聖女(仮)様 捨てられる ~2
「何があったか話してみろ」
ラビオにそう言われて手下は仔細を話し出した。
アンナローゼの婚約者の到着が早まり、館ではまだ夜が明けきらぬうちから婚約の儀の準備が始まったという。
走り回る従者たちから聞いた話ではもちろん姫さまも叩き起こされて支度している最中。
マチルダというメイドは昨夜から帰っていないが、忙しさでそれを気に留める者もいないのだそうだ。
「そんな」
「親分、この女は本当に姫さんなんすか?」
「クロードが間違えるはずないし、身に着けてる宝石も本物だ。ということは」
「マチルダだわ、彼女が替え玉になったのよ。マチルダは私にそっくりなの、影武者として私専属のメイドになったくらいだもの」
「そんでも侯爵様はあんたの父親なんだ、間違えねえだろう」
「お父様が私とマチルダを間違えたことはないわ…」
「それじゃ、知っていて誤魔化す気なんだな」
「ああ、なんてことなの! マチルダが私の代わりにおぢと結婚させられてしまう」
「おぢってw」
「お願いよ、ラビオ! すぐに私を返して。お金ならいくらでも払うわ」
「そう言われてもなぁ」
「借用書でも何でも書くからっ」
「婚約式とやらが終わった後でこそっと入れ替わればいいんじゃねえか」
「その前に、偽物とバレてしまったらマチルダが…お父様はきっとマチルダに罪をかぶせるわ」
「うへえ、おっかねえ」
「仕方ないのよ、そうしなければ公爵がこの縁談を破談にしてしまう。そしたら侯爵家へのダメージは計り知れない。いちばん困るのは領民だわ」
ほぉ、という顔でラビオはアンナローゼを見返した。
(お貴族様なんてのは領民なんてハナも引っ掛けないと思っていたんだがな)
小娘というより子供みたいなものだと思っていたのに、侯爵家の矜持は持っているらしいと、少しだけ感心した。
「わかった、この運賃は高くつくぜ!」
ラビオはニヤッと笑って立ち上がると言った。
「馬車を用意しろっ」
アンナローゼとラビオを乗せた馬車は夜が明け始めた街道を疾走した。
(お願い、間に合って)
外から見たら何不自由ない暮らしだった。
しかし早くに亡くした母、厳格に領土を守る父、年の離れた腹違いの兄弟たち、聖女かもしれないというだけで腫物に触るような従者。
アンナローゼは常に独りだった。
ただ影武者となって傍に居てくれたマチルダだけが、心のよりどころ。
その彼女が自分の我儘のために命さえ危ないと思うと、身が引き裂かれる心地だ。
(マチルダ、マチルダ、マチルダ)
「うぉっ!」
突然、馬車ががくんっと弾むと同時に馬が棹立ちになった。
「きゃああああっ」
天地がひっくり返り、大きな影がアンナローゼに覆いかぶさり…。
そこで彼女の意識は途絶えた。




