聖女(仮)様 捨てられる ~3
エルンハイム侯爵家の婚約の儀は壮麗なものだった。ローエンダイム公爵が財力を見せつけてきたからだ。
対するエルンハイム家は最大の強みである国家屈指の軍隊で応えた。
経済力と軍事力、このふたつの結びつきが両家をより繁栄させるWinWinの関係だと誇示して見せたというわけだ。
婚約の相手は国王の3番目の妃の次男坊でローエンダイム公爵家を継いでいる。銀山を所有し非常に裕福ではあるが、アンナローゼとは20以上も歳が離れており明らかな政略結婚と思われた。聖女の証が現れないときには妻として迎えるという条件で婚約が成立している。
この婚姻を成立させたい両家にとってはアンナローゼが聖女でない方が都合がいい。
そしてアンナローゼはその条件をクリアした…はずだった。
(愚かな)
エルンハイム侯爵は自室でソファに深く身を沈め、ため息をついた。
せっかく漕ぎつけた婚約話を危うく破談にさせられるところだったので、娘に対しては怒り心頭だったが、うまく乗り切れたことで安堵し、むしろひどい疲れが襲ってきていた。
当のアンネローゼは婚約の儀がとっくに終わった後で、こっそりと館内に戻ってきていた。
男との逢引きの挙句、馬車が事故に遭い一晩気を失っていたなどと、聖女どころか貴族の娘でなくとも、親に怒鳴られてしかるべき失態。
だが父侯爵は声を荒げることさえしなかった。
「おまえの行先は修道院くらいしか思いつかん。しばらく部屋から出るな、誰かに見られたらマチルダと名乗るように」
そして娘を送ってきた盗賊らしい男に大枚の金を渡して口止めをした。
「そんじゃ、あとは親子水入らずで」
そう言ってラビオは窓から消えてしまった。さすがにここは退散するしかない、くらいの空気は読めるようだ。
「私がいては邪魔なのですね。でも、マチルダはどうなります? 私が入れ替わらなければ彼女は」
「問題ない、たいそう喜んでいたぞ。考えてもみろ素晴らしい玉の輿だ」
その言葉がとても本当とは思えない。
そもそも使用人が主人に逆らえるわけもないのだから。
「けれどもし、偽物と知れたら彼女は」
「それもむろん、承知の上だ。どちらにしろもう間に合わん」
アンナローゼは唇をかみしめると、スカートを摘み淑女の礼をした。
侯爵はそれを顧みることなくアンナローゼの部屋を出て行った。
父の冷たい声、眼差しのすべてが物語っていた。
もうここで彼女にできることはない。




