムスカ。

 スパイクを少しなだめたあと、リーネットに目を向けた。


「君が、リーネットだね?」


「気安く呼んでくれるねえ。誰だっけ?」


「聞いたろ? アダムスカだ。……ところで、君はスパイクになにを聞こうとしてるんだい? 彼は見ての通り避難しようとしてる最中だが?」


「黒い花の正体、それと怪しい生徒とか教師を見なかったかを調べてんだ」


「へぇ、仕事熱心じゃあないか」


「殴るのに困らねえからな。ま、知らねえんならいい。ほか当たるよ」


「ちょっと待て」


 すれ違いざまの制止。

 静かな気迫を感じ取り、リーネットは足を止めた。


「リーネット、君はどうして黒い花の件で、犯人がいるとわかる? しかも、探す相手は外部じゃなく、学院内の者と断定している。このボクでさえ掴んでいない情報だ。────君はなにか知っているのか?」


「……知らねえから調べてるんだろ」


「違う。黒い花のこと《《だけ》》じゃない。これまでに起きたことも含めてだ。突如現れたクレーターの中の死体、そして人を斬り刻む届け物。そこには君が関連している。違うか?」


「なにが言いたい?」


 リーネットが睨む。

 アダムスカはそれ以上のことは聞かず、ただ観察するように視線を合わせたあと、


「……ボクが君にこの質問をするのは、あの黒い花のバケモノに心当たりがあるからだ」


「!」


「え、そうなのかい?」


「あぁ、それで君に相談したくてやってきたんだが……」


「オイ、心当たりがあるってどういうことだよ。教えろ」


「……いいだろう。あのバケモノの名は『桃闇天とうあんてん』。去年の今ごろくらいに美術室で奴の姿が描かれた絵が飾られているのを見たんだ。……個人的には前衛的で好きだったけど、不評を買ってすぐに片づけられてしまったから、知ってる人はあんまりいないかもね」


 彼はとてつもない情報を開示した。

 作品であるのなら、作者がいる。


 それを描いた人物が怪能の持ち主である可能性が高い。

 リーネットはそう踏んだ。


「絵の作者は、レイカ・クロユリ。極東の島国出身の生徒だね」


「何年だ?」


「3年生。でも、ここ最近は授業に顔を出していないみたいだよ」


「ハァ? じゃあ寮に引きこもってるとかか? クッソ、また逆戻りかっ!! シャトルランやってんじゃねえんだぞ!」


「ちょっと待て、寮の部屋にもいないらしくて────あぁ、行ってしまった」


 バネとなって跳躍していくリーネットを見送りながら、やや呆れ気味にアダムスカは目を細めた。


「本当だったんだね。バネになってるって」


「驚きだろう?」


「確か、夢で誰かに貰ったって話だっけ?」


「眉唾物だけどね」


「そんな伝承は聞いたことがない。でも、もしかしたら……」


「なにかわかったのかい?」


「これまでの事件と彼女の謎の能力には、なんらかの繋がりがある」


 直感、しかし確信に満ちていた。

 レイカ・クロユリを彼女に追わせればなにか動きがあるかもしれない。


 少なくとも黒い花に関して、双方は無関係ではないのだから。

 もう少し情報がほしいと、リーネットへの関心に火がついていく。


  うわああああああああ!


          キャァァァアアア!!


「……む!? やばいな。どんどん数が増えてるらしいぞ」


「い、今の悲鳴って……オイオイ、どうすれば」


「スパイク、君は避難するんだ」


「アダムスカはどうするのさ!」


「探偵がこんなときに縮こまってていいはずがないだろう?」


「ふぅ、わかった。じゃあ僕は逃げるね。あ、でも君の妹は」


「大丈夫。すでに避難済みだよ」


「そうか。じゃあ気を付けてね」


「あぁ!」


 アダムスカは身を隠すようにしながら校内を進み行く。

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