エピローグ~2
ローエンダイムとエルンハイムの合同演習が祈りの丘で行われている。
あの日以来、初めての演習だ。
「結界術式展開、乙女の盾イージス発動」
見渡せる空一杯に美しい魔法陣が描かれ、可視化された結界が現れた。
一年も経たぬ間にずいぶんと強化され、さらに広範囲に守ることができるようになっている。
「ってー!」
号令と共にローエンダイムの大型砲が火を噴き、結界に向かっていく。
轟音あげて結界にぶつかるとその力は分散され、さらに無力化された。
「素晴らしい威力ですな、父上」
エルンハイム騎士団の団長が侯爵に話しかけた。
「公の場では閣下と呼べ。魔導士たちが頑張ってくれたな」
「彼らはあの場にいたのですか」
「皆、口々に己の不甲斐なさを嘆いておった」
「…かつて二十年前の疫病の時もそうでしたが、安易に女神を頼っていては人の進歩はありませぬ。これからは国の防御も、医療も、人の力で対処せねば」
「まったくだ」
「一時は聖女の軍事利用も取り沙汰されましたが、さすがにそれは」
「守るべきものに守られるようでは、何のための軍隊か」
「弔砲ーーーーーーーー!」
青空に響く声は愁いを帯びていた。
十五発の砲弾が弧を描き、人々は聖女の魂よ安らかなれと祈った。
その聖女の名は明かされていない。
にもかかわらず、その年に生まれた女の子の名前、人気ナンバーワンは『アンナ』だった。
公式な発表はなかったが、あの夜、祈りの丘で起きたことは、遠目からでもただならぬこととわかっただろう。そしてそれが人の力だけでは成しえなかったことも。
人の口とは不思議なもの。偉業を成し遂げた聖女の名が『アンナ』だと、誰からともなく噂が広まっていった。
かつて聖女は都市伝説だった。それは侯爵家が聖女の存在を秘匿するため、でたらめな噂を流布したからである。
だが今は皆、聖女を呼ぶときには手を合わせ、畏敬を込めて祈りの所作をする。
もちろん、冗談でも競り市に聖女が現れることはない。




